187 誰を信じるか
突如、土下座をした村長に見習い騎士たちは目を丸くする。
「救ってくださいって」
「いったいどうしたんですか?」
その言葉に村長は、村の事情を説明しだした。
「実はこの村は山賊たちにずっと脅されているんです……」
村長が話すには、こんなことだった。
一年ほど前から、武装した20人程度の山賊がこの村の近辺に現れたらしい。山賊たちは村にやってきて、村人の命を奪わない代わりに、村で取れた作物を定期的に自分たちによこすように脅してきた。
最初のうちは少量だったが、どんどん要求される量が増えていき、村人たちが食べる食料にまで影響を及ぼすようになってきた。
このままじゃ飢え死にするか、殺されてしまうということらしい。
「なんで見回りの兵士の人たちに言わないんですか?」
フィーはもっともなことを村長にたずねた。
「私達の村はここらの地方でも辺境にあり、何しろこの通り規模も小さく、収める税もごくわずかなものです。ここの砦の兵士たちは私たちのような貧乏な村は相手をしてくれません。見回りが来たのも、もう3ヶ月も前に一度きりです。そのときに山賊のことをお話したのですが、何も対策はしてもらえないままです」
村長は涙声で震えながら、見習い騎士たちにすがりつく。
「先日、噂で砦に見習い騎士の方々がやってきたと知りました。兵士たちは対応してくれなくとも、見習い騎士の方々なら、もしかしたら私どもの話を聞いてくれるかもと思っていたのです。そんな時に久しぶりにこの村に見回りの兵士が現れたと思ったら、見習い騎士の格好をしてらっしゃるではありませんか。もしやとおもって、私も必死に引きとめようとしたのです」
最後は額を地面にすりつけ、頭を目一杯さげながら、見習い騎士たちに頼んできた。
「歓迎するといったのは嘘ではありません。しかし、事情を隠していたのは申し訳ありませんでした。我々の残り少ない食料ですが、精一杯の歓迎をさせていただき、このことを相談しようと思っていたのです。どうか! どうかこの村をお救いください!」
見習い騎士たちは戸惑いながら、顔を見合わせる。
いきなりの話にみんな戸惑っていた。
そんな中、フィーは膝を曲げ、村長と顔を合わせながら言った。
「顔をあげてください。この村の人たちの事情はよくわかりました」
「わ、私どもを助けていただけるのですか!?」
村長は希望を見つけた表情で顔をあげる。
そんな村長にフィーは言った。
「とりあえず、村のことは砦に帰って報告させていただきます。それで砦の方で動きがなければ、王都にもどって騎士の先輩に僕たちが掛け合って見ます。対策までに時間はかかるでしょうから、それまではなるべく山賊たちを刺激しないように要求に従ってください。一番近くの村にも事情は話しておくので、食料が不足したら頼ってみてください。それじゃあ、僕たちは報告に戻ります。行こう」
「えっ……あっ……ちょっと……」
それだけ話して、フィーはすたすたと村を立ち去っていく。
他の見習い騎士も、戸惑いながらフィーに続いた。
村をでたとき、コニャックがフィーに向かって怒鳴る。
「おい! 待てよ! 村の人たちを放っておく気かよ!」
「放ってはおかないよ。ちゃんと話したとおり、砦の人たちに報告する」
フィーは冷静な表情で言った。
「その間、この村の人たちは苦しむんだぞ! 山賊20人程度なら俺たちだけでも倒せる! すぐに助けてやろうと思わないのか!?」
フィーは冷たい目でコニャックに返答する。
「兵士の人たちから指示されたことは見回りと報告だけのはずだよ。勝手に僕たちだけで戦うなんて命令違反だよ」
「命令違反だからってなんだよ! 困ってる人たちを守るのが騎士の仕事だろ!」
「騎士だって上からの命令は大切にするよ。おまけに僕たちはまだ見習いだ」
そこでフィーは言葉を区切り、少し低い声でいった。
「それにあの村長、怪しい。なんかずっと嘘をついてる感じがした……」
「嘘だって……? 何か根拠があるのかよ」
「勘だよ」
その言葉をコニャックは鼻で笑った。
「ふんっ、話になんねーな。お前はあの人たちを助けるのがめんどくさいから疑ってるだけだ! そんなの騎士じゃねぇ! 助けを求める人たちを信じる。それが人々を守る騎士が持つべき精神だろ!」
「時には疑うことも必要だよ。じゃあコニャックは、僕たちにいろいろと教えてくれた兵士の人たちを信じられないっていうの?」
少なくともフィーは、一緒に過ごしてきた部隊長のような人たちが、村長が言ったようなことをするとは思えなかった。
「ぐっ……。じゃあ、村の人たちを疑えっていうのか!? あの砦の兵士だって全員を知ってるわけじゃない! 怪しいことをしてる奴もいるだろ! そもそもお前何様だよ! リーダーは俺だ! お前じゃねぇ!」
