15話 左の鬼
前回の話でモチベ使い果たした卍
割と物語の核心に迫るかも知れない話です。
俺はたまらず虎徹さんに質問する。
「なんでこの能力について知ってるんですか…?」
「ん?なぁ潤!これって言っていい事?悪い事?」
虎徹さんは俺の問いに対して答えていいのか分からないといった様子だ。
「別にいいんじゃないですかね?事前に言われてませんし」
潤さんは心の底からどうでもいい。といった顔をしている。大事な情報だと思っていたが違ったのか…?
そう考えていると、虎徹さんが俺に疑問を投げかけてきた。
「お前は異能が右半身しかない事に疑問を持った事はねぇか?」
もちろんある。そして何度も思った。左にも有れば戦いやすいのに、と。
虎徹さんは俺の答えを待たずに次の言葉を発する。
「まぁ端的に言うとだな、左っ側がマフィアに居るんだよ」
「え?」
思わず言葉が漏れた。それと同時に思った。
会ってみたい。
両半身が揃えばこの能力について、異能について少しでも分かるかも知れない。
「その人は今どこに…?」
「知らねぇな。だけどお前の知ってる人間な筈だ」
「誰ですか…その人は?」
俺は質問を重ねるが、虎徹さんから返ってきた答えは求めていたものではなかった。
「なんでも答えを求めんなよ。……そうだな、お前が俺にその情報を与えるだけの価値がある事を示してみろ!」
要するに「戦え」という事だな。
この戦いには少し私情が入る。なので俺はかりんさんに確認を取った。
「戦ってもいいですか?敵の情報を貰うために」
「………分かった。無理はしないでね」
半ば強引な理由をでっち上げ、了承を貰う。
俺はすぐに戦闘態勢をとり、虎徹さんに向き合う。
虎徹さんも相対するように構える。今回は最初から爪が生えてる。さっきまでの緩んだ顔は消えて、キリッとした顔に切り替わっている。
間違いなく本気だ。
さぁ、どう攻めようか。
俺の攻撃は悉く反撃をくらったし、桃ちゃんの攻撃も全て避けられた。
虎徹さんに直線的な攻撃は効かない。
ならば俺の出来る攻撃は!
俺は翼の推進力は使わずに、足の跳躍力だけで虎徹さんに接近する。
「それさっきも見たぞ!」
虎徹さんはそう言って、さっきと同じように俺の脇腹を蹴る。
だがそれは読んでいた。だから翼を残した。
俺は翼を軽く打ち付け、突進の軌道をズラす。
虎徹さんの蹴りは空を切る。しかし虎徹さんがその程度で終わるはずがない。
蹴りの勢いに身を任せ、そのまま回転する。回転するという事は、逆の方で攻撃出来るという事だ。
蹴った方の足が地面についた瞬間に跳躍し、空中に回避した俺の前に現れる。
回転の勢いはまだ残っている。虎徹さんは身体を地面と水平にして、勢いのついた足を使って地面に向かって回し蹴りを放つ。
俺にそれを回避する手段などない。
例え回避したとしても、同じようニ撃目が飛んでくるだけだ。
ガードしたところで防げる筈もない。
この戦闘の目的は俺の実力を認めてもらう事。
一か八かの賭けに出よう。
俺は身体を捻り、虎徹さんの足に身体を向ける。
俺は迫りくる足に向かって、側面に手を伸ばす。
既に目前まで迫っている足を掴み、それを軸に蹴りの軌道から外れる。
そのまま足を地面に投げつける。
意図しない勢いがついた蹴りは逆に勢いを失い、虎徹さんは地面に不安定な姿勢で着地する。
「やるな!」
「あざす!」
俺は再び翼によって推進力を得て、虎徹さんに接近する。
態勢を崩した虎徹さんに向かって、横蹴りを放つ。
もしかしたら当たるかも?と思っていたが当たる筈もなく、軽やかな動きで回避される。
当然予想はしていた。
俺は虎徹さんの動きを真似て、蹴りで着地した足を使って踏み切り、虎徹さんの懐に潜り込む。
虎徹さんは驚いたといった表情で言う。
「おっ!この短時間で真似るかよ!」
虎徹さんに焦っている様子はない。
だがそんな事は気にも止めずに拳を握り、虎徹さんの腹に向けて振り抜く。
虎徹さんに当たる直前!俺は後方に飛ばされていた。
俺の背中に激痛が走る。壁にめり込んだからだ。
さっきまで俺がいた所を見ると、そこには腕を振り上げている虎徹さんが居る。
かりんさんたちと同じだ。認識外の速さで攻撃されたのだろう。
今の俺では勝てない…。
そう考えていると、虎徹さんが声をかけてきた。
「70点だな。思ったよりも良かったからなぁ、名前と関係だけ教えてやるよ」
今ので70点…?
内容的には絶対に負けていた。
最初からそれだけ下に見られていたのか…?
悔しいな……。
俺の表情から察したのか、虎徹さんは慰めるように言う。
「まぁ気にすんなよ、異能に対する理解が違ぇんだからよ」
異能に対する理解?マフィアは異能について何か知っているのか?
虎徹さんは、その言葉はただの励ましだと言わんばかりに話を戻す。
「マフィアに所属している鬼の名前は鬼灯治。まぁ苗字から分かるだろうけどお前の兄だ」
「兄…?」
俺に兄がいるのか?もしかして夢の中のあの少年が!?
俺は深呼吸して息を整え、提案する。
「取り引きしませんか?」