0、プロローグ
側を通り過ぎる、俺と同じ大きさの爪。
擦りでもすれば生産戦士職でも速さに特化した侍料理人にはひとたまりもない一撃になるだろう。
腕が戻る動きに合わせて、鱗と鱗の継ぎ目に包丁刀を滑り込ませ、鱗を剝ぎ取る。
剥き出しになった身に後方からハートが炎をぶつけ、焼き固める。
俺が剝ぎ取り、宙へ飛ばした鱗をクローバーがキャッチすると、炉に投げ込んだ。
その長い蛇身を宙で撓め、宙に浮かべていた宝珠の1つを両手の間に浮かべた。
「宝珠、赤!」
俺はチャット欄に素早く書き込むと、クローバーの方へ走った。
宝珠はその周囲の空気を白く光らせていく。
充填する時間は1秒弱。
赤い宝珠はクローバー目掛けて白い光線のような炎を発射した。
その炎は宙に白い軌跡を描く。
この炎の攻撃範囲は見かけよりも広い。
見ることの出来ないより高温の透明な炎が白い光線の周りを包んでいるのだ。
クローバーはその炎を、炉を盾にすることで、遮断する。
「ちょうどいい炎だ!」
クローバーはそう大声で言い放つ。
クローバーの太い体は光を放っていた。
その光は赤い。
ヘイトアップのスキルを使用したのだろう。
炎は炉に当たったため遮断されたが、1度発生した炎は俺達の周囲を渦巻こうとする。
しかしダイヤが張り巡らせていた、ファイアーラットの皮から作られた、防炎の庵が防ぎきった。
少々焦げ目がついているのが内側からでも見てとれる。
次は防げそうにない。
炎の影響で周囲の酸素が激減している。
パーティメンバーはそれぞれインベントリから酸素ボンベを取り出し吸入する。
空気が変わるまでのしばらくの間は炎による攻撃は行えない。
担ぐ酸素ボンベが邪魔だ。
なかったら酸欠で終わるが。
俺は駆け出した。
クローバー目掛けて攻撃を繰り出す赤龍に飛び乗ると、その耳の穴へと入り込む。
頭に入った俺は奥へと進み、脳を切り分けた。
内部で血を浴びていた俺にスマホはアラームで知らせてくれた。
ようやくこの龍が死んだことを。
アバターを包む空気は未だ熱く、黒い毛に覆われた腕は痛みすら感じる。
けれどこの戦闘の高揚は何にも代え難い。
さてここからが俺達の本当の戦闘だ。
キレイに解体しないと料理が不味くなるぞ。
俺の握る刀、包丁刀は血に塗れたその刃を光らせた。