7
餌やり当番の日。
楓と琥珀が、やたらと俺にすり寄って案じるように鳴いた。
そんなに疲れているように見えるんだろうか。
桜にも鈴香にも洸にも夕菜にも凄まじく心配されたが、まだ大丈夫の筈だ。
「大丈夫だ」
しゃがんで、撫でて。立ち上がろうとした時。
視界がぐにゃりと歪んで、一瞬目の前が真っ暗になった。
次の瞬間全身に衝撃を感じ、自分が倒れた事を自覚する。
楓と琥珀が駆けていくのが、判る。
かしこい2匹だ、きっと誰か呼んできてくれるのだろう。
そう思った時だった。
「にぃ、にぁ、にぃ、にぁぁ」
一度も近付いてこなかった、雪が。
必死に鳴いて、俺の頬をぺろぺろと舐めた。
まるで、起きて、起きて、と言っているかのように、必死に尻尾で俺を叩き、
俺の親指より小さな前足で、必死に俺を揺さぶっていた。
大丈夫だ。
大丈夫だから。
恐ろしい敵である筈の俺を案じてくれている、
優しい雪に声をかけようとしたが。
そのまま、気を失ってしまった。
目覚めたら。
「り ゅ う い ち」
阿修羅がいた。
「斎さんに全部聞いたわ。あんた残業とか言ってた癖に土建のバイトしてたんだって?」
斎、すまん。この阿修羅が問い詰めたんだ、さぞ怖かっただろう。
「熱がさがったら存分に説教したげるから、覚悟しなさい」
とりあえず阿修羅に土下座しておこう、と起き上がったら更に怒られた。
どうやら過労で熱が出ているらしく、往診してくれた内藤先生にも凄まじく怒られた。
「熱がさがるまでは安静じゃこの馬鹿が」
「すみません」
「全くお前は昔から自分を本当に大事にせんで」
お袋の腹にいる時から俺を知っている我が家のホームドクターに、口で敵う訳がない。
それにくわえて阿修羅と泣きじゃくる洸と夕菜、真っ赤な目をして2人をなだめる洸。
心配してくれて、怒ってくれて、泣いてくれる。
幻影だとしても、今この場に確かに家族の風景がある。
今、この時で時間が止まればいい、なんて。
心底……思った。