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無言な異世界生活  作者: TNO
3/5

003 龍姫、現る

 牢に閉じ込められてから既に五日も経っていた。窓も無い牢屋の中でどうやって分かるかというと、食事を持ってくる衛兵が律儀に余命日数を教えてくれるからだ。


 「はいよ、朝の食事と水だ。いつも通り前日の水筒を渡せ。そしてお前の死刑まであと三日だ。 」


 手枷を外す時に使った小窓から、パンと水の入った木製水の筒が入ってくる。言われた通りに空の水筒を小窓に通して衛兵に渡す。それを確認すると小窓は閉じられて、また夕飯までは一人の時間が続く。


 パンは石の様に固く、味もお世辞にもおいしいとは言えた物ではない。水が無ければパンに口の水分を全て奪われてしまいそうだ。


 (あー、売店のパンが恋しいぜ)


 細かくパンを千切りながら水と一緒に食べながら最初に食べた味を思い出そうとする。何ともみすぼらしい食事だが、これでもちゃんと生かしてもらえているのだから感謝はしても、恨みはしない。恨むとすれば――


 (あの猫耳親子め!今度会ったらあの二人を牢に入れてやる!)


 最も、ここから無事に出られるかも危ういのだが……。




 食事も済ませて、やることが無くなった私は石畳に寝転がりながら、自分の中にある魔法へと意識を向けた。数多くの魔法から一つ選ぶことを許され、悩んだ末に選び抜いた魔法、「魅了(チャーム)」。

 この魔法は簡単に言うと相手に自分に対する好感度を上げる、光属性の魔法である。その好感度の上少量も込めた魔力の量によって変わる。つまり、私の様な一般人でも効果は少なくても使える魔法というわけだ。

 他にも定番な「火の玉(ファイア・ボール)」等もあったが、これらは魔力量が少ないと殆ど形にもならないし、戦闘時に使える程の威力は見込めないだろう。だから私は最初に選ぼうとした転移の魔法は諦めて魅了(チャーム)を選んだのだ。

 地味な魔法だとは思うが、喋れない以上相手に好感を持たせる魔法はかなる有用だろう。対象がいないと使えないし、流石に街中でおいそれと使えるものではないと思い控えていたが、こんな状況になった以上は看守を魅了してでも脱獄を狙うべきか……。


 (でも看守一人を魅了したところでここから出るのは難しそうなんだよな)


 初心の私が使える一日の魔力量なんてたかが知れている。良くて一日に二、三回といったところか。そもそも魅了の効果がどれ程か分からない。最悪、顔見知り程度の好感しか持たれないのかもしれない。

 魅了(チャーム)の使いどころを考えながら天井を見つめていると、外から誰かの声が近づくのが聞こえた。


 「姫様、そんな急に面会とか言われても困ります!相手はあのジーク様が危険と判断した犯罪者ですよ!」

 「知ってるわよ!だからこそ会いに来たんじゃない。あの爺を慌てふためかせる男何て、一目見ないと気になるじゃない」

 「ならば処刑の日までお待ちください!そうすれば安全に見学ができます」

 「ふん!処刑台なんてベランダから殆ど見えないじゃない!私もっとじっくりと見たいの」


 何だか看守と軽く揉めながら、この街の姫様が見に来たようだ。


 (犯罪者を見学しに来るなんて、物好きな姫様もいたもんだ)


 声が扉の前に辿り着くと、小窓が空き、看守が覗き込む。


 「おい、おまえ!手を出せ!」


 短く命令され、最初に入ってきた時とは逆に手を出すと再び拘束された。手枷が付いたことを確認すると扉から下がるように命令され、それに従う。

 すると扉が開かれ、そこには真っ赤な尻尾を生やした金髪ロングの女性が佇んでいた。彼女の服装は一目見て質が良いと分かるほど整っていた。さらにその上に尻尾と同様、赤色で新品同様に輝く軽装の鎧を着ていた。これで馬にでも乗って旗でも掲げれば立派な騎士に見えただろう。


 「ふーん、あんたがあの爺の度肝を抜いた犯罪者?只の人間じゃない」

 (いや、あれはあっちが勝手に色々とやったことで、私は何もしてませんよ)