「コニャックがちゃんとリーダーとして行動してくれるなら、僕は口出すつもりもなかったよ」
「このっ……」
そこでコニャックは思い当たる。
今回の地図はジョンが渡してくれたことを。そしてルートを入念に教えてくれたのもジョンだ。
(もしかして、ジョンさんがこの地図を渡してくれたのは意図があるんじゃないか? 兵士の先輩たちがあの村の人たちを助けてくれないから、俺たちに助けるように誘導したとか。そうだ。きっとそうなんだ……!俺があの村の人たちを守らなきゃ……。騎士として!それがジョンさんへの恩返しにもなる)
「俺は……。俺は絶対にこの村に残る! そしてこの村の人たちを山賊たちから救ってみせる! それが騎士にふさわしい行動だからだ! お前らはどうなんだ!」
コニャックは頑なに戻ることを主張するフィーを無視して、残りの騎士たちに話しかけた。
「えっと……」
騎士たちは一瞬戸惑ったが、ぽつぽつと自分の意見を言っていく。
「俺も助けるべきかなと思う……盗賊ぐらいなら俺たちにもやれるだろ」
「そうだよ。俺たち騎士を目指す人間なんだから、困ってる人を放っておくのはおかしい」
「助けられるなら助けてもいいんじゃないか?」
何人かがコニャックに賛同した。
「もちろん俺はヒースを信じるぜ!」
「僕もだよ」
「お、俺も命令違反はよくないと思う」
「うん、何をするにしても先に砦に報告したほうがいい」
北の宿舎のメンバーはフィーに全面的に賛同して、他の宿舎でも何人かがフィーの主張に同意した。
結果、見習い騎士たちは真っ二つにわれた。
コニャックの味方についたのは、ハイラルを除く南の宿舎のメンバー。そして西の宿舎の半分だった。
フィーの味方についたのは北の宿舎の全員。東の宿舎もフィーの側についた。それから西の宿舎のヘーゼルと残り1人。
10対11。お互い意見の食い違った見習い騎士たちが険悪ににらみ合う。
そんな中でコニャックは宣言した。
「俺たちはこの村に残る。これまでたくさん戦いの訓練をしてきたんだ。山賊ぐらいわけねぇよ。俺たちの力でこの村を救って見せる」
それにコニャックの側についた少年たちもうなずく。
説得はできそうになかった。
フィーは少しだけ目を閉じて、落ち着くために息を吐くと、できるだけ感情を込めない声でコニャックたちに言った。
「分かった。じゃあ、僕たちは砦にもどって報告するよ」
見習い騎士たちは二手に分かれることになった。
村に留まると主張した見習い騎士たちを置いて、フィーたちは踵を返し、道を戻っていく。
それを意地をはった表情のコニャックが、睨みつけながら見送った。
しばらく離れてから小声で、フィーが言う。
「できるだけ早く報告に戻ろう。何か変なことが起きないうちに」
それにフィーについてきた見習い騎士たちもうなずいた。
山道を頼りにフィーたちは見回りのルートを戻っていく。走っては行かないものの、かなり足早に移動していた。
そんなとき、南の宿舎で唯一、フィーの方についてくれたハイラルが呟いた。
「何かが向こうからくる」
そういってハイラルが視線を向けたのは、フィーが進む道の方角だった。
見てみるが、木々に覆われて何も見えない。でも、ハイラルの顔は、確信している表情だった。
「山賊か!?」
「隠れよう」
フィーはすぐに指示をだした。
みんなで茂みの中に隠れる。
やがてフィーたちの耳に、だんだんと何か金属音のようなものが聞こえてくる。ハイラルが気づいたのも、この音だったのだろう。だんだんとそれは大きくなっていく。
フィーたちは息を潜め、それがくるのを待った。
やがて音は完全にその耳に響いてくるようになり、フィーたちの目の前にその本体が姿を現した。それはフィーたちの隠れる茂みの10メートルほど先を長い時間をかけて通り過ぎていく。
フィーたちは呆然と、それを見送った。
すべてが通り過ぎたとき、1人の少年がかすれた声で呟く。
「なんだよ……あれ……」
フィーも声がだせなかった。口の中がからからに乾いていた。
鋼鉄製の全身甲冑を着て、ロングソードを装備した男たち。
明らかに山賊ではない。砦の兵士たち以上の訓練された動きで、列を乱さず道を歩いていった。
数は目視でおおよそ50人程度。
物盗りなどでは絶対にない、まるで今から戦争をはじめようというような出で立ちだ。
なぜ、こんなものが、こんな森にいるのか分からない。
ただその鎧を着た男たちが向かっていったのは、コニャックたちがいた村だった。
「や、やばい……! あいつら殺されるぞ……!」
勝てるわけがない。あの人数、あの装備で、あんな動きをする男たちに。
いくら騎士としての訓練を受けていたって。
「助けに戻ろう……」
フィーはすぐに指示をだしたが、さすがに動揺して声が震えていた。
それに同じようなこわばった面持ちをした少年たちがうなずいた。




