20話 停戦
虎徹さんが、戦闘の意思はない事を証明するかのように異能を解除して言う。
「争ってる場合じゃねぇよなぁ?行くぞ!」
俺たちも全面的に同意する。
今は謎の音の鳴る方へ向かうべきだ。
「分かった。異能生物の可能性もあるしな。取り敢えず停戦だ、協力しよう」
敦さんもこう言ってる。
もし異能生物だったら急がなければ…!
「私が先に行って確かめてきましょうか?」
「それなら俺もー」
「僕も行こうかな?」
偵察を引き受けてくれたのは桃ちゃんと拓人君、そして潤さんだ。
確かにこの3人ならすぐにたどり着けるだろう。
「分かった、お前達頼んだぞ」
敦さんもそう考えたようで、3人が偵察に行く事になった。
…まてよ?潤さんは立つのがやっとだったよな?
しかし潤さんは、多少ダメージはあるようだが動ける程度には回復している。
「潤さん、怪我は?」
俺はたまらず聞いていた。
「あぁーこれ?応急処置しかしてないからダメージは残ってるんだけどね、まぁ動けるからいいでしょ?」
よく分からない事を言うな…。
「応急処置?」
「これも知らないの?異能を使ったら怪我とか早く治せるんだ。まぁものすごい体力使うから乱用は出来ないけどね」
つまり俺や山本さんの怪我の回復は異能によるもの?
そして治るのに時間がかかったのは体力を消耗しないようにするため?
「お前らもその程度の知識はあるだろ?なんで教えねぇんだ?」
虎徹さんが敦さんを問い詰める。
それに対して敦さんは冷静に返す。
「終わったら全て話す。取り敢えず偵察に行ってくれ」
俺たちは敦さんの言葉を信じて、この問題が解決するまでは聞かない事を決めた。
それと同時に桃ちゃん達は偵察のために、音の聞こえた方へとんでいった。
「なんでそんな信用できんだよ…」
虎徹さんの独り言を俺は聞き逃さなかった。
先に行った3人を追いかけるように走り出す。
音の鳴った方角は、俺たちが路地裏に入った所。
つまり新大久保駅だの方だ。
もし駅に異能生物が出現したら!?
そんな考えが俺の頭をよぎる。
その考えを肯定するかのような轟音が鳴り響く。
一度のみならず二度三度と…。
音は近い。
それこそ駅辺りから聞こえる。
その考えに至った瞬間、俺は全力で跳んでいた。
ビルの上空まで到達し、駅の様子を見る。
瓦礫の散乱した駅の上に、一体の異能生物がいる。
それもめちゃくちゃ大きい。
全長30メートルはある熊だ。
その周りを小さい異能のオーラが飛んでいるのが見える。
あの3人だろう。
戦いは避けつつ、住民が避難するのを待っている。
その証拠に異能生物の周りには住民が一切いない。
いや、1人だけいる。
それも異能生物の足元に!
助けなければ!
俺は翼を使い、地面に向かって急降下する。




