21話 右側
キリがいいので短めで。
俺が地面に近づくにつれ、辺りの風景がより鮮明に見えてくる。
異能生物はまだ暴れていないようで、その周りだけが荒れている。
他の部分は以前の襲撃のままだった。
ようやく人の顔が視認できるほど地面に近づいた。
異能生物の足元にいる人は、20歳くらいの女性だった。
その女性は、異能生物に全く恐れを抱いていないように見える。
その事を不思議に思いつつも、女性を助けようと軌道を修正した。
女性との距離が5メートルくらいになっただろうか。無表情だった女性の顔に、急に表情が浮かんだ。
歪な、歓喜に満ちた笑みだった。
俺は反射的に後退してしまう。
女性は俺の事を見つめながら言う。
「やっと見つけたわ!双鬼の右側!」
何を言っているんだ?双鬼?右側?
俺は一つの考えに至った。
虎徹さんが言っていた。マフィアに左側がいると。
2対の鬼で双鬼?
しかし何故俺たちを探していたんだ?
俺の思考を遮るように女性は声を発した。
「さぁ熊ちゃん、右側を捉えて!」
女性は異能生物に指示を出した。
異能生物はその指示に従うように、俺に向かって顔を向けてくる。
「おい!逃げやがれ!」
虎徹さんの声だ。
俺は言われるがまま、全力で後方に跳ぶ。
周りを見ると、偵察に行った3人は住民の避難を済ませたようで、俺の近くに寄ってくる。声を出してくれた虎徹さん達は全員揃っているようで、これもまた俺の方に走ってくる。
全員揃ったところで、敦さんが状況の説明を求める。
これに対して、まずは潤さんが答えた。
「えー、まずは僕たちが来たときはあの熊はまだ小さかったです。住民の避難誘導してる間にすっごい大きくなってました。あとは、あそこにいる女性は最初から一切動いてません。同様に熊も暴れていません」
それに続いて、俺が説明する。
「俺があの女性を助けようとしたら、こう言われました。やっと見つけた、双鬼の右側。と。その直後に異能生物に、俺を捕まえるように指示を出していました。敦さん達が来たのはその直後です」
「なるほど…。状況は理解した。敵は戦闘の意思があるようだな。俺たちは鉄平を捕らえられないように敵を倒す。マフィア、協力してくれるな?」
敦さんがそうまとめた。まるで何故俺が狙われているのか、知っているかのように。
「当たり前だ、足引っ張んなよ!」
虎徹さんは敦さんの問いかけに、当然だと言わんばかりに返事をした。




