27話 約束
感想いただきました。ものすごく具体的なアドバイスもあり、とても感謝しています。
俺は敵の目の前まで全力で跳躍する。
攻撃を避ける事は2人でもキツかった。それを1人でか…。
地上に降りたり、建物のそばにいたらまずい。被害が出てしまう。
俺は今まであまりしてこなかった方法を取った。
俺の翼はしなやかでもなければ、片方しかない。よって安定した飛行は出来ない。だから俺は今まで推進力としてしか使ってこなかった。
しかしその推進力には、人間を何十メートルも飛ばす力がある。
俺は使った翼をすぐに元の形に戻して力を溜め、再度飛んだ。
飛ぶ、戻す、溜める。これを繰り返し続けて、なんとか空中に体を保つ。
その姿はまるでトランポリンで跳ねてるようだろう。
しかしこの行動には大きな弱点がある。
飛んだあとは移動ができないのだ。
その瞬間を突かれたら俺は負ける。
さぁ、敵はどう出る!
俺の思念に応えるように敵は動き出した。
敵は左腕を大きく振り上げる。
引っ掻き!?当たったら死は免れない。本能がそう言っている。
どうする?急いで決めろ!
上、下、左、右。どこに逃げても敵は攻撃の機動を変えるだろう。絶対に当たる。
後ろか?振り返ると、ビルが立ち並んでいる。これでは動けない。
じゃあ前しかないな。
俺は敵の右脇に向かって翼を使い、全力で飛ぶ。
流石に振り上げた腕を、逆側に下ろす事は出来ないだろう。
飛んでいる途中なのに、敵の攻撃は当たっていないのに、いきなり身体に衝撃が走った。
原因は!?
それより今どうする?体勢が崩れた。敵の腕はすでに振り下ろされている。翼は使えない。
避けれないん!
頭に『死』という言葉が浮かんだ。
視界に鳩が見えた。
あぁそうか、鳩がいるって事忘れてたな…。
いや、忘れるな!
敵は強い。だから立ち向かう!
今は辛い。だから限界を超える!
状況は苦しい。だから一歩進む!
約束したじゃないか!
この強大な敵に立ち向かうため、疲労で辛い現状で限界を超えて、突破口の見えない苦しい状況で一歩進む!
俺の身体は自然に動いていた。
翼が使えない現状は変わらない。使えるのは腕と足。
その両方を使い全力で空気を押し出した。
当然少ししか動かない。
しかし、その少しで軌道上から外れた。
腕をスレスレで躱し、再度力を溜めた翼で空気を叩くようにして飛ぶ。
敵の目の前、異常な動かし方をした四肢がとてつもなく痛む。
だが、そんな事を気にする余裕なんてない!
俺は腕に…いや、腕だけに異能を込めて全身全霊で、腕が砕けるほどの力で敵の顔を殴る。
ドゴォォォン!!!
辺りに爆発音のようなものが鳴り響いた。
俺は身体に力を入れる事もままならず、地面に向かって落下していく。
受け身を取る余裕すらない。
このまま死ぬのか…。
そう思った。
最後に自分の活躍を見たかった。
敵の姿を見た。
敵は背中から倒れていた。
あれじゃあ立つのに時間が掛かるだろう。
ビルなどの建物が下敷きになっている。
すいません…。自分が不甲斐ないばっかりに。
この街を復旧してくれる方々に謝る。
そろそろ終わるのか…。
その瞬間、誰かにキャッチされた。
「無理するなよ…鉄平」
知らない声の筈だ。
しかし、返事は喉を滑るように出た。
「ごめん、兄さん」




