001 五大神、降臨!
半分勢いと思いつきで描き始めた今作。
見切り発車感半端ないが、どうか暖かい目で見守ってやってください。
「オラ!さっさと入れ!」
後ろから乱暴に牢屋に押し入れられ、私はバランスを崩して倒れこんでしまう。冷たい石造りの床が顔に押し付けられる。大きな音を立てて木製の扉が閉じられ、ガチャリと鍵を閉める音がした。すると扉の真ん中にある小窓が開いた、丁度手枷ごと両手を出せる大きさだ。
「手を出せ、手枷を外す」
ここまで連行してきた看守が扉の向こうから短く命じた。大人しく指示に従い、手枷の掛かった両手を出す。隙間が小さく、よく見えなかったが短く光った後、手枷は外されていた。
「お前の処罰の判決は恐らく一週間後だ、それまではここで大人しく余生を過ごすんだな」
残りの時間を告げられ、小窓を閉ざされた私は、自分の置かれた状況に呆然としていた。
(こんなはずじゃなかったのに…… )
溜息交じりに呟いたつもりだったが、相変わらず声は発せられない。正確には口も溜息しか出ておらず、口パクにすらならない。何故なら、これは私に掛けられた呪いなのだから。いや、確かあの人曰く――
「――これはハンデなのよ!ハ・ン・デ♪」
あまりにも急な話に顔を顰める。周りには五人の人物が私を囲むように鎮座している。先程の話によればこの五人は世界の創造主、神と呼ばれる存在だとか。そしてその一人である自称光と運命の女神、フィオラは目の前で信じがたい内容を意気揚々と語っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください。今一理解に苦しむ内容なのでもう一度説明してもらえますか?」
一旦状況の整理を兼ねて、もう一度目の前に佇む自称女神に頼んだ。彼女は一瞬だけ驚いた顔をした後、すぐに微笑み返し、ゆっくりと語りだした。
「もう、仕方ないわね。確かに、あなたにとってはかなり急な話だったから理解が追い付かなくても仕方がないわね」
すると、彼女はどこからともなくハンカチを取り出し、出ていない涙を拭う仕草をする。
「木崎くん、君は不幸な事故により死んでしまったのよ」
すると、悲しい雰囲気はどこへ行ったのか、彼女は拳を握りながら楽しそうに続けた。
「しかーし!まだまだ人生に希望に溢れる二十代のあなたを哀れに思った私達五大伸は、あなたに新しい人生を与える事にしたのです。でも、いくら私達でも通常通り同じ世界に転生させるのは詰まらな――いえ、倫理的によろしくないと判断し、あなたを異世界に転生させる事を先程決定しました。そして、ハンデとしてあなたからは喋る行為を封印することにしました。理解できましたか?」
小さく手を挙げて質問する意図を示し、彼女はそれに笑顔で頷いて先を施す。
「えーと、そうですね。幾つか質問はありますが、まずは……私はどうやって死んでしまったのですか?」
彼女は腕を組みながら大袈裟に頷いていた。
「成程、確かにそこは気になりますね。記録を見てみましょう」
すると彼女の手にはいつの間にかかなり大きな本が開かれていた。彼女は「き、き、き」と呟きながら本をめくり、目的の頁に辿り着くと高らかと宣言した。
「木崎くん、君の死因は……自然死!」
「はぁ?」
あまりにも予想外な死因に、思わず自分らしからぬ間抜けな声が出てしまう。しかし、自然死と言えば寿命による老衰で死んだってことだよな?
