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臆病者のクリスマス

作者: Ainrish

クリスマスなので、クリスマスのお話を。

ここだけの話、クリスマスにはあと2時間投稿が間に合わなかったんですけどね。

せっかく作ったので投稿します。

ある雪の日のお話。

とてもゆっくりした時間の流れ、二人の想いを感じて見て下さい。

「ふふっ、バイトサボってまで来てくれたの?」


いわゆる恋人の日。

今年は、上空から白い結晶がちらついている。

赤いマフラーと手袋を口元に寄せ、息を吐きかけながら僕に話しかける。


「サボりじゃない。ちゃんと正式に『休みます』って伝えてある」


「それをサボりっていうのよ。こうやって私といるんだから」


今日くらいいいじゃないか。

年に数回しか会えなかったんだから。

彼女も別に非難したくていっている訳ではないだろう。


「えっと、まずは何処へ行こうか?」


「えぇ、決めてないの?…ってまあいつものことだもんね。今回も行き当たりばったりの旅を楽しみますかぁ」


「そうだね。とはいっても候補ぐらいは行きの電車で考えてきたさ。まずは定番を抑えにいこう。きっとイルミネーションが綺麗なはずだよ」


「五秒で思いつきそうなプランね」


いつも二人が会う時に使う、真ん中の距離にある駅。

そこから二駅ほどの所に、毎年この時期恋人たちで賑わう場所がある。

目的地はいつもバラバラで、目的はいつも同じ。

二人で同じ切符を買い。

同じ改札を通り。

同じ電車に乗る。

時間を、行動を、空間を共有する、というただそれだけの事。

それでも、大切な人とのものだと意識するだけで、その価値は測ることが出来なくなる。

隣にいる時はずっと君との事を考えているのに、ふっと目が合うその瞬間には思考が固まってしまう。

決まって先に目を逸らすのは僕の方だ。

君はその度にいつもくすっと笑い身体を寄せてくる。

果たして、君は僕ほどに僕を想ってくれているのだろうか。

その余裕さを見る度に不安になる。

僕はここまで魅了されてしまっているというのに。


「ほら、なにぼーっとしてるの?ついたよ、駅」


彼女に手を取られ、駅のホームを踏む。

考え事で周りが見えなくなる癖は一緒になる前からずっと治らない。


「みて、すごい綺麗!やっぱり何回見ても綺麗だね」


イルミネーションの並木道。白、青、赤、黄、橙。

この時期だけ、こういった華やかな装飾になる。


「懐かしいね。キミの精一杯の告白、今でも鮮明に覚えてるよ」


「恥ずかしいから思い出さないでよ」


僕は四年前のこの日、彼女に二度目の告白をした。

だけどそれはお世辞にも格好いいとは言えないものだった。

たくさんの伝えたいことがあったし、色々台詞を考えてもいた。

夏に伝えきれず星に託して。

秋に届けられず月に願って。

ようやく伝えられた冬の日、帰る直前までずっと言えなかった。

もう会えなくなる、その直前に言えたのは、


『……今でも、好き、です』


という一言のみ。

その言葉さえ声も身体も震えながら絞り出したものだった。

その時の彼女の反応はよく覚えていない。

驚いたようにもみえたし、予想されていたような気もする。


「でもキミ、よくもう一回告白しようと思えたね?あっいや貶してるわけじゃなくて」


「いや、大丈夫だよ。最初はね、諦めようと思ってたんだ。

一夏の夢だったんだと自分に言い聞かせて、ずっと君のことを考えないようにしてね」


全く、あの時期の胸の苦しさといったら。


「それでも、どうしても忘れられなかったんだ。ぜんぜん関係ないことを考えててもすぐ君がでてくるし、君がいないだけで寂しかったんだ。やっぱり僕は君のことが好きなままだったんだ。伝えるまではもっと時間がかかったけどね」


