26話 一変
それから10分ほど経っただろうか。
戦況は拮抗…いや、徐々に劣勢になっていった。
敵の攻撃を避け続けるだけでも体力、そして集中力がすり減っていく。
敦さんたちの戦闘も、なんとか耐えてる。といったいった具合だ。
それに比べて相手は、体力に底がないかのように動き続ける。熊はともかく女性もだ。
このまま戦闘を続けていたら何処かが崩れる。
何か一手欲しい状況なのだ。
しかしその一手となり得る、弱点に攻撃する方法は見つかっていない。
方法を見つけるか、女性を捕らえるか、体力が尽きるか…。
その瞬間、状況は一転した。
空から、いくつものゲートが出現したのだ。
「なんなんですかねーあれー」
拓人君はいつもの口調ながら、焦りを隠せていない様子だ。
それもそのはず。おそらく一番疲労しているのは拓人君だからだ。
「分からない、とにかく気をつけて!」
無責任だと思うが、俺にはこれしか言えない。
周りの人たちも異変に気付いたようだ。
山本さんたちや、敦さんたちも空を見上げている。
皆が焦りを見せる中で、女性だけが笑みを浮かべていた。
「やっと来たわね、職務怠慢じゃないの?」
返事はない。
しかし引っかかる物言いだ。
やっと来た?あのゲートはやはり誰かの力なのか?という事はあの女性は『異能生物を作っている組織の人間』なのか?
そうだったのなら、この熊が女性の命令を聞いているのにも納得できる。
考えが纏まりそうだったが、状況がそうはさせてくれない。
ゲートから大量の『鳩』が飛び出してきた。もちろん異能生物だ。
「拓人君!」
「分かってますよー!」
拓人君に合図して、とりあえず敵から距離を取る。
鳩の数は10…50…視認できる範囲でも数え切れないほどいる。
おそらくだがほとんどが危険度1だろう。
しかし危険度は問題ではない。数が多すぎる。
敵から離れた俺たちは、敦さんのいるところへ急ぐ。
「敦さん!指示を!」
周りには、山本さんたちを含む全員が集まっていた。
「この女性は俺が抑えとく。鉄平は1人で熊を引きつけておけ。そのうちに他の人たちが鳩を始末しろ」
「「了解!」」
返事をした瞬間、全員が一斉に動き出した。




