始まり
新しい目論見です
ふと、俺が窓の外を見ると、丁度木々や街道だけでなく空まで桃色に染め上げるサクラの花びらが風に巻かれて飛び立つところだった。
この近くにのみ生えているサクラ。それは昔何処からか現れた人物がひっそりと植えていったものらしく、ここ一帯の道はその頃の名残で「サクラナミキ」と呼ばれている。この世界ではおそらく生息していない珍しい植物で、その上花が咲くと見惚れる程壮大な美しい景色が窺える事もあり、この季節になると観光客が訪れることも多い。
そんな具合で賑わっている街道を暫し見つめた後、視線を外す。
廊下に並ぶ幾つかの扉の中の1つに近づき、ドアノブに手をかける。
目を瞑りこの部屋の主に心の中で断りを入れ、ドアノブを引く──
その瞬間、フワッとした風が頬に吹き付け、桃色の何かが目に飛び込んできた。
「…っ、窓が」
それはサクラの花びらで、部屋の奥を見ると窓が開いているのが見えた。
「閉めたはずだったけど」
と言いつつも、特に不可解に感じることも無く少し寂れた部屋を歩く。ここは元々祖父の部屋で、5年前に亡くなるまで過ごしていた部屋だ。この世界では見かけない物が多く散乱している。
そんな部屋の奥へ行き、窓に手を掛けようとして、ふと窓の横の机にある物に目が行った。
「……、これは……本……?」
昨日までは確かに無かったものだ。引き出しにあったのかもしれないが、開けたことが無いので確認のしようがない。それ以前に俺はここに1人で暮らしている。誰かが移動させたとも考えづらいが……
そんなことを考えていると、この本に何かが挟まっているのに気づく。何も考えずその紙を引き抜き、読もうとした──瞬間、部屋の中が眩く光り始め、窓と扉が勢いよく閉まり部屋自身が激しく振動を始めた。 余りの明るさに目が眩み、揺れに耐えきれず床に倒れ込む。必死に手探りで壁に這い寄り、どうにか座り込んで目を開けると───
───目の前に見知らぬ少女が立っていた。