 気づけば彼女は至近距離で私をまじまじと観察していた。直接触れはしなかったが穴が開くほど見つめられて、何だか居心地が悪くなる。


 「姫様、あまり気を許してはいけませんよ。子供から金を盗むような奴です、一体何をしでかすかわかりませんから」

 「それも何度も聞いたわよ。でも、そんなに危険な男がそんなしょうもない犯罪で捕まるかしら?」

 「いえ、それも含めて謎が多い為、危険とジーク様が判断されたのかと……」

 「まあ、確かに普通の輩はここでくだらない犯罪犯そうとか思わないでしょうね。いたとしたらそいつは余程の大物か大馬鹿者ね」


 看守とお姫さんが私を大物か大馬鹿と雑談し始めたが、私は今の状況をチャンスだと考えていた。


 今、私の目の前にいるのはこの街の姫様、もしくは十分に地位を持つ貴族。彼女に魅了(チャーム)を使えば何とかこの状況を打破できるのは?看守もいるが、何とか姫様を魅了できれば説得できるかもしれない。何より自分には処刑までの命、迷っている暇はない。


 意を決した私は立上がり、彼女に向けて手をかざして、魔法を発動させる。


 (魅了(チャーム) !)




 「……」


 僅かな沈黙がその場を支配する。急に立ち上がり驚いた姫様と、彼女を守るように間に立つ看守。魅了(チャーム)を発動させた――いや、発動させたつもりで私はそこにいた。


 (上手くいったのか……?)


 魔法が発動したのかが今一分からない。


 魔法とはもう少しこう、何か光ったりする物だと思っていたが……いや、確かあの爺さんの時もちゃんと光っていて発動するのが目に見えた。ならば今回の魔法は不発?それとも魔力が足りなかったか?

 いや、そんなはずはない。扱える魔力量だと分かったからわざわざこれを選んだんだ。ならば原因はなんだ?次の看守の言葉によって、私の疑問は答えられた――


 「貴様……今、無演唱魔法を唱えようとしたな?まさかそこまで高度な魔法が使えるとは、やはりジーク様が仰った通り侮れん。だが残念だったな、我らの魔封じの手枷は無演唱であろうと魔力全てを封じる」


 確かに、魔法が日常的に使われる世界でそれ用の対策があるのも当然だ。


 (ん?でも、今何だか引っかかる事を言っていたな。無演唱魔法?本来は魔法とは演唱が必要なのか?え、だったら喋れない私はどうやって演唱すればいいんだ?)


 そこで五大神の一人、カムイの言葉を思い出す


 『――そもそもまともに使えるか……楽しみだな』

 (最初から魔法は演唱できないと使えないと知った上で私に魔法を選ばせた……?は、ははは、とんだ道化じゃないか私は。いや、彼らが最初から言っていたように私は彼らの暇つぶしの一つの遊び道具なのだろう)


 自分の状況がいかに絶望的か分かった途端、私は全身から力が抜けて座り込んでしまう。

 もう、ここから脱出は不可能だろう。そもそも脱出する気力も無くなってしまった。挙句に――未遂だったが、姫様に危害を加えようとして、罪はさらに重くなっただろう。死罪よりも重くなるから不明だが……。


 「ふぅ、急に立ち上がるから驚いたけど、残念でした。犯罪者に只の手枷なんか付ける訳ないでしょ。結局その程度の知恵しかなかったのね。少しは期待していたのだけど……」


 最後の方は消えるような声で何か言ったがもはや私が気にすることではなかった。


「……興覚ね、あたしは帰らせててもらうわ 」


 機嫌悪そうに踵を返した姫様を見て、看守は慌てて後を追う。そして、扉を閉めようとした次の瞬間、大きな振動と爆発音が牢全体を揺さぶる。あまりの揺れに姫様がバランスを崩し転びそうになる。


 「きゃっ!な、何事!?」

 「わ、分かりません!でも、今のはかなりの衝撃です!外に出るのは危険かもしれません!確認まで少々お待ちを!」

 「明らかに非常事態よ!何でこんな日に限って――」


 姫様は言葉を途切らせ、何かに気付いたかのように私に視線を向ける。


 「そうよ、タイミングが良すぎるわ。あたしが城を離れるのを待っていた?でも今日ここに寄ったのも気まぐれ……どこかから観察されていたの?いいえ、何か合図が……!」

 (確かにタイミングは良いけど!私は無関係だから!)


 ブツブツ言いながら考え込んだかと思ったら、急に血相を変えて私の胸倉を掴んできた。


 「やっぱりあんた、さっき何か魔法を発動させたわね?!」

 (いや、何勝手に納得してるか分からないが、そもそも私は魔法が使えないから!)


