5、草原では
「こっからどうする?」
「ハトの方、探しに行かねぇか?」
「開けた場所だったか?」
「そこの木に登ればたぶんそんな場所見つかるだろ」
俺は3人を尻目に、さっきと同じように木の幹を蹴り、三角跳びの要領で木の上まで行った。
葉のついた木の枝が邪魔で視界が悪い。
幹がなくなる場所まで慎重に、枝をハシゴに見立てて登る。
木の葉から顔を出すと陽射しの眩しさで思わず目をつむった。
「おーい!なんか見えるか!」
ダイヤの叫ぶ声が聞こえた。
「待ってくれ!今、着いたところだから!」
俺はスマホのカメラモードを使いパノラマ撮影をした。
俺は辺りの景色を見て感嘆のため息を吐いた。
広がる緑はどこまでも続くかのよう。
空を見上げればどこまでも続くようなそんな青く高い。
視界の隅に映る仲間達の姿がひどく小さく見えた。
「すごいな……ここは」
歩いていた時にも思ったがフィールドが広く精度が高い。
そして今、この高い位置から見れば、一面の緑が広がり空の青と組み合わさる。
いいという言葉、それさえも無粋に感じる。
この広い世界で俺は少し戦闘にかまけすぎた気がする。
前の戦闘だけのゲームとは違うのだ。
生産もするのだろう?
もう少しイロイロ楽しんでいかないともったいない。
「おーいっ!何してんだっ!」
「高くてビビっちまったか?」
「なわけないだろっ!今降りる!」
「あっち側に少し空き地があったぞ」
俺はスマホで撮ったパノラマを3人に送った。
「お、写真撮ってたのか!」
「遠くにある木とかで方角合わせれば地図代わりになるだろう」
「スマホのマップはゲートとフィールドの端しか写ってなくて使えないもんね……」
「お、このハーブはまだとってないな」
「ダイヤ……そういうのは少し置いといてくれ」
空き地を巡りハトを難なく倒した。
移動中にネズミなど引っかかったのでもう倒していないモンスターはボスの牛だけだ。
あまりにあっけない。
ダイヤはハーブの収集がけっこう上手くいったようでご満悦の様子。
……牛を倒したら料理に使ってやろ。
「ボス牛倒したら今日は一旦〆るか」
「そうだな、さすがに夜更かしして朝寝ぼけ顔で行ったら部長が角生やしちまう」
「あぁー、会社のこと思い出させないでよ、気が重くなるよ……」
「とりあえずとっとと戦闘始めていこうぜ、あっけなく終わっちまうだろうけど」
円陣にそこら辺の草を放り込むと縁が赤く燃えだした。
「いい演出だ」
クローバーがポツリとつぶやいた。
俺はその肩を押しながらパーティー全員が円陣の中に入ったことを確認するとスマホに表示されているボス戦闘の開始ボタンをタップした。
円陣の縁の火が一気に天へと吹き上がり視界をふさぐ。
そして一瞬にしてかき消えた。
目の前には体高が120㎝程度の子牛が1匹。
「……小さいな」
初めのボスだからこの程度のサイズでもしょうがないのか。
「とりあえずいつも通りいこうか」
俺は軽く前へと走りこむと子牛の足に包丁を振り下ろす。
骨に引っかからないように、筋肉を狙って振り下ろす。
足の腱を斬り動きの阻害を目的にだ。
「喝っ!」
先制攻撃を加えた俺に行きそうだったボスのヘイトをクローバーがスキルを使って強奪した。
「ボム5秒前っ!ボス下地面!えぐるよ!」
ハートが白球をふよふよと地面に向けて放つ。
俺は跳ねてボスの側から離れた。
クローバーは盾をうまく使い、ボスを側面から押すことで、突進を受けなかった。
突進している体を横にズラされたボスは足の傷も相まりバランスを崩し、ボムの爆発を受けて完全にその体をひっくり返された。
俺は転がるボスの喉元に包丁を突き立てる。
スマホのアラームが鳴った。戦闘は終わりだ。
「あっけないな」
「まぁ、予想してたことだろ」
「最初のボスだしこんなもんでしょ」
「……。ここでも俺の出番なかっただと……」
「先に行けば行くほど回復の必要性はあがるだろ」
「早くできること増やさないといけないぜ……。このままじゃお荷物すぎる」
「んじゃ、次のログインでさっき集めてたハーブが出番になるんじゃないか?」
「スペード……。次はたぶん解体でパーツごとに分けるだけで手いっぱいになると思うんだ」
「そっか、そうだな。さすがに解体はまだ初めてだしなぁ……」
解体やったことある社畜なんてよほど特殊だ。
俺はそんな存在聞いたことなんてないぞ。
少なくとも俺はまだできない。
後で参考資料を見ていかないとだな。
テン子というあのプレイヤーも動画をいつかあげているだろうから資料にこまることはないだろう。
「あ、スペード、解体の件なんだが知り合いをコーチに呼べそうだからたぶんそこまで時間はかからないと思うぞ」
「クローバーの知り合い?」
「おぅ。解体ギルドの【ジャック・ザ・リッパー】に知り合いがいてな」
「へぇ。以前なんかのゲームで知り合いだったのか?」
「あぁ。傭兵ゲームでな」
「ふむ、あ、具体的にどれくらいの時間がかかる見積もりはあるのか?」
「指導込だとだいたい3時間くらいか。
1人なら慣れとステータスの暴力で30分くらいで終わらせられるようになるらしいぞ」
「慣れても30分はかかるのか」
「関節の多い物ほど解体には時間がかかってしまうみたいだぞ。
手早く終わらせられる人ならもっと早く終わらせる人もいるらしい。
解体ギルドの方では皮を切る人、肉を切る人っていう感じで分業してベルトコンベアー式に回しているらしい。
そうしないと解体の手が足りないらしい」
「ベルトコンベアー式っておいおい……。それ工場かよ?」
「そうでもしないと手が回らないんだよ。
解体でもアチーブメントが入手できるから特化型作ろうと思ったらなかなかいい練習場らしいぞ」
「俺らはゲームをやりにきたんだろ?」
「あぁ、そうだな」
「なんで工場で働くんだよ」
「アチーブメントの獲得のためだ」
「普通に戦闘で手に入れろよ!」
「誰でも戦闘で望んだアチーブメント入手できると思うなよな」
「ダイヤ……?いきなりどうした?」
「まず序盤なんて物も足りないんだぞ?
望んでないアチーブメントばかりたまるんだぞ!
【寄生】とかな!」
「どんまい」
「望んだアチーブメントの比率にならず、狙ったジョブへの選択肢がなかった奴は作り直ししないといけないしいろいろと大変なんだぞ!」
「お、おぅ」
「あぁ、もうこのままだといろいろやばい!」
「そ、そか、頑張れよ、ダイヤ」
「あぁ、俺は早く毒とか手に入れないといけないんだよ……。
ハーブ、けっこうなところで需要があるからだいぶ高く売れるはずなんだ」
「そうなんだな……。いろいろ考えているようで安心したよ」
「俺もできるだけ早くお荷物状態をやめたいからな」