「そうなんだ。そこまで好かれてるなんて私は幸せものだね。ありがと」


本当に、彼女の笑顔はいつも、僕の脳内を支配する。

その笑顔は、どんな気持ちなんだろう。


「別に、お礼を言われるような事じゃない。逆に、一度振ったのにどうして付き合ってくれたの?」


「さあ、なんでだろうね?私にもよくわかんないや」


彼女は笑って誤魔化す。

僕をなんで好きなのか、いつ聞いても答えてくれない。

単に恥ずかしいだけなのか、それとも。


「僕の事、本当に好き?」


ついいつも聞いてしまうけれど。


「嫌いなら一緒に来ないでしょう?」


彼女の方がやっぱり一枚上手だ。

どんな質問をしても返されてしまう。

返答になってないよ、とも言えずに。


そうしているうちに、並木道の終わりが見えてくる。

さて、次はどうしようか。

ご飯でも食べに行こうか。


「次は何処かでご飯食べない?」


同じ事を考えてた。

別に大したことではないけれど、こんなことでも嬉しかった。


「今から行っても空いてる所はきっとあるよ。歩きながら探そう」


そういって歩き出す君。

もう陽は随分と前に沈み、辺りは街灯のオレンジ色に照らされている。

足元の雪はそれを反射して街全体を染め上げていた。

風は強くないが、コートを着ていてもとても寒い。

右手だけが、暖かいままだった。


「ここなら大丈夫そうだね」

「雰囲気もいいし、私は賛成だよ」


次の目的地は案外早く見つかった。

少し暗めの照明で、多くの二人組を薄く浮かび上がらせている。

漂う匂いに昼食を取り損ねたお腹が鳴る。


「もう、あとちょっとだから我慢しててね?」


くすっと笑うと席まで一直線に歩いていく。

落ち着けないのはどっちの方か。





「美味しかったね」


食事を終えると、お酒を嗜む他の人とは違い少し話した程度で店を出た。

というのも、僕がアルコールに弱いからである。

以前、彼女の酔った姿を見ようと飲みに誘ったことがあったが、ものの見事に完敗してしまった。

まったく、尽く隙を見せない人である。


「さて、時間的にも最後になるけど」


「私は夜景の綺麗な所に行きたいな。二人で話せるような」


「……いいよ。良い所を知っているから案内するよ」


いつもと違い主張が強い。

偶然合致したから良しとしよう。

少し通りを外れた道を歩く。

街灯こそあるが、先の並木道に比べると随分とささやかである。

目的地へはすぐに着いた。


「ここは……港?わぁ…!」


豪華客船を迎える為の大きな港。

夜は船の灯りと賑わいを感じることができる。

そこから少し離れた所にあるロッジのような場所で、僕らは下の灯りを眺める。


「こんな風に見える所があったんだね。前来た時は気づかなかったよ」


そろそろ。


「そろそろ、素に戻ってもいいんじゃないかな?」


「えっ?」


今日の午後から彼女と過ごしていたけれど。


「君はこんなに饒舌じゃない。それに、とても焦ってるように見える」


彼女は元々、こんなに先へ先へと引っ張るタイプではない。

むしろ、どこへでも連れて行って下さい、という感じだ。

だからこそ僕は不安になったわけだけど。


「やっぱり、あの言葉?」


「私、そんなに上手く出来てなかったかな。自分ではいつも通りに振舞ってたんだけど」


あの、「ありがと」と同じ笑顔になる。

その顔が、決定的だったんだ。

笑っているようで、酷く寂しそうな顔。


「よく、見てるんだね。…それで、"こういう形"でのデートは最後ってどういうことかな」


どれだけ僕が君を見ていたと思っているんだ。

君の仕草も、容姿も、癖も、全部覚えてる。

知らなかったのは、目で見えない君の本当の気持ちだけ。


「そのままの意味だよ。今日を過ごして決めた。僕達の遠距離恋愛はこれでおしまいだ。」


あえて濁して伝えた"最後"。

その反応次第で、どうするか決めるつもりだった。