 必死に首を振って否定するが、まるで聞き入れてくれない。


 「しらばっくれないで!大体人間のあんたがこの街に来るのが――」

 「ひ、姫様はここに、いますか!?」


 姫様が私の服を破りかねない勢いで揺さぶっているとこに、息を切らした屈強な衛兵が扉に姿を現した。男の体格は綺麗な逆三角形になっていて、かなりの筋力が見て取れた。余程急いできたのか呼吸をかなり荒げていた。彼の様子に徒ならぬ状況だと感じた看守が報告を要求すると、予想外の言葉が返ってきた。


 「む、謀反です!フォルティス王子が一部の民衆を率いて謀反を起こしました!」

 「そんな、兄が?!一体どうして?!」

 「詳細は不明ですが、彼らはいきなり城内部から攻撃してきました!先程の爆発も恐らく王子によるものかと」

 「だったら今すぐ父様のもとへ戻るわ!」


 少し落ち着きを取り戻したのか、衛兵は冷静に彼女の言葉を首を振りながら否定する。


 「それはなりません、王から非難の命が下されました。特に姫様はフェルボアから成るべく遠ざけろと、仰せつかっております。ですので、これから自分を含む数人が護衛に付いて脱出します。幸い、ここの地下通路を使えば北の森へ抜けてそのままカーネル村に行けます。そのまま北上すれば比較的安全な場所に行けます」


 衛兵はツラツラとこれからの方針とかを述べているが、それを私がいる前でやって大丈夫なのだろうか?少し的外れな心配をしていた私をよそに、彼は細かい説明を看守の方にも伝えていた。その話を聞いていた姫様の顔は険しく、どこか悲しげだった。


 「分かったわ、時間が無いのでしょう?さっさとここの地下通路に行って出るわよ」

 「ええ、ではその男を――」

 「でも、この男は連れて行くわ!」


 その場にいた姫様以外の全員が驚愕する。一体なぜ私を連れ出す必要がある?いや、ここにいてその謀反を起こした王子に殺されるよりはマシだが……。そして、いち早く驚きから立ち直った衛兵が反対の声を上げるが、直ぐに姫様によって断ち切られる。


 「この男は絶対に何か重要な情報を持っているわ!ここで兄に引き渡せばまたこの男は自由になってしまう!」

 (全然ないですけどそんな情報?!何言いだすのこの姫様は?!)

 「んな?!ならばここで殺すべきではないですか?!」


 衛兵は通常の剣より倍以上の大きな剣を抜いて、切先を私へと向けてきた。その剣を手で掴み、ゆっくりと姫様が下げながら首を振る。


 「駄目よ。それでは情報が完全に無くなってしまう。そしたら後手に回ってどんどん状況が悪くなるわ。彼は手枷も付いているし、魔法を使われる心配はないわ。殺すなら後で何時でもできるわ。でも、成るべく生かして情報を得てからの方がいいわ」

 (いや、たったさっき私が魔法を使ったとか言ってなかったっけ?一体この姫様は私をどうしたいの?)

 「そんな重要な情報を持つ男がそう簡単に吐くとは思えませんが……」

 「そうね、でも得られるかもしれない。最初から可能性を潰すのは良くないわ。だから、この男は連れて行くわ。これは命令よデュラス……」


 最後に鋭い目つきで衛兵を睨むと、彼は溜息をつきながら剣を収める。


 「姫様のその顔には逆らえませんな」

 「ありがとう、デュラル」

 「でも、一つだけ約束してください。もし、彼がおかしな素振りを見せたり、非難の足手まといになるようなら……」

 「ええ、その時は諦めるわ」

 「なら、急ぎましょう。私が先導します。看守、お前はその男を連れて来い」


 行動が決まると、私は看守に後ろから脅されながら、一同に連れられてさらに地下へと潜った。そこに、先程デュラルが言っていたように同じく赤い鎧を着た三人の護衛が古びた扉の前で待っていた。

 細身の槍を持った金髪ストレートで眠たそうに垂れた目の男。その隣に背が低く、黒い癖毛ショートの気が強そうな女剣士。そして最後に弓と腰短剣を持った、オールバックな金髪イケメン。


 (んー?衛兵や看守を見てもちょっと思ったが、誰も尻尾や羽が付いてないな。ここがドラゴンの国である以上、人間ではないと思うが……)


 そんな疑問を向けられた彼らは、私を見ると表情が一段と引き締まり、明らかに警戒心を上げていた。しかし、デュラルと姫様が説明をすると怪しみながらも了解した。時折地響きが鳴りながらも、私達は暗い地下通路の中へと入った。

今回は結構行き当たりばったりで書いているので、後になってから微修正が入ったりするかもしれません。

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