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無言な異世界生活  作者: TNO
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004 地下通路で脱出

 地下通路は狭く、二人並んでギリギリ通れる程だ。一列に並んで狭い湿気が多い通路を無言で歩く。並び順は前から、大剣を持ったデュラル、女剣士、姫様、自分、看守、弓男、そして最後に槍を持った金髪男。


 (うぅ、しかも鼻が曲がるほど臭い。でも皆平気そうな顔しているな……)

 「おい、振り向くな!前見て歩け」

 (いた!今少し剣が刺さった!チクってした!)


 匂いに耐えているのが自分だけかと気になり振り向いたら、看守にから怒られた。今は余計な事はせずここから出るのに集中しよう。


 まるで迷路のように入り乱れている通路を全員が周囲を警戒しながら歩を進める。デュラルは地図が頭に入っているのか、足取りに迷いは見えない。地下牢で聞こえた地響きは無くなっていた。今は鉄と鉄が擦れる音と石畳を踏みしめる音がやけにうるさく地下通路に響く。




 暫くすると、少し開けた部屋に辿り着き、デュラルが奥を指さす。


 「この先が出口だ。だが、その前に非常用の食品や備品を取りに行くぞ。姫様、直ぐに戻ります。デッポ、お前は運ぶのを手伝え」

 

 槍使いの男、デッポは短い了解の返事をした後、デュラルと共に別の通路へと消えて行った。


 無言のままデュラルとデッポの帰りを待っていると、姫様が前にいる短剣使いに話しかけていた。


 「ねぇ、ネムロ、ちょっと良いかしら?」

 「はっ、いかがされましたか?」

 「兄が謀反の首謀者というのは本当?」

 「私も直接目にした訳ではありませんが……」


 手短な説明だったが、デュラスから聞いた情報と大体同じだった。しかし、そこで何だか急に彼女の歯切れが悪くなり、言うべきか悩んだ後に話を続けた。


 「ですが、襲撃した民衆が叫んでいるのが聞こえたんです。『馴合いの時代は終わりだ、我々が全てを統べるべきだ!』と……」

 「……今更そんな理由で」


 姫様もバツが悪そうに顔を顰める。

 どうやらこの街は思った程一枚岩ではないようだ。やはり人種――いや、この場合は種族か。種族間の争いは異世界でも同じという事か。


 (それにしてもデュラルとデッポとかいう奴、遅いな……そんなに遠くに置いて――ん?今なんか僅かに唸り声がしたような?)


 そんな疑問が思い浮かんだ瞬間、後ろの看守がもたれかかってきた。どうしたのかと振り向こうとしたが、そのまま看守は力なく地面へドサリと倒れた。


 (えっ?一体何が……?)

 「っ!させない!」


 状況を理解できずに、脳がフリーズしていると、いち早く行動していた彼女に勢いよくタックルされていた。一拍遅れて短剣が私がいた場所を高速で斬りつけられる。この姫様が私を押し倒してなければ、恐らくそこと看守の隣に並んでいただろう。


 私を切りつけてきた本人は、赤い液体が滴る短剣を振り下ろしながら舌打ちしていた。


 「ちっ!まさかそんな男まで庇うとはね。危うく姫様に傷を気付けちゃうところだったぜ」

 「ちょっと、ノット!どういうこと!何でっ?!何であなたが!?」

 「……説明する義理は無いね。はっ!」


 短い返答の後、ノットは持っていた短剣を走り迫るネムロに投げつけていた。しかし、短剣は彼女の剣によっていとも容易く軽く弾かれる。そのまま彼女はノットに切りかかったが、彼は軽い身のこなしでそれを躱し、逆にネムロの脇腹に蹴りを入れていた。


 蹴られた箇所を片手で抑えながらネムロは私達を庇うようにな位置に立つ。顔に汗を浮かばせながら、彼女は裏切り者に問いかけた。


 「……何時から、あなたは……そんなに姑息な戦い方になったのかしら?」

 「悪いな、どっちかっていうとこっちが本当の俺だ」

 「そう……ゴフッ!不覚……」


 その一言を言い残して彼女は血を吐いて地に伏せた。彼女の抑えていた脇腹からは赤い血が溢れ続け、徐々に床に血溜まりを作っていた。

 そして、ゆっくりと投げた短剣を回収した彼は、トントンと肩に短剣を当てながらこちらに近づいてきた。


 「さて、一番の邪魔者には退場してもらったんで……後はその男だけ始末すれば、姫さん、あんたを連れて帰って任務完了です」

 「馬鹿な事を言わないで!あなたなんかに付いて行かないし、この男も殺させないわ!」

 「笑わせないでください。馬鹿な事を言っているのはあなたですよ。それに別に付いて来なくても結構ですよ、その場合は無理やり連れて行くだけなんで」


 まるでつまらない冗談でも聞いたかのように、苦笑いしながら彼は私達を見下ろす。


 「んで、あんたはそこで姫さんに守られているだけかい?男が聞いて呆れるね。まっ、人間の男なんて所詮その程度かね……」

 (っ!こいつ!)

