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皆に内緒で、仕事を掛け持ちする事にした。
流石に隠しておくと不味いと思い(職場の規定には載ってないが暗黙の了解という奴)
始める前に俺の家の事情を知っている、というか元・うちの里子兼大学の先輩で現・会社の上司兼親友だと思っている斎に相談した。
「竜、お前絶対怒られるぞ?覚悟しておけ」
そう言われたが、上にかけあって正式に副業の許可をもぎ取ってくれた。
涙が出そうな程ありがたかった。
スーツで会社から日雇いの仕事をくれる土建屋に直行する俺は、もちろん周囲のがたいのいい男達に絡まれた。
安酒が飲める屋台に連れ込まれ、飲まされ、根ほり葉ほり聞かれた。
「須賀君って言ったっけか?あんた結構いいとこの社員なんだろ?何でこんなとこで日雇いなんてやってんだ」
「兄弟の学費を稼ぐ為だ。出来れば全員、大学を卒業させたい。あと、そろそろクリスマスだから、欲しいものも買ってやりたい」
「んなもん、親がなんとか」
「両親は4年前に他界した」
「あー、……悪い」
「いや、いい」
「じゃああんた、1人で家族の生活見てんのかい?」
「あぁ。上の妹はもう独り立ちしていて、生活費を入れてくれているんだが……出来ればそれは嫁入りの時に持たせたい。
生活の為に親の生命保険を切り崩すのも、親の命を削る気がして出来なかった。
それに、弟2人や下の妹が独り立ちする時に、先立つものがないときっと苦労する。
全員が俺の手を離れる時まで、出来る限りの事をしてやりたい。それがここで働く理由だ」
「ううう、あんた、いい奴だなぁ」
「飲め、今日は俺がおごってやらぁ」
何故か泣かれ更に懐かれた。
その後は絡まれる事もなく、むしろ気遣われる事が多かった。
よくしてくれる彼らに、家族ごっこの為に必死なんだ、とは口が裂けても言えなかった。
そして。
ただでさえ忙しい年末に、そんな無茶をして身体が持つ訳がなかった。