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年越し特別出演フィールさま

本来なら本日更新は、ロイがでてくる予定だったのですが、年末年始に見るのにこれほど向かないキャラもないなぁっと思ったので、フィールさまに一人ででていただくことにしました。

フィールさまとの初遭遇がこれになるのはどうかと思ったのですが、読者さまに年の終わりはさわやかな気持ちで迎えてほしかったのです。すいません。

 フィールはデーマンの王宮の庭にお付きのものたちと一緒にいた。

 彼女のまわりには侍女だけでなく、聡明なるフィールさまにご相談したいことがある、フィールさまに贈り物をもってきた、フィールさまの神々しい所作に学ぶため、などなどの理由をつくって、貴族の男性や隣国の王子、果てには司祭までもがその場所にはいた。

 デーマンの王宮の庭は、隣国の王子から見るとそんな大した庭ではなかったが、そこにフィールがいると景色は一変する。

 平凡な色の花々も彼女がいると、赤や黄色に輝く名花のように。凡庸な並びの木々たちも、彼女が立つと精緻に計算された黄金比のようだった。

 その中心に立つフィールは、まるで天使のように清らかで美しく、それは一枚の絵画のような景色だった。


 フィールはその美しい出で立ちで空を見上げる。

 宝石の瞬きに例えられる青い瞳が、空の青をそっと映す。

 長いまつげに彩られた目が、そっと意味深に細められた。


「フィールさまが空を見上げてらっしゃるぞ」

「おお……なんと美しい姿だ……」

「きっと我々では考えもつかない、深き事柄を考えてらっしゃるに違いない」


 そんな中、フィールは考えていた。


(今日もいい天気だなぁ)


 風は涼しくて、日差しはぽかぽかして気持ちよかった。


 思わず目じりがたれさがってくる。このままお昼寝したらきっと気持ちいいのだろうなぁ、と思う。

 でも、今日もお客さまがきて、まわりにいらっしゃってるのでそれは許されない。というか、人生で一度もお昼寝したことはない。残念なことに。


 でも、今日は本当にいい天気だった。ちょっとうつらうつらしながら、庭にボーッと立つだけでも気持ちいい。

 普段は凄く頻繁に話しかけてくるお客さまたちも、今日は話しかけてこないので、フィールは温かい午後の日差しを堪能していた。


 そんなフィールの目の前を、蝶々がヒラヒラと飛んできた。


(あ、ちょうちょうだぁ……)


 うつらうつらのぼーっとなっていたフィールはその蝶々にふらりと手を伸ばし、ちょっとだけ追いかけようとしてしまった。


 そのとき、貴族の男性が大声をあげた。びくりっとフィールの動きがそこで止まる。


「ふぃ、フィールさまが何か不思議なポーズをとってらっしゃるぞ!」

「あ……、あのポーズは!」

「知っているのか、司祭殿!」


 隣国の王子たちに尋ねられた司祭は、真剣な表情で答えた。


「あれはプラセ教の古文書によって伝えられている、輝かしき神への祈りのポーズに違いありません。この祈りを完成させることにより、周囲の邪気を払い、たくさんのものに祝福をもたらすことができると言われています」

「なんとっ!そのようなことをされようとしていたとは!」

「さすがは癒しの巫女さま!」

「きっと空を見上げていたのも、すべての民や人のことを想い、祈りを捧げる準備をされていたのでしょう」


(ええええええええええええええ!?)


 フィールは心の中で絶叫した。


「して、司祭よ。完成させると言ったな。では、あの祈りのポーズはまだ完成してないのか」

「はい、あの体勢のまま動かず、8分間維持することにより祈りは完成します」

「なるほど!フィールさまはいまからそれに挑まれるというわけだな」


(う、動けないぃぃ……!)


 そう言われて、フィールはその場から一歩も動けなくなってしまった。

 現在のフィールのポーズは、左足だけを地面に付き、右足を30度ぐらい前に、そして両手は前方に延ばしていた。


(8、8分間これを……?む、むりだよぉ……)


 きつかった。はっきりいってこの姿勢きつかった。


 おまけにフィールはお姫さま生まれのお姫さま育ち。

 運動なんてほとんどできない。体力もわりとない。あまりない。ほとんどない。


 フィールの左足は30秒も経たずにぷるぷると震え始め、顔は真っ青になっている。


(どうして……。どうしてこんなことに……)


 ただうららかな午後の日差しにぼーっとして、蝶々をみかけてちょっと追いかけようとしただけなのに。みんなが見ている前で、きつい変なポーズで8分間耐えなければいけなくなったのか。

 フィールの目じりにちょっと涙が浮かんだ。


 一分間が過ぎようとする頃。


(も、もう限界……)


 フィールの身体は全身がぷるぷる震え限界をむかえようとしていた。

 そして祈りのポーズが崩れようとする間近。


 どんがらがらがしゃん、と大きな音が遠くから響いた。


 それと共に、侍女たちの悲鳴みたいな声が響いてくる。


「フィーさまが突然、大暴れなさったわ」

「大変、花瓶や壺が!」

「ま、またなの!?この前もずっと大人しくしたと思ったらいきなり暴れだして、なんでまた……!」


 フィールの祈りのポーズをひたすら見ていた男性陣も、その騒ぎがあった方に視線を向ける。


「な、何事だ!この騒ぎは!」

「なにやらフィーという女が向こうで暴れているらしい」

「あのフィールさまとはまったく似ても似つかないという双子の姉か!」

「くっ、フィールさまの祈りが邪魔されてはかなわん!私が捕らえてくる!」

「私も行きますぞ!」

「抜け駆けはさせません!」

「わたし達もいきます!」


 そう言うと男性たちは全員、騒ぎのあったほうに走っていってしまった。侍女も遅れてその後を追う。


 フィールはその姿を茫然と見送りながら、変なポーズを解いた。

 その青い瞳に、庭の茂みの影に隠れた誰かが、手だけこちらに出して振る姿が見える。


 フィールにはそれが誰だかすぐにわかった。自分のお姉さんであるフィーねえさま。

 たぶんフィールの様子を見かけて、騒ぎを起こして人を引き離してくれたのだ。


(ありがとう、ねえさまぁ……)


 その思いやりに、フィールはほろりと涙をこぼす。

 フィールはほんわりした笑顔になって、やさしい姉に小さく手を振りかえした。


 それからしばらくフィー王女とお城の人間の追いかけっこは続き、みんなは15分ぐらい経って息を切らしながら戻ってきた。フィーねえさまは逃げ切った。


 そんなある日の姉妹のお話。

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