 「あー、そうか口が利けないんだっけか?じゃあ、やかましく叫ばれずに済むなっ!」

 「ぐっ!」


 言い終わると同時に彼はネムロを蹴った足とは別の足、刃の出ていない方の足で姫様を私の上から蹴り飛ばす。彼はそのまま私の首を目掛けて切りつけるが、反射的に庇うようにした私は、思わぬ物で身を守った。鈍い金属音と共にノットの短剣が手枷によって弾かれる。


 (あっぶねー!)

 「ちっ、無駄な抵抗しやがって……」

 (あっ……)


 僅かな抵抗も虚しく、彼は軽々と私の腕を足で封じて再度切りかかろうとする――が、通路から響く物音を聞き、瞬時に後ろへと飛び退いた。溜息をつきながら現れた新手に向き直る。


 「……ったく。デッポの奴、中途半端な仕事しやがって」

 「まさか、貴様も裏切っていたとはな。失望したぞノット」


 通路から現れたデュラルは革袋を片手で担ぎ、もう片方でデッポの遺体を後ろに引きずっていた。そんな彼の様子はかなり消耗しきっていた。片目は切られ、腕や足にも幾つもの傷跡からちが流れ出ていた。

 どれも致命傷を免れているように見えたが、デュラルの様子は今にも倒れそうな程、足取りが重かった。


 「もうちょっと時間があれば、とっくに姫さん連れて、あんたとは戦わずに済んだんだがな」

 「ふん、私が間にあったのは貴様の仕事がそれだけ遅いからだろ。裏切ってもそこは変わらないんだな、助かったよ」


 デュラルは何時の間にかデッポの遺体と革袋を下し、背負っていた大剣を抜いていた。身動き一つせず、ただじっとお互いの出方を見ていた。

 息が詰まるような緊張感が永遠に続くと思われた次の瞬間、最初に動いたのはデュラルの方だった。彼はその身の丈程ある大剣を薪割りの様に思いっきり振り下ろしていた。単純だが、凄まじい腕力で振られたその大剣は、常人ならば反応できずに真っ二つになる威力と速さだった。

 だが、その常人の反応よりも早く動いたノットは、それを紙一重で躱していた。そのまま彼は大剣を振り切り、隙だらけのデュラルの脇腹へ刃の出た足で蹴りを入れていた。綺麗に蹴りが入り、足を引こうとするノットをデュラルは逃がさない。

 大剣から手を放し、彼はノットの足をがっちりと抑えていた。まるで空手の瓦割のように、空いた手で捉えた足へと振り下ろし、不快な音と共にノットの足があらぬ方向へと曲がる。


 「がぁあ!っざけんなよ、死にぞこないが!」

 「んぐぅ!」


 足を掴まれたままノットは飛び上がり、体を捻って、もう片方の足で今度はデュラルの首元を蹴る。その足先には反対の足と同様、刃が先から飛び出していた。

 デュラルは白目を向き、覆いかぶさるように、ノットに倒れる。足を掴まれたままだったノットは避けることもできず、上半身を出した状態で下敷きになっていた。


 「ふぅ、やっとくたばりやがったか。糞っ!さっさと放しやがれ!」


 彼の足を掴んで未だに放さない死体にてこずっていると、何時の間にか隣から姫様が剣を手にして彼を見下していた。


 「……結局あなたの任務は失敗ってことでいいのかしら?」

 「はっ、そりゃどうかな?まだこっち側の奴らが先に待っているかもしれないぜ?」

 「そうね。でも、少なくとも今、あなたを助ける者はいないわ。残念だけど、あなたをさっさと殺して遠くへと逃げさせてもらうわ」

 「そうかい……へっ、まだまだこれからだったのによ……」


 最初は何とか逃れようとノットは動いていたが、死体と化したデュラルの拘束は剣が振り下ろされるより早く解けない事を悟と、諦めきった澄んだ表情で目を閉じた。

 そんな彼を見た姫様は唇を噛みながら、剣をゆっくり頭上へと振り上げる。


 (震えているじゃないか……)


