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午後の訓練がはじまった。
「俺がお前たちの訓練を担当するヒスロだ。ビシバシ鍛えてやるから覚悟しておけ」
王城の中にある、騎士たちの訓練所のひとつに集合した見習い騎士たちの前で、厳しそうな教官が腕を組んでそういあった。
「うげぇ、俺たちの教官はヒスロさんか……」
「今年は北の宿舎担当だったのか……。俺たち運がないなぁ……」
見習い騎士が教官の姿を見て、ざわざわとなる。
どうやら有名な教官らしかった。
見習い騎士をめざしていた人間は、ある程度入団前から、騎士団の情報をもっている者が多かった。
それに訓練が始まる前の一週間は、騎士団の先輩と話したりして、内部情報をおしえてもらえたりする。
フィーのように完全に無知識で入ってくるほうがめずらしかった。
フィーもこの一週間は、第18騎士隊の人と話したりした。
特にイオール隊長とは、いそがしくて数度しか会えなかったが、話せた時間は大切な時間だった。
そして第18騎士隊は特殊な騎士隊で、ほとんどがイオールにスカウトされたメンバーで構成されてるので、見習い騎士経験者がクロウしかおらず、フィーは先輩からもらえる見習い騎士の生活の情報を、ほとんど知ることができなかった。
ちなみにクロウは見習い騎士時代にどんな可愛い侍女がいたとか、貴族の令嬢とロマンスになりかけたとか、そんな話ばっかりしてくれた。
(女癖がわるくなければ、本当にかっこよくていい人なのに……)
フィーは本当に嬉しそうに見習い騎士時代に接触した女の子たちのことを話すクロウを、そんな目で見ながらぜんぶ聞き流した。
まあ、その後に「どんな教官もお前たちのことをおもって指導してくれてる。言うことをまじめにきいてれば間違いねえ」とアドバイスしてくれたけど。
イオールからは「まわりからいろんなことを学べ」とアドバイスを受けた。
「私語はつつしむように!
これから剣術や、体術、いろんな訓練をやっていくが、まずは体力がなければ話にならない。だから、入団して一ヶ月は体力づくりだ。いまからランニングを行う!」
ランニングという言葉に、周囲から「げー」っという嘆きが聞こえた。
少年たちは剣術などの派手な訓練が好きだし、ランニングは退屈だと思っていた。
スラッドはまわりと同じくがっかりした表情。
レーミエは意外と走るのがすきそうだった。のんびりやなせいだろうか。
ギースはあんまり表情が変わらなかった。
「いちばんとってやるぜ」とにやつきながら準備体操するゴルムスの隣で、おなじく準備体操するフィーは「ゴルムスにできるだけついていってやる!」と気合を入れた。
そしたらでこぴんされた。
「バカかおめぇ。お前がどうしようもねぇほど体力ないことは、あの試合でわかりきってんだ。
自分のペースではしりやがれ!」
ゴルムスはヒースと試合し、痙攣を起こしたのを見た当事者なので、フィーが体力がないのは知っていた。
確かにゴルムスは激しく攻撃してたし、ヒースのほうはなんども無理な動きをさせられたが、それでもはっきりいってしまえば、見習い騎士としては問題外の体力である。
なのに根性だけは人一倍あるからたちが悪い。
「むぅ……」
たしかに正論だ。っと、フィーも納得する。
ゴルムスについていくことはあきらめた。それでも、イオールのためにも全力でがんばるのだと、燃えていた。
すっかりフィーは忘れてた。
イオールにもクロウにも、「無理するな」と言い含められていたことを。
2015/11/9
近日フィーミルの名前を変えようと思ってます。
もし変えた場合混乱(そもそも誰?)しないように、事前予告させていただきましたー。




