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伝染病の流行の後の日常の一シーン

作者: マツノヨ、シロー

初投稿です。このお話はフィクションです。

架空の国の一国民から見た伝染病の姿という視点で書いています。

現実の推移と全く違うかもしれません。


2020/4/16に改行を変更しました。


私は会社から帰宅し、銅コーティングされたドアレバーを回し、玄関のドアを開けて家に入った。


家に上がり、コートと靴を専用ロッカーに入れ、廊下を進み風呂場へと向かった。

専用ロッカーは消毒機能付きである。

途中でお掃除ロボットが充電スペース(消毒機能付き)から現れたため、道を譲った。

脱衣場で上着とパンツを専用ロッカー(消毒機能付き)に入れ、下着類は洗濯機に入れた。


浴室のドアを手かざしで開けて中に入った。

浴室内は温調されており、特定部位に手をかざすとシャワーが出る。

シャンプーと石鹸を使って全身を洗って、水気を拭って浴室を出て、着替えてからようやく家族の待つリビングルームに入った。


「ただいま」

「改めてお帰り」妻が答えた。

「お帰りなさい」はすでに玄関を入った時点でインタフォンで言われている。


顔を合わせての帰宅のあいさつにこんなに手間と時間がかかったのは、少し前に流行した伝染病のためである。


今では、家庭内感染予防システムが存在する。

第一に、帰宅後すぐに浴室でシャワー洗浄することができ、洗い残しを指摘する音声ガイダンス付きのAI浴室まで売っている。

また、外出着などの身に着けるものは消毒ボックスに入れておき、外出時に再着用できる。


第二に、玄関からトイレ前と脱衣場までの廊下は、外から人が帰るたびにお掃除ロボットが掃除と消毒をして回る。


第三に、通路の扉の把手は、すべて銅コーティングされており、帰って来た人間は銅コーティングされた把手以外に触れないことが推奨されている。


家庭内に感染者がいても、シャワーから初めて逆にたどれば、ワクチン接種が前提であるが、通勤を含む外出が許されている。


「今日は何かあった?」

「サトゥさんから連絡があったわ」

「用件は?」

「帰ったら連絡してほしいって」



友人にTV電話することにした。


「こんばんは、サトゥ。何かあった?」

「やぁ、スズッキ。うちの子が例の病気で陽性になったんだ」

「へー、ちょっと大変だね。何か手伝う?」

「今のところ大丈夫。買い物は宅配か、時々買いに行く程度だから、週一で半日休みを取ればいいしね。

ひと月くらい親しい挨拶はできないっていう連絡」


「わかった。手伝えることがあったら知らせてくれ。でも、私の家と同じようなシステムだと思うけど、どうやって感染したんだ?」

「多分だけど、ライブでもらったか、いろいろ買った商品の中に、誰が触れたかわからないものがあって、消毒しないまま部屋に持ち込んだかもしれない。」


「ファンならありうるか」

「今はちょっと前とは違って、簡易検査ですぐ分かるし、ウィルス増殖抑制薬を使って3週間部屋隔離した後、クリニック検査で3回陰性だったら、自由行動さ。

家も3段システムになってることは会社も確認済みだし、逆に通って家から出てマスクすればいいしね。

家に陽性者がいても、本人に発熱や風症状がない限りは、濃厚接触を避ければ仕事はできるしね。

面倒くさいしつこい病気だけど、誰でも罹るって皆わかってるから、日常生活のためには仕方ないね」


「早期発見、早期治療でそれだから、確かに面倒くさいてしつこいね」

「お前のところは70台の両親がいるが大丈夫なのか?」

「3か月ごとに予防接種してるし、大丈夫だと思う。年に1回は無料だし、2回目は半額だし」

「年寄りは補助があったな」


「先進国でも結構年寄りが死んだしな」

「そうだな、検査ができなくて致死率の高い国もあったな。

入れる病床が足りないとか、誰でも検査すると医療崩壊するとか、集団感染経路上か重い症状でないと検査しないとか、検査にかからない感染者がいて、混乱した国もあったな」

「スキンシップが希薄で、公衆衛生がよいと言いわれて、感染の広がりがゆっくりだった国でも、対策準備が遅かったり、国民に誤解や混乱を招いたところは結局時間が掛ったな」

「不安が大きい分、分かっている層が自粛を強めたから、経済がかなり落ち込んだな」


「発端の国は、強烈な対策で、驚異の短期間収束だったな」

「隔離病棟建設とか、設備装備の生産増産とか、医療スタッフが多いとか、誰がどこで何をしたか辿れるとか、すごいことだな」

「病原体特定と検疫検査と治療法確立が迅速なら、ウィルス兵器に対して最強国だな」

「使うほうにならないことを祈るな」


「結局、検疫隔離体制と医療体制が優れていて、非常時の指導体制のしっかりした国は、感染拡大が急速であっても収束と立ち直りが早かったな」


「肺を狙ってくるウィルスは性質が悪いな」


「免疫側は、体外から来る敵の発見と戦いで受けに回るから、体内にいるやつを殲滅すれば終わりじゃないってことかな」

「ちょっとでも残っていれば、スキを窺って増殖しようとするやつらだからな。

免疫が弱っていたり、肺や血管や臓器にダメージがある状態だと、肺に戦力を回せないから劣勢になりやすく、肺がやられて体に酸素が回らなくなると、エネルギーが作れないから免疫がさらに弱って、一気に重篤までいくからな」


