23話 被害
女性の異能は見た限り、『牛』だと思う。
いや、それより何故あの女性は異能を持ってる?異能警察官でもマフィアでもない一般人が持っていていいものなのか?
まさか養成所から卒業した人なのか?それとも別の組織の人間なのか…。
考えて分かる事じゃないな。今考えるべきは、俺は何をするかだ。
敵の狙いは俺だ。俺が女性を捕らえようとすると、熊が俺を捕らえようとする。
ならば敦さんたちの邪魔にならないように熊の相手をするしかないな。
しかし改めて見るとデカいな。超デカい。
倒す事は考えない方がいいと思う。虎徹さんたちが女性を捕まえるまで被害を出さないようにする。
それが俺のするべき事だ。
考えをまとめた途端、もう一度敵の腕が俺を叩きつけるように振り落とされた。
相変わらず遅く見えるが、さっきの経験を活かして全力で回避する。
腕が地面に激突し、鼓膜が破れたと錯覚するほどの音が鳴り響く。
敵は瓦礫が崩れる音とともにもう一度腕を振り上げた。
俺がいた場所には小さめの建物があった筈だ。
しかし腕が叩きつけられたところには、文字通り何もなかった。
時間を稼ぐだけでも甚大な被害が出る。
作業員の人と約束したじゃないか!被害を出さない、仕事を全うする。って。
じゃあどうする?
敵の攻撃が当たった場所は問答無用で跡形もなく消え去る。
全て防ぐか?無理だろ!攻撃させない?どうやって!
ん?当たった所が消え去るんだよな?
建物に当たらなければいいんじゃないか?
そう思った瞬間、俺は拓人君に合図した。
「拓人君!俺を上に!」
これだけで俺の考えが伝わったようだ。
「分かりましたー!」
拓人君は俺の付近に急降下し、足で俺の肩を掴む。
そのまま上空へ飛び上がり、敵の周りを飛び回る。
飛び回る俺たちに向かって、敵はもう一度腕でなぎ払う。
その動作が見えた瞬間に拓人君は俺を離した。
拓人君はそのまま加速して攻撃を避ける。
俺も翼を使い、腕の軌道上から外れる。
敵の腕が空を切った。
もの凄い風圧だ。しかしそれだけだ。
建物に被害はない。俺たちにもダメージはない。
敵が体勢を整えるとともに、拓人君は俺の事をキャッチする。
「やりましたねー」
「そうだね。ナイス」
これを何度も繰り返すだけだ。
その間に山本さんたちが弱点を見つけてくれる。敦さんたちが女性を捕らえてくれる。
そう信じて俺は、俺たちは俺たちの仕事をするんだ。