「いやいや、二十年とちょっとの寿命ってどう考えてもおかしいですよね?!私は人間ですよね?馬かなんかと間違えてるんじゃないですか?」
彼女はつまらなそうに本を仕舞いながら私の文句を無視した。
「寿命何て案外突然訪れるものよ。死んでしまったのは事実なんだから受け入れて次の人生に向き合いなさい。さあ、他に何か質問はあるかしら?」
全く納得はできていないが、向こうもこれ以上話す気が無いのを察し、仕方なく次の疑問を口にした。
「あなた達は一体何者なのでしょうか?最初に神と名乗っていましたが……」
彼女は待ってましたとばかりの雰囲気で高らかと自己紹介を始めた。
「よくぞ聞いてくれました!私達は全ての世界を創造し、神とも称えられている大五神なのです!まず、私の右手におられるお方は泣く子も黙る鬼の様な形相をした破壊と炎の神――ギャロン様です!」
ギャロンと紹介された神は、いかにも破壊神を名乗りそうな屈強な男だった。上半身は裸であらゆる筋肉がまるで風船の様に膨らんでいた。そして炎の神だからなのか髪の色は赤かった。
彼は詰まらなそうに片肘をつきながらも、片手を上げて短く挨拶をしてきた。
「……ギャロンだ」
それ以上は何も言わず次の神が紹介された。
「それではさっさと次に行きますよ!ギャロン様の隣に居られるのは我が五大伸のナンバーワンイケメン!顔は綺麗なのに中身は汚い、知識と水の神――カムイ様です!」
「おいおい、私の中身が汚いとか酷い言われようだな。あと、五大伸のトップになっても何だか虚しいだけだよ。色々とおかしな紹介だったがよろしく木崎くん」
軽い会釈をして挨拶してきた神は知的な雰囲気を持つスレンダーな眼鏡を掛けた青年だった。下手すれば私よりも若く見えるが本当に神ならば遥かに年上だろう。やはり髪の色は属性に沿うのか短髪の青色だ。こちらも軽く会釈して返すと三人目の神、いや女神が紹介された。
「そしてお次は我が五大伸のマスコット的存在!癒し系とはまさに彼女の事、自然と森の神――ヘドロちゃんです!」
「ご紹介に与りました、ヘド――って違いますよ!私はそんな変な名前じゃないです、ヘレナです!」
そこには小さな少女が顔を真っ赤にしてパタパタと振りながら頬を膨らます姿があった。何だか小動物を見ているみたいで確かに癒される。髪は緑色のおさげで、ここでなければ本当にただのあどけない少女にしか見えない。
「と、とにかく!よろしくお願いしますね木崎さん」
彼女はペコリとお辞儀をした後、椅子に座りなおし、次の紹介がされた。
「さあさ、お次は時空と闇の神――ネウロ様です!」
「あのぉ、何だか僕の紹介だけ短い気が……あ、いえ何でもないです。よ、よろしくお願いします……」
長すぎる黒髪の所偽で顔が見えない少年は、小さくお辞儀した後、何かブツブツと呟きながらうつむいていしまった。
「そして、長らくお待たせしました!五大伸のまとめ役を務めさせていただいております、運命と光の女神――フィオラです!」
正面に立つ女神、フィオラは腰まで伸びる見事な金髪をなびかせながらたわわな胸を張る。
未だに現実味がないが状況は大分理解できた。死んでしまった俺はこの五大神に異世界へと転生させられると。だが、まだ一つ大きな疑問が残っていた。
「えーと、大体わかりました。ですが最後にハンデとは何でしょうか?」
フィオラがパチリと指を鳴らした瞬間、周りの景色が一変した。先程まで五大神以外何もない白い空間だったはずなのに、いつの間にか広場に出ていた。そして周囲には人と人でない者が忙しそうに移動していた。
鱗がある者、耳や尻尾がある者、羽や角がある者、様々な種族が広場を歩き回っていた。建物や身に着けている装備品から推測すると、中世のヨーロッパ風といったところか。
こんな状況にも関わらず、他の五大神は椅子に座ったままだ。周りを見渡しても誰一人こちらを見ている者はいない、まるで私達がいないかのように……。
「安心しなさい、これは立体映像のようなものだから。私たちの姿は見えないし、干渉ももできないわ。百聞は一見にしかずと言うしね、説明するよりもこれから行く世界を直接見てもらった方が早いと思って。見ての通り君の知っている常識とは違う世界」