 何とか立ち上がった私は、彼女の全身が震えているのに気が付いた。彼らの仲は知らないが、少なくとも親しい仲だったのだろう。精鋭の護衛ともなればそれなりに信頼感もあったはずだ。そんな彼らが裏切り、殺し合ったとなれば、その感情は言葉では表せるものではないだろう。


 気付けば私は剣を振り下ろすのに躊躇している彼女の肩に両手を置いた。彼女はビクリと肩を震わせ、私の存在を忘れていたかのように驚いた表情をしていた。

 私はただ黙って首を横に振った。


 (やめた方がいい……まだこの世界に来て間もない私でも、知り合いを殺すのはやっぱ良くないと思う)


 柄にも無い事を頭の中で呟きながら、彼女に目で訴える。伝わったとは思わなかったが、彼女はノットをもう一度見下ろし、剣を力なく下す。彼女の顔には曇った表情と涙が浮かんでいた。


 「あたしに、どうしろっていうのよ……」


 もう一度軽く彼女の肩を触り、こちらに振り向いた彼女に通路の奥を指し示す。私達が元々行くはずだった通路の先だ。


 「何よ、このまま彼を置いて逃げろと言うの?」

 (ああ、そうだ)

 「ふふ、そう……そうね。あたしにはまだ、やらなければいけない事が沢山あるものね」


 頷いて返事した私に、彼女は微笑み、自分に言い聞かせるように喋り出した。そして意を決したようで、剣を腰に収め、涙を拭うとノットに告げる。


 「兄に――いいえ、フォルティスに伝えなさい。この借りはいずれ返すと!」

 「ふっ、ふふ、そうか……ああ、確かに伝えておくさ」

 「それじゃ、行くわよ……えーと、そう言えばあなたの名前まだ聞いてなかったわね」

 (今更だな!しかも教えようがないし!あれ、そういえば姫様の名前も、俺知らねーや……)


 明るい会話――は無いが。明るくなった雰囲気の姫様を見たノットは目を細めながら、彼女と人間の男が通路の奥に消えるのを見送った。


 「さて、俺の助けはいつ来るのだろうか……このまま鼠の餌になるのだけは勘弁してほしいな。いや、仲間を殺した俺には、姫様に殺されるよりもお似合いかもな」


 彼の呟きに答える者はいなかった。




 (はぁはぁ、結構重いなこれ)

 「ほら、さっさとしなさい!敵はまだいるかもしれないんだから」

 (だったらこの手枷を解いてくれても……)


 私はデュラルが持っていた革袋を手枷を付けたまま運ばされ、前を歩く姫様に付いて行ってた。手枷を持ち上げて何度目かのアピールをしても返ってくる答えは一緒だった。


 「駄目よ、手枷はせめてこの街を出てからじゃないと外せないわ。まだあなたがフォルティス側じゃないと決まった訳じゃないんだから。でも、街を出たら手枷は何時でも外せるから安心して頂戴」


 彼女は微笑みながら鍵を取り出す。恐らく剣と一緒に看守の死体から拝借したのだろう、手際の良い事だ。


 「それにしてもあなたって本当に何も喋らないのね……。顔を見れば多少は言いたいこと分かるけど、緊急時には不便ね。まっ、今はここから北にある隠れ家を目指しましょ」

 (えっ、それってお兄さんも知ってるんじゃ……)

 「……何よ、そんな不安そうな顔して?言っとくけど兄――フォルティスも知らない隠れ家よ?あたしだってそんなに間抜けじゃないわよ!」

 (あっ、心読まれた……)


 思ったことがそのまま伝わって嬉しいような、気まずいような表情に対して、彼女は顔を近づけてジトーっと軽く睨んできた。


 そんな彼女の目を直視できず視線を逸らすと消え入りそうな声で彼女は呟いた。


 「……さっきは、ありがとうね」

 (えっ?今何て?)


 上手く聞き取れず、疑問を浮かべながら視線を戻したが、彼女は既に歩き出していた。


 「さぁ!さっさとこんな臭い所を出て隠れ家に行くわよ!」

 (あっ、やっぱり臭いんだ……)


 何て言ったかは聞こえなかったが、彼女の尻尾が楽しそうに揺れるのを見ると、どうでもよくなった。もう一度革袋を抱えなおして、龍姫の後を追う。

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