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怪異や妖怪が出てくる短編

雲外寺の鏡

作者: 太田牛二

 日本のS県S町にはある噂が流れていた。


 町の東にある小高い山にある寺にある鏡に自分の容姿に関して願うと叶えてくれるというものである。ある人は自分の鼻の形を変えてもらい、ある人は顔全体を変え、今や某アイドルとして活躍しているそうだ。


 誰もが鼻で笑う程度の噂であったが、それでも噂に釣られて鏡のある雲外寺に行き、願うのだという。そんな噂が広がっている中、一人の記者がその噂の真相を知ろうと雲外寺にやってきた。


「ここが雲外寺ね」


 髪をたなびかせる赤い長袖を着た彼女、田中たなか詩季しきはカメラやらなんやらが入ったリュックを背負って雲外寺の前にやってきた。


 彼女は記者である。他県のある出版社のオカルト雑誌の部門に所属している。


「ふふ、ここのネタで一発当てるのよ」


 彼女の同期は皆、政治部など記者として正に花形の部門に配属されていながら自分はオカルト部、オカルト部の先輩方に不満は無いがやはり記者としての花形を舞台に活躍している彼らがとても妬ましかった。彼らを見返すために大きなとくネタを手に入れようとここにやってきたのだ。


(私の優秀さを見せつけて記者として大成功を収めるのよ)


 輝かしい未来を思い浮かべながら彼女はリュックを下ろしカメラを取り出す。


「それにしてもボロい寺ね」


 例の噂で騒がれている割には寂れた寺であった。


「まあ良いわ、さっさとネタを手に入れるのよ」


 この雲外寺への道は周りくねっているため、小高い程度の山であるというのに、ここにたどり着くにしても時間が掛かってしまった。そのため既に日も傾き、空は紅に染まりつつある。


「なんか誰もいないわね」


 寺の人らしき人も境内の中にはいなかった。


 ふと、足元を見るとタバコの吸い殻が落ちていた。彼女はそれを見た瞬間、リュックから水筒を取り出し、その吸い殻に入っていた水を注いだ。そして、濡れた吸い殻を手に取って念入りに調べてからリュックの中に入っているビニールの中に入れた。


「全く、吸い殻をこんなところに捨てないでよね。火事になったらどうするのよ」


 幼い頃、彼女は火事に巻き込まれたことがあった。その際、右腕に火傷を負った。そのため病的に火の不始末に気をつけるようになっていた。


 やれやれと思いながら吸い殻を入れたビニールをバックを背にかけ立ち上がって顔を上げると目の前に鏡が自分を写していた。


「はぁ?」


 彼女は驚き思わず後ずさると後ろの鏡にぶつかった。左右を見渡しても同じように鏡があり、自分の姿を映している。


「な、なにこれ」


 詩季はただただ驚き、唖然とする。先ほどまで寺の前にいたはずなのに、前後左右を鏡に囲まれてしまっているのである。その時、


「ケラケラケラケラケラ」


 不気味な笑い声が辺りに木霊する。


 詩季はその笑い声が鏡に写っている自分の姿が笑っているのを理解した。


「なんなの……」


 不気味な笑い声を上げている鏡に写る自分をよく見ていると今の自分とは違うところがあった。


 ある者は髪型が違う。ある者はバックを背負ってない。ある者は、長袖ではなかった。その長袖ではなかった自分の右腕には火傷があった。


「一体、なんなのよ」


 それを見て、詩季は右腕を抱える。


「私はあなた」


 鏡に写る自分が首を傾けて喋った。


「でも、私はここから出れない」


 詩季はその言葉を聞いて、背筋が震えるのを感じる。


「あなたがいる限り……だから」


 鏡に写る自分の姿をした彼女らは手を伸ばす。すると鏡から手が飛び出し、詩季を掴もうとする。


「あなたさえいなくなれば、私たちはあなたになることができる」


 笑い声が響き渡り、詩季の四肢を掴む。


「いや、離して、離して」


 四肢を掴まれ、彼女は鏡の中へと取り込んでいく。


「いやああああああ」


 そこで彼女は目覚めた。


「えっ」


 彼女は周囲を見るが、さっきまでの鏡に囲まれていた場所ではなく、寺の前であった。


「一体、今までのは……」


 冷や汗が頬を伝う。


「寺の人もいないみたいし、取材はいらないかな。あははは」


 不気味な経験に寒気を覚えながら彼女は雲外寺から去ることにした。


「ちょっと汗をかいたわね」


 そう呟きながら首元と長袖をまくり白い肌の左右の腕をタオルで吹いてから山を下った。


 寺の奥底に鏡が飾られている。きらりと光り、一瞬、田中詩季の姿が写った。



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