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「適任?誰のことだ?」
クロウが首をかしげると、コンラッドがいたずらっぽく笑った。
ついでにフィーも「誰のこと?」と首をかしげて、きょろきょろしてた。
「ヒースちゃんよ」
そんな二人にコンラッドが宣言する。
クロウもフィーもびっくりした顔をした。
クロウが眉間にしわをよせる。
「あのなぁ、こいつは女顔だけど一応男なんだぞ」
「そそそうでしゅよ!僕は男です!」
女だと知ってるコンラッドにこんなことを言うのは妙な気がするが、フィーとしてはクロウたちに女だとばれてしまっては困る。
なのに女装してクロウの下見に付き合えなんて、とんでもないリスクではないか。
とにかくフィーはいま男なのだ。いや、男の中の男!
「でも、潜入を担当するならいずれ男の格好だけじゃなく、女として潜入しなきゃいけない場合もでてくるわよ。そのための訓練にもなるし」
それから二人に、コンラッドはささやいた。
まずはクロウに。
「下見相手ほかに思いつかないんでしょ?親しい後輩にでも頼むしかないんじゃない?男なら後腐れもないでしょ?」
それからフィーに。
「木を隠すなら森よ。女装もできるって見せておいた方が、逆に女だって疑われないわよ。
あときっと、美味しいご飯が食べられるところにつれていってくれるわよ」
その言葉に二人とも黙りこくる。
フィーとしては毎度の女の子とデートの話に、ついつい毒舌になってしまうものの、クロウの事は大好きだし尊敬してる。いろいろ親切にしてもらってるし、恩もある。
女だってばれないっていうなら、クロウさんへの恩返しに付き合ってあげるべきかも……、と考えを改める。
それからじゅるりと、口の端から垂れた唾を吸い込んだ。
クロウもできるだけ下見がしたかったのか、仕方ないかというように、ため息をはいてフィーに聞いた。
「お前は平気なのか?いくら任務で必要になるかもといっても、男だし女装は嫌だろ?」
「それは平気ですよ」
フィーはけろりとした顔でいった。
だって女だもん。
クロウはしばらく考えたあと。
「やっぱり下見はしておきたいしな。頼めるか、ヒース」
「はい。任せてください」
フィーはどんっと胸を叩いて引き受けた。
そんなフィーの襟首を、なんだか楽しそうな表情のコンラッドがひょいっと掴んで持ち運びはじめる。
「それじゃあ、精一杯おしゃれしなきゃねー」
「ええ、適当でいいのに……」
別室にずるずると引きずられていくフィーを見送りながらクロウは言った。
「まあ、レストランから追い返されない程度にはしておいてくれ」




