薔薇の花と一枚の手紙
今宵の夜零時零分丁度に、王国第一王女ルリーナ姫を攫いに参ります。 薔薇の国の王子より。
「これで全てですか?」
ドアの前に立っているメイドに確認をとる。
「いえ。もう一つ手紙に添えられて一輪の薔薇の花が……。それも珍しく黒い薔薇にございます。」
「そう。わっかたわ。もう下がっていいわよメランジェ。」
「もうそろそろ夕食のお時間でございます。ご支度を。」
「なら、着付け係を呼んでくれる?少し緩んできてるみたいだわ。」
「かしこまりました。ルリーナ様。」
そう言ってメイドは部屋を出ていった。メイドに渡された黒い薔薇をまじまじと見つめる。こんな珍しい花を用意できるとしたらあの娘しかいないわ。わざわざ足音をたてないように歩いてきてるみたいだけど。
「ねえ?そうでしょカタリナ。こっそり来たってだめよ。貴方が来たことなんてすぐにわかるんだから。」
そう言うとガチャリとドアが開かれ、予想通り裁縫道具を持ったカタリナが現れた。
「やっぱり駄目ね……さすがはルリーナだわ。私のことなんて全部お見通しなんだから。どうせコルセットも緩んでないんでしょ。呼び出すたびに着付け係って呼ばないでよ。毎回裁縫道具を持ち歩かないといいけないじゃない。」
あきれたように言う。彼女は私が幼いころから着付け係を担当していて私より6歳も年上だ。
「ごめんなさい。でもあなたを呼ぶ理由なんて着付けくらいしかないでしょ?それにあなたは……」
「わかってるわ。私は赤毛だから本来王宮に居るべき人間じゃない。」
そう彼女は元々は町外れにある村に住んでいて、毎日家の牧場の手伝いをしていたらしい。あるとき森に入った際雷雨に見舞われ村に戻れなくなり、山道にたおれていたところを偶然私の父上と母上の乗った馬車が通りかかったという。物好きな父上が彼女を助けると、当時母上のおなかの中にいた私の着付け師にしたいと考えたそう。
「不思議ね。もしあの時誰も通りかからなかったらあなたはきっと死んでしまっていた。それに通りかかったのが偶然にも国王だったなんてね。奇跡だとしか言いようがない。」
ただの町外れにある村の村民がある日突然、王都に住んでいるだれよりも裕福な暮らしができる王族につかえる貴族のひとりとなってしまったのだから。