3、イヌ集団戦
草原に出て分かったこと。エンカウントが難しい。探し方にコツがいるようだ。
クローバーの盾スキルで周囲からモンスターを引き出すものの不発が多い。
10回に1回3、4匹かかればいい方だ。
それといくら襲ってくるとわかっているといえど見えない場所から敵が来るとタイミングがとりにくい。
ハートが暇してスマホを弄っている。なんか画面弄ってやりたくなるな。
「スズメとハトとカラスがこのフィールドの鳥モンスターだよ。
スズメは町の近くの草原が主な生息域で草の上で飛んでいたりしているみたい。
ハトは少し開けた空き地で地面を突いていることが多く草の間に巣があることが多いらしいよ。
カラスは高い木の傍にたくさんいるみたい」
「ハート。助かるよ」
「ふふん」
エルフの男が自慢げに胸をそらすのでふざけ半分で胸元を押すとバランスを崩した。
「ちょ、おま、危ないじゃんか!」
「口調ブレてるぞ」
睨んでくるので手をひらひらさせて払う。
「ふん。地上のモンスターはイヌ、ネコ、ウサギ、ネズミだ。
イヌはポップポイントから半径20mを移動する。MAPに表示するから確認しといて。
ネコはポップポイントからよく移動する。岩場の影とかで寝ていることも多いが奇襲をかけられることが多い。
ネズミは地下に穴掘りあまり姿を見せない。倒すとしたら時間帯が変わる時ポップ地点で捕まえる必要がある。
ウサギは穴を掘り巣穴を作るがそこを守るために積極的に襲い掛かってくる。ポップ地点に変態が多くいるため討伐難易度は高い」
「変態?」
「変態」
「どういう意味なんだ?」
「ウサギの攻撃は基本頭突きだけなんだ。
ポップ地点が巣穴ということもあり百匹近い集団で襲い掛かってくる。
ただウサギの基礎ATKが低いせいか、攻撃が弱い。
変態というのは自身のDEFを高めることでウサギの攻撃を無効化しもふもふを楽しむ集団のことだ。
変態は基本的に装備を外した高レベルプレイヤーだ」
「面倒だな」
ネタバレはつまらないので現実でモンスター対策をしていなかった。
その影響でこんな時間をくうことになってしまった……。
きちんと話し合うべきだったな。
最低でも居場所だけは。
歩きながら今の話に合うポイントを見回っていく。
イヌ発見。10匹ほどか。
「イヌだ。割と数いるぞ」
「10匹だ」
「とりあえずスライムと同じ方法で狩る?」
「いや、スキルの育成も考えて行動しよう」
「ふむ」
「で、具体的には?」
「俺は切り落としたり裂く攻撃をメインに使いたい。部位欠損狙いだ」
「そういうことか。
じゃあ、僕は範囲魔法中心で。
当たらなければ攻撃に意味はないもの」
「俺は投擲中心で回復やるよ。
敵をクローバーの範囲内にまとめるな」
「俺は叫んで注意を惹きつける。
俺の後ろに攻撃が行かないようにしよう」
大体の方針がまとまり接敵をした。
「喝!」
クローバーはアクションでスキル入力をする。
特徴としては決めた動作をすると自動で発動すること。
スマホを触っていたらやっていられない近接職は基本これだ。
発声が一番いい。
体の動きでも入力できるが狙った瞬間に発動できないことがあるからだ。
先の町に行くとPvPができる場所、コロシアムがある。
そこでは発声してはタイミングを読まれるので動きだけになるという。
ランク付けをして戦うようにしているらしいがプレイヤー主導の運営らしい。
余談だが威力重視の魔法使いは厨二病になることが多い。
遠い場所から単発攻撃を撃っても当たらない。
範囲攻撃だと単発攻撃に比べ威力が下がる。
近寄って敵の攻撃を躱しながら魔法を撃たなければいけないのでスマホをいじる余裕はない。
動作で放とうとすると魔法の種類があまり撃てない。
よって発声入力を行うことになるのだ。
近接物理職は動作で入力してもムダが少ないので厨二病率は低い。
さすがに素面でネタに走るには厳しいものがある。
範囲外にいたイヌ達をダイヤが石の投擲で惹きつけ再度クローバーが吠える。
「ボムが飛ぶよ!」
その間に詠唱時間を済ませていたハートが声をかけ杖の先から球体を投げ飛ばす。
球体は風にのるシャボン玉のごとくゆらゆら漂いながら進み先に行くに従い萎んでいき
「爆発注意!」
吹き荒れる力がイヌ達に叩き付けられる。
スライムとは違い吹き飛ばされることすらなかった。
俺は爆風が治まるとすぐに走り出し包丁で切り付けていく。
ATKが足りないせいか浅い。
数匹の首あたりを軽く裂いたところでイヌに囲まれそうになったので離脱しクローバーの裏に回る。
「喝!」
俺についたヘイトを剥ぎ落としクローバーは正面にいるイヌ達を後ろに回さないように立ち回る。
CT待ちで連続での詠唱は出来ないハートは所在なさげに目を彷徨わせている。
ダイヤが横に回ろうとするイヌを石の投擲で惹きつけクローバーの援護に回る。
私もイヌ達の横や後ろで包丁を切り付ける。
切り落とせそうな場所を狙いながら戦い耳を切り飛ばす。
切り付けることで出血を伴う所為か徐々にイヌ達の動きは弱まりだした。
「CT開けた!ボム詠唱終わりまで5秒!」
私はその言葉を聞きイヌ達の後ろから横手にずれていきクローバーの後ろに行く。
「ボム行くよ!」
飛んでいくボムを横目に見ながらイヌが横から出ないか気を払う。
「爆発注意!」
先ほどと同じく破裂したボムはイヌを吹き飛ばした。
踏ん張ることができなくなったということだろう。
体力はなくなったんじゃないか?
俺はとどめを刺しに吹き飛んでよろついているイヌののどを切りつけていく。
イヌの首の皮は噛まれても大丈夫なようによく伸びる。
とどめを刺すつもりで深く切りつけるのは戦闘中では難しい。
肉に刃が引っ掛かることがあるからな。
戦闘を終え剥ぎ取りに入る。
「スペード。皮が台無しになっている。
切りつけるのは首だけにしてくれ」
「すまない。了解した」
「犬の皮なんて使うの?」
「何かに使えるだろ」
「いらなければ売ればいい」
「皮のなめし方の実演動画も在ったがあれは時間がかかりそうだよな」
「あぁ、数日掛かりだ。ギルドの一画を使って干してるらしい」
「なるほど」
「となるとギルドは入るか作ったほうがいいな」
「とりあえず今回は設備もないことだ。
解体なしでいかないか?」
「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」
「後でギルド入るかどうか決めるとして今日のところはレベル上げておこうぜ」
「そうだね」
「それがいいともう」
「そうであるな」
「次は何狙う?」
「スズメとネコは吸引で出てきたしいいとして」
「吸引?」
「クローバーの『喝!』って奴。
モンスター引き寄せてるじゃん。
あれあれ」
「確かに。いい命名だな」
「だろー?」
「まぁ、よい。で、吸引出来たから別のでも狙うか?」
「ここら辺だと後はハト、カラス、ウサギ、ネズミ、あとFBだね」
「ウサギとネズミは探すのも引きずり出すのも面倒だからハト、カラスに向かおう」
「了解」「異議なし!」「らじゃ」
ハトは草原の開けた場所。カラスは高い木の周辺だったか。
カラスの居場所の方が見つけやすそうだ。