「栄養補給の点滴をしても血流に酸素がなければどうしようもない。

酸素不足で体全体にダメージを受ける。

特に、年寄りは重症になりやすいし、回復もしにくい。

ダメージが多ければ運よく生き残っても寿命は縮むな。」

「曝されるウィルスの量は運まかせになるし、若くてもダメージが多かったり免疫が弱ってるときはあるから、ウィルスが優勢だったら重症になる。」


「危うきに近寄らないという予防は必要だが、撲滅が不可能な以上、いずれは人口の大部分が感染する。

大部分の人に免疫ができれば、免疫のない他人に移しにくくなるから、そこに至るまでは蔓延するのは真理だな。

死者をできるだけ出さないようにしながら、そうなるまでの時間を稼いで、早期発見と治療の手段とワクチンを確立するしかない。

早期に確立できたところの立ち直りは早かった。

早期発見と隔離は時間稼ぎの手段に過ぎない」

「免疫側が優勢になるまで栄養と酸素を供給し続けたり、ウィルス増殖の抑制や免疫の増加によって、

ダメージが残りにくい形で健康を回復させるには、早期発見と体調管理治療が必要だったな。」



「キスがあいさつの地域は、感染拡大が速かったな。

ひどい疫病だって最初から気づく人がいなかった。」

「そりゃ分かってなきゃウィルスを粘膜から粘膜に直接移すから速いな。

他にも、顔を触った手でどこかに触って、そこを誰かが触ってさらに顔に触れば移る。咳やくしゃみの飛沫でも移る。

マイクロメートル単位のエアロゾルでも移るらしい。」


「スキンシップが希薄で、公衆衛生がよいところは、エアロゾル以外はかなり抑制できるな。」

「だがスキンシップは必要だ。

前の困難も乗り越えるにはリーダーが必要だった。

俺たちは小さいころからのスキンシップで人となりを判断していて、問題毎に、誰の言うことを聞いておくべきかはわかっている。

だから困難に直面すれば、ふさわしいリーダーの下にまとまって素早く対応できる。」


「スキンシップがあるといろんなことを皆が話してくれるが、人となりが分かったり、その人に話してもいいことが分かるのは、小さいころからの積み重ねだね。

まあ、だから、問題のある指導者でも、国難を認識してからはまともなリーダーしてる人がほとんどだった。

見通しと対策の内容・期間と補償を最初に示したしね。

それなりに選ばれていたということだね。

ただ、対策内容に不満があればこっちからもすぐ言うけどね」

「そこのところは心の深いところで分かっているから、ワクチンさえあればスキンシップはやめなかった。

これから流行したとしても毎月ワクチン打ってでも続ける。

さすがに高齢者家族のいるお前にはやらないが。

だからワクチンは安くしてほしい。」


「普通の規則がリーダーより上にある国は、対策が遅くて混乱したらしいな」

「そんなバカな国があったか?非常時にリーダーより上なんてありえない。

規則はリーダーに必要以上の責任を負わせないと同時に、横暴させないためにあるんだろ。リーダーのなり手がいないと困るし、間違って選ぶこともあるしな。

少なくとも俺達のところはそうじゃない」

「おかしなことを言うやつが多く、リーダーの発言が伝わらず、混乱したらしい」

「こういう時に誰の言うことを聞いておくべきかわかってないのか。

俺なら、こういう時に頼りになるおじさんは、そいつは相手にしないとか、あのリーダーの言うことには納得する、てすぐに分かるから迷いもしないんだがな」


「対策と感染拡大は遅くても、補償なき行動自粛で経済の落ち込みは長いようだ」

「そんなわからん国があったか?」


「でも公衆衛生については参考になるよ。重症化するリスク要因もわかったし、予防対策がビジネスチャンスになると思う」

「たばこの売り上げは減ったらしいな。

高血圧と糖尿病にならないように健康意識が高まったらしいな。

ハンドフリーの温調浴室まで必要なのかという疑問もあるが、お前のところの把手の銅コーティングも儲かってるそうじゃないか。」

「ピンチのときにもチャンスはあったということさ。

社会参加を継続できるような家庭内の予防システムの必要性が認められたということだ。

日常習慣や社会システムが変わって来たしね」

「そうかい。まあいいや。何かあったらまた連絡する。

そっちからもよろしく」


「わかった。またな」



「お待たせ。」

「夕食はできたわ」

「ありがとう。軽く食べて早めに休むよ。子供たちは?」

「弟はあまり出かけなくなったわ。兄は労働奉仕中で落ち込んでる。」

「そう。また、両方とも元気づけるか。いろいろ話してみるよ」


兄の方は、陽性の時に友人とお気に入りの店に行ったために、店の消毒休業の損害賠償を払わされた(親が)のだが、さらに労働奉仕も課されたのだ。

奉仕理由のプラカードを身に着ける形で。


人間も国も、身をもって体験しないと、行動と思慮は変わらないんだろうなと思う。


(終わり)



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