僕は、彼女を信じきるには臆病すぎた。

でも、彼女の変化は僕と一秒でも長く、濃く過ごしたいというものであり、決して興味が無かったり、早く終わらせたいというものでも無かった。


「試すようなことをしてごめん」


「じゃあ、じゃあお別れ、なの?……私は、捨てられるの?」


そんなわけ。


「そんなわけない。僕はずっと君が好きで、今も好きなんだ。ただ、君からの気持ちだけが分からなかった。いや、信じ切ることが出来なかった。だって君は言葉にしてくれないから」


「私からの気持ちが信じられない?私がどんな気持ちで会えない時間を過ごしてたと…!いつキミに捨てられるかわからないって…社会人の私と違って君は大学生だから、いくらでも相手はいるからって…」

「ほんとはずっと側にいて欲しかったのに…!」


「夢の為、だよね」


僕らが遠距離になった理由。

それは、彼女の就職と僕の大学院の外部進学。

二人とも、お互いの夢の向かって、という結論に至ったからだ。

彼女が、こんな不安を抱えていたなんて知ったのは今日が初めてだけれど。

でもそれも今日で終わり。

本来なら交わるはずのない二つの夢は、偶然にも交わった。

彼女の企業と大学の共同研究。

隣へ行ける、このチャンスを逃すはずも無かった。


「でも、今でもっ…好きでいてくれるのに、終わりなの?どういう、こと?」


彼女は泣きそうな顔のまま堪えている。


「そう、遠距離恋愛は終わりだ。ほんとは素直に言えば良かったんだけど、こればかりは君の気持ちを知りたかったから。どうしようもなく、僕は不安だったんだ。」


そういうと、僕は今日唯一準備していた行動にうつる。


「僕と…ずっと、僕の隣に居てもらえませんか?」


今回ははっきりと言えた。

前の時とは逆。

しっかりと目を見据える僕と、狼狽える君。


「えっ、でもそれって…?!」


彼女は泣きそうな顔のまま固まっている。

決して高価とは言えない誓いの証。

学生風情にはこれが限界だったが、隣に並べるこの機会を逃したくは無かった。


「君の隣に立つ準備が出来たんだ。ニーズのある所を抑えておいて正解だったよ」


「あっ…?!」


ようやく正解の可能性に気づけたらしい。

顔に驚きが広がっていく。


「まさか…でっでも、本当に私でいいの?後悔しない?」


「次は君の番だよ。その、君の気持ちを口で、声で伝えてくれませんか?」


君は泣きそうな顔のまま、でもこんどはとびきり嬉しそうに。


「はい、私も、貴方が好きです…!今までもずっと、そしてこれからもずっと…!だから、一緒に、いてください―――」


地面に落ちた涙が、冷たい雪を溶かしていく。

腕の中で揺れる涙が、二人の距離を融かしていく。


「やっと聞けた、君の想い」

「もう、迷わないから。君だけは、信じ続けるから」


君は顔だけを動かして頷く。

その肩は細かく揺れている。

眼下では、遊覧船が最後の航行を終え地上を優しく照らしていた。




――――しばらくして。


「ねえ、次はいつ?」


ようやく落ち着いた彼女は、いつもと同じ事を口にする。


「そうだね、1週間くらいじゃないかな?」


「そんなに?」


準備に時間がかかるからね。

拗ねた顔は彼女の貴重な表情だ。


「すぐにいくから、待ってて。そこから先は、一緒だから」


「……ありがと」


口数の少ないいつもの君。

何も変わらないようで大きく違う。

その表情が素直にくるくると変わっていくから。

またその新しい笑顔に、僕は何度も魅了されるのだろう。

どうでしたか?

ちょっとはドキッとしてくれましたかね。

あるいはキュンと。

まあ、何かしら動かせたら良かったなと思います。

季節の境目とかで短編出せたらと思います。

また見に来てくださいね。

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