1話 戦闘
辺りに警報とアナウンスが鳴り響く。
「中野区に敵性異能生物、犬型が出現。危険度2。現在一般自警団が交戦中。直ちに討伐に向かえ」
警報とアナウンスが収まり日常会話の溢れる辺りは静寂に包まれる。それと同時にリーダー、熊本敦が指示を出す。いつもの光景だ。
「俺と鉄平が出る!他の者は引き続き各々の仕事をこなせ!」
「「はい!」」
思えば敦さんと2人で任務って初めてな気がする。まぁ任務の数が少ないのもあるのかな。
そんな事を考えながら準備を進める。黒い軍服を纏い医療キットなど必要な準備を済ませ、外に出ると、、、
敦さんが熊になってた。
まぁいつもの光景だ。
「行くか、乗れ」
「はーい」
やっぱこの移動を見るとそりゃ驚くよな。みんな目玉が飛び出てる。そりゃそうだ。周りから見れば熊に乗ってる変人だ。
それにしても暑い。まだ5月なのに。多分30度超えてるのではないだろうか。
雲一つない快晴。日差しが東京のビル群を照らしている。晴れや曇り、雨、夜と朝。天気や時間で景色が変わる。いつ見ても綺麗な街だ。
「着いたぞ」
「早くないすか!?」
思考を任務に集中させ、辺りを見回す。
確か犬型だったよな。
確かにいる。2メートルくらいの犬が人襲ってる。
自警団の1人が俺たちに気付いた。
「あの黒い軍服!熊のような姿!間違いない!異能警察官が来た!!」
やっぱり自警団の人たちは知ってるんだな。熊の事。でもまぁ知ってる人は多いのかな。受け入れられる人が少ないだけで…
「現況は?」
敦さんの一言で興奮は収まったようだ。流石訓練された兵士だ。丁寧に、素早く状況を説明し始めた。
「敵性異能生物が黒いモヤのようなものの中から出てきました。事前情報通り私たちの武器は一切通じませんでした。攻撃力もかなりあり、突進を食らったら10メートルは吹っ飛びます!」
「黒いモヤ?」
「はい。モヤの中から、まるでゲートを潜るかのように……」
「了解。後は任せろ」
「はい、頼みます!」
「行くぞ、鉄平。鬼を出せ」
「了解」
俺は言われた通り、戦闘態勢をとる。体の中の鬼を制御出来る程度に解放し、身体を覆わせる。その後直ぐに拳を構える。
「おい!あの身体を覆ってるって!あれが異能なのか!?半透明のオーラみたいな奴!!」
「なんだあの生物は?赤い…鬼…?」
「いやいや!右半身だけだしなんなら翼生えてんじゃん!!」
「マジかよ!カッケェー!!」
自警団の人たちはまた興奮し出した。落ち着きのない人達だよ、まったく。
戦闘開始だ。
敵が道路を蹴り、一直線に突進してきた。
「っ!速い!が、訓練で見慣れてる!」
俺と敦さんは左右に分かれて余裕を持って回避する。
「敦さん!頼みます!!」
「任せろ」
そう言うと、俺は鬼の力で強化された右足で道路を蹴ると同時に、肩甲骨辺りから生えている翼で叩きつけるように空気を押し出し推進力を得る。一瞬で敵から距離を取り、次の一手に備える。
訓練で何度もやった連携だ。敦さんが敵を捕まえて俺が勢いをつけて殴る。
俺が近くにいると敦さんが戦いづらいからな。
敵が敦さんの周りを跳び回っている。最低限の防御だけで無駄な動きがない。
「っっっ!!」
「ナイスです」
敦さんが敵を拘束した。流石の怪力だ。敵がもがく事すら出来てない。じゃあ俺がやることは一つだ。
さっきと同じように踏み込み、急速に距離を詰め、推進力を拳に乗せる。後は…
「うぉぉぉ!!」
殴るだけ。
会心の一撃。過去最高に気持ちよくヒットした。そのせいか敵の首が50メートルは吹っ飛んだ。
「お疲れ様でした」
「…あぁ」
「?」
敦さんがもう動かない敵の身体を落とす。だが何が引っかかる。いつもなら「よくやった」って褒めてくれるのに…
「下がれ!!」
「っっ!?」
頭の無い犬が道路を蹴り、俺に向かってくる。
頭吹っ飛ばしただろ!何でまだ動く!
間に合わない!回避はリスクが大きい。よってとるべき行動は…!
「くぅっっ!!」
「鉄平っ!!」
「大丈夫です」
ガード。翼と右腕で完璧に受けたはずだが思ったよりも効いたな。
「後は任せろ」
視界の端で敦さんの腕が挙げたのが見えた。
手の先には太陽の光を反射し鋭く光る鉤爪が。
「ウォォォ!!」
突進の反動で動けない敵は鉤爪に引き裂かれた。
身体は輪切りになり、黒いモヤとなって消滅した。
「やっぱすげぇわ…」
「任務完了。帰還する」
「了解」
「あれが異能警察官…」
「次元がちげぇ…」
「マジかよ!カッケェー!!」
とりあえず新宿の本部まで帰還し、椅子に座って一休みだ。だがまさか頭吹っ飛ばしたのに消えないとは…
俺がそんな事を考えていると…
「皆、聞いてくれ。今回の敵だが今までとは何かが違うような気がした」
やっぱり敦さんも違和感を感じてたか。
「何かって何スカ」
「山本さん、聞いても分からないんだから聞かなくてもいいんじゃないですか?」
「あ"ぁ"?」
「スイヤセン」
やっぱ山本さん怖ぇ。バカなんだからいいじゃん。バカなんだから…見た目も坊主で筋肉質。見るからに頭悪そうじゃん。
「あのバカは置いといて、なんですか?違う気がした。っていうのは」
「おいかりん!バカは置いといて。ってなんだよ!どういう意味だよ!」
「そのまんまの意味でしょ!?このバカ!」
「あ"ぁ"?バカって言ったほうがバカなんだよ!このバーカ」
もう何度目だこのやりとり。古来より使い古された小学生の喧嘩始めないでくれよ。19にもなって。
「あぁ。今回の敵はいつもと出現方法が違った。今回は、ゲートのようなものから出現したらしい」
流石敦さん。無視っすか。流石っす。
「ゲートから?いつもは自然発生でしたよね?」
「おいまだ終わってねーぞ!」
「まぁまぁ落ち着いて」
なぜ俺が山本さんを宥めなきゃいかんのじゃ…
「そうだ。しかも鉄平の攻撃で頭を吹き飛ばされても活動を停止させなかった」
「頭を吹き飛ばしても…。今までそんな事ありませんでしたよね?」
「異能生物が発生してから20年経つが、今回が初だ。しかも発生のペースが早すぎる。通常一ヶ月に一体出れば多いくらいだが今月はもう三体目だ」
確かに思えば違和感だらけだ。今までと全てが違う。
その違和感について考えているときに…
「新大久保駅に敵性異能生物、蛇型が発生。危険度3。被害が出ている。直ちに討伐に向かえ」
「「「!?」」」
おかしい!いくらなんでも早すぎる!
「鉄平、山本、かりん!3人で至急討伐に向かえ!敵は前代未聞の危険度3だ。気を付けろよ」
「敦さんはどうするんですか?」
「この件を上と会議してくる」
「「「了解」」」
流石の判断能力だ。
「足引っ張んなよ!かりん!鉄!」
「こっちのセリフよ!このバカ!」
正直危険度3と戦うのは初だ。どのくらい強いのかが分からない。慎重に戦わないとな。
「準備完了です。行きましょう。」