番外 コンラッドのお話
すみません、本編がうまく書けなくて、番外編で更新させてください。
割とサラッと終わる予定です(あと一話か二話程度)
3巻購入予定の方に重要なお知らせなのですが、口絵(本を開いたところにあるカラーイラスト)がわりとラストのネタバレになってるので(裏面ですけど)、ネタバレを気にする方は本編を読んだあとにご覧いただけたらとおもいます。
また活動報告『【重要】わたふた3巻購入予定の方に〜』に表の口絵と、3巻を書くにあたってくろでこさんに描いていただいたラフイラスト(フィーとクーイヌ)を掲載しています。こちらも素晴らしいイラストなので購入予定のない方もご覧いただけたらとおもいます。
その青年が持つのは、平凡で特長のない外見と、その細腕に似合わぬ異常に強い膂力だけ。ただ、それだけ。それだけで、彼は何者をも暗殺してみせた……。
「リャヌーシカ、見て見て! 君の絵を描いたんだ」
まだあどけない顔立ちの少年が、彼のもとに駆け寄ってきた。
彼にはたくさんの名前がある。リャヌーシカ、シェルウィーン、スージー、レニー、コンラッド……。それはすべて人を殺すために付けられた名前。
親から付けられた名前は知らない……。いや、そもそもそんなものあったのだろうか? 自分を捨てた親が、どうせ捨てるのだからと名前をつけなかったのか、それとも下らない義務感や罪悪感への誤魔化しとして、一応の名前をつけたのか、それは彼にとっては知らない、興味もないことだった。
「まあ、セシールさまお上手ですわ」
彼は少年のもってきた絵を見て、女性的な仕草で感動を示してみせた。
なぜなら彼は今、侍女に化けていた。ある人間を殺すために。
殺す理由はもちろん個人的恨みなどではない。彼の仕事だからだ。
標的はこの地方一帯に領地を持つ貴族。王権が衰退し、貴族たちの権力が強いこの国では、もはや小国の王と言っても過言ではないかもしれない。
だとすると、ろくでもない王だ。
民を重税で苦しめ、自分は女遊びに興じ贅沢三昧をしている。
だが暗殺を依頼してきた者の動機は義心などではなかった。病気に見せかけて殺して、うまくその椅子を乗っ取りたいと考える領主の兄弟の要望だ。つまりろくでもない仕事ということだ。
その仕事は青年の『父』に持ち寄られ、『父』から青年の手に渡ってきた。
青年は何度も毒を飲ませて病死に見せかけるよりも手っ取り早く済むと、腹上死を演出することにした。
そういう理由で女に化けて、領主の城へと潜入したのである。
潜入したら次は、領主に近づかなければならない。
「ねぇねぇ、リャヌーシカ、今日もお茶会しようよ。リャヌーシカの入れてくれたお茶、好きなんだ」
セシールという少年は、領主の一人息子だった。
まだ幼く、母は領主と離縁し、彼を置いて遠くの実家に帰ってしまい、愛情に飢えていた。だから取り入ることは簡単だった。
「はいはい、この仕事済んだら向かいますから、部屋でまっててくださいね」
「うん、わかった!」
少年は嬉しそうに自分の部屋へと駆けていく。
少年に気に入られたおかげで、青年はすぐに城の中枢部に入ることができた。そうすれば領主の目に止まる機会も多くなるということだ。
「ぐふふ、息子と遊んでもらってすまんのう。あいつには妻が出て行ってから、寂しい思いをさせてしまってるからなあ」
案の定、白々しい声と共に、俗物を具現化したような下品な顔の男が近づいてきた。この城の主である領主だった。
領主が城の使用人にも何度も手をだしていることは情報として伝わっていた。そもそも侍女の採用も顔立ちで決められており、美人であればすぐに入り込めてしまうのだ、随分と無用心なことだと思う。
領主の女好きは筋金入りで、息子を心配する言葉を吐きながらも、そこに一切の心はこもっていなかった。ただ最近目をつけている女に喋りかけたかっただけのようである。
「息子ではなく私と遊んでみないか? 後悔はさせんぞ」
青年の予想を証明するように、領主は青年の体を抱き寄せようとした。抱きしめられてバレるような甘い変装はしてないが、さりげなく振り解く。
「いけませんわ、領主さま。今日はセシール様が先約ですの」
「むぅ」
こういう男はつれなくしてやるほうが燃え上がるのだ。案の定、食いついてきた。
「では、いつならいいのだ?」
「う〜ん、そうですねぇ……」
青年は領主の感情を盛り立てるように、しなを作って考え込む仕草をすると、今度は自ら領主に近づき、その耳に囁きかける。
「三日後の夜に二人っきりで会いましょう」
「み、三日後か。あ、明日ではだめなのか?」
「殿方はそうではないのかもしれませんが、女には心の準備が必要なのです。それから周りには秘密にしておいてくださいませ。侍女仲間や城の人たちから噂されるのは、恥ずかしゅうございます」
そう囁いて、青年は領主から体を離した。
領主の顔はすっかり興奮していた。嬉しそうに鼻息を荒くして。
「うむ、うむ、わかったぞ。お前の言う通りにしよう。わしは心が広いのでな。お前のためなら、三日待つことなど苦痛ではない。そうだな、その日は見張りにも休みを与えよう。それでは、夜に待ってるぞ」
随分と都合のいいように運べてしまった。やりがいのなさにため息すらでてしまう。
領主は興奮したまま、鼻息荒く去っていった。
青年は決行前に『父』に報告しようと考えた。
その前に、セシールの相手をしてやらなければならない。
もう、本当は相手をしてやる必要はないのだけど。
本編のご相談なんですが、水着回って需要あるんでしょうか。
『コンラッドさんによる女装の練習って名目のゴリ押しでゴルムスやクーイヌ(クロウもいるかも?)と湖にいく』という無茶のあるアイディアと、『クロウさんとだけ行く』というわりと無難なアイディアと、飛ばすの三通りで考えているのですが。