行き交う人混みの中をすり抜けながら彼女は近づいてきて、まるで内緒話をするかのように口を耳元へ近づけた。
「でもね、君の持ってる別世界の知識をここでベラベラと公言されては色々と面白くないのよ。だ・か・ら――」
彼女はクルクルと回りながら元の椅子へと着席し、唇を指した。
「あなたのその口を封じることにしたの!」
「なら、まどろっこしい方法を取らずに、私の知識や記憶そのものを消せば良いのでは?」
「勿論できるわよ。でも、それだとわざわざ異世界へ転生させる意味がないわ。これは私たちのお遊びなの、そして……君は新しい玩具」
その言葉に私はここに来て初めて冷汗を流す。ここの五人に逆らうと、下手すれば死よりも恐ろしいことが待ち受けていると直感が告げていた。
だが、全くの未知の世界へ丸腰で投げ出されるのは危険すぎる。護身術と呼べる程の体術は身に着けていない。ここは何とか身を守るための武具、もしくは資金を交渉しなければ……。
「自分の状況とハンデの意図は分かりました。でも、流石に丸腰でこの異世界で私は生きて行ける気がしません。せめて何か武器になるもの、もしくは最低限の資金が貰えるとありがたいのですが……」
「……」
先程のフィオラの笑顔は消え、他の五大伸と視線を交わし、短く頷いたり首を振っている。どうやら私には分からない方法で話し合っているようだ。
短い沈黙は眼鏡を光らせたカムイによって破られた。
「良いでしょう。確かにハンデが強すぎて一瞬で死なれても困りますからね。少しばかりの資金と、この世界の魔法一つだけ、あなたに選ぶ権利を与えましょう!」
彼はオーバーな動作で立ち上がり、まるでオーケストラの指揮者の様に腕を広げた。すると、周りに文字が羅列しそれぞれのイメージが脳内へと流れてくる。文字列を見ただけでそれらが魔法の名前だと、それがどのような魔法か使わずとも理解できた。ならば、この中から最も強力な魔法を選べば――
「おっと、言い忘れていたがこの世界では魔法は精神力を元に使われている。だから自分の技量以上のものを使うと魔法は暴発、下手すれば負担が掛かりすぎてその場でお陀仏だ。もちろん協力な魔法程、消費は激しく、そして制御も困難だ。フッ、精々身の丈にあったものを選ぶんだな」
選ぼうと手を伸ばしたのは転移の魔法。かなり協力そうだったが、消費の激しい魔法だ、恐らく現状では満足に使うこともできないだろう。そこで私は消費が低く、尚且つ使い勝手の良さそうな魔法を一つ発見し、それを選ぶ。
「ほう、中々面白いものを選んだじゃないか。フフッ、君がそれをどう使うか、そもそもまともに使えるか……楽しみだな」
含みのある言葉と共に光る文字は消え、選んだ魔法が自分の中にあるのを感じる。そして、いつの間にか周囲も元の白い空間の戻っていた。
「準備はできたようね。それでは、精々新しい人生を満喫してきなさい」
パンっと乾いた音が響くと共に視界が暗くなり、意識が飛んだ。
「――い、おい、兄さん。こんなところで寝られると困るんだが……」
意識が戻った私の前には大きな蜥蜴の顔があった。
(う、うぉああ!)
あまりの迫力に飛び上がり、叫んでいた。いや、叫んだつもりだった。実際、口からはまったく声が出ていなかった。
「……起きてくれて何よりだ。もし起きなかったら衛兵に突き出さないといけなかったぜ。ここはまだ比較的安全な国だが、路上で寝るのはよした方がいいぜ。んじゃ、俺は仕事があるんで」
起こしてくれた蜥蜴男、リザードマンは木箱を運んで裏路地へと消えて行った。
周りを見ると五大神と話していた時に見た街の広場の端に私はいた。どうやら裏路地の入口で気を失っていたらしい。今回は映像ではなく、現実として異世界に転生していた。
喉に手を当て、喋ろうとするが、先程の様に声は発せられない。そして、腰には革袋が一つぶら下がっていた。中身を確認すると金、銀、銅の三種類の硬貨が入っていた。これはこの世界で多いのか少ないのか分からないが、少なくとも食事位は買えるだろう。
(ははっ、本当に異世界に飛ばされるとは……)
誰も聞こえない、乾いた笑いを発しながら、異世界生活への第一歩を踏み出した。