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「桜姉、布団持ってきたぜー」
「馬鹿っ、何考えていますの洸、今いい所ですのに!」
「洸兄ちゃん、空気の読めない男はもてないよ?」
「何言ってんだよ。ここは入ってかないと駄目なとこだろ」
3人が、何故か5つの敷布団と掛布団、あと枕を持つと言うより引きずってきて、俺達の方にやってきた。
居間一杯に布団が敷きつめられ、最近俺の背を抜いた洸がひょい、と俺を抱き上げて真ん中の布団に寝かせる。
夕菜が俺の頭を持ち上げ氷枕を置いてくれ、鈴香が冷えピタを額に貼ってくれた。冷たくて心地よい。
「竜兄。桜姉。俺、須賀洸になりてぇ。二人の長男にしてくれ」
息がとまるかと思った。
「私も、須賀夕菜になりたいですわ。お二人の長女にしてくださいまし」
「ぼ、僕も!俺も須賀鈴香になりたい!竜兄ちゃんと、桜姉ちゃんの子供になりたい!!」
相当間抜けな顔をしている自覚がある。
「いい、のか?そんな、俺に都合のいい事をして、本当に、いいのか?」
「いいに決まってんだろ。むしろ俺、竜兄が雪と楓と琥珀だけを「俺の家族」って呼んだ事にすっげぇ傷付いた」
「私もですわ」
「もちろん俺も」
「当然、あたしもよ」
頬を思いっきり強くひねりあげるようにつねった。
「……痛い」
「そりゃ痛いでしょ」
「痛い……」
夢じゃない。
夢じゃ、ない。
「ありがとうっ……!!!」
皆を抱きしめ、泣き疲れて気絶するまで、ひたすら泣いた。
そして翌日。
張りつめていたものがぷつんと切れたのかぶり返したのか、俺はまた布団の住人になってしまった。
「馬鹿じゃ馬鹿じゃと思っておったが、ほんっとうに馬鹿じゃな」
「すみません、先生」
「まぁ、いいわい」
ぐしゃぐしゃ、と。俺の頭を撫でてくれる先生の手が、親父の手の感触に似ていて。
壊れたままの涙腺が、また緩む。
「愛情を通り越して依存も更に超えていっそ狂う程に想っておる女子から、こっぴどくふられたんじゃ。
多少気違いじみた行動をしてもしょうがないわい」
「ちょ、せんせ、あたしは」
「そもそもどうして養子縁組を断ったんじゃ、桜。養子になってもこの馬鹿と結婚できるじゃろうに」
「え゛」
「その様子じゃ知らんかったのか……」
「……正直それもあったから、俺は、ああ思ったんだが」
診察が終わるまで、桜は固まったままだった。
「式はどうする、桜」
「(呆然)」
まぁいい、7年待った、もうしばらくは待てる。
だるい腕を伸ばし、布団に引きずり込んで目を閉じる。
今日はいい夢が、見られる気がした。




