16
そこまで言って、立ち上がり、部屋に逃げようとしたが。
「竜一!?」
「竜兄!?」
「竜兄様!?」
「竜兄ちゃん!?」
眩暈を起こしてその場にしゃがみ込んでしまった。
「……大丈夫だ」
「ぜんっぜん大丈夫じゃないわよこの馬鹿!鈴香、氷枕と冷えピタお願い!洸、夕菜、布団取ってきて!」
「判った!」
「おう、夕菜行くぞ!」
「えぇ!」
3人がばたばたといなくなり、桜と二人きりにされる。
「あんた自分が救急車で運ばれて、まだ三日しか経ってないって判ってる?
そのうち内藤先生に絞め殺されるわよこの馬鹿」
畳の上に寝かされて、膝枕、という奴をされる。
「もういい、桜。こんな最低な人間に、優しくしなくてもいい」
起き上がろうとしたが。
「最低なのはあたしの方よ」
「さく」
「ごめん、竜一。あたしが臆病だった所為で、あんたをこんなに苦しめた」
桜の指が、俺の唇を抑えて塞ぐ。
「愛してるの。あたしも、あんたを、ずっとずっと愛してるの。
あんたに妹としてしか見られてないって思いこんだ後も、ずっと、あんただけを愛してた。
あたしね、最低なの。斎さんに事情説明されて、ここで暮らしてあんたを助けてくれって言われた時、嬉しかったの。
自分から逃げたのに、小父さんと小母さんが亡くなったのに、嬉しかったのよ。
ここに帰ってこられて、すごく、すごく、嬉しかったのよ。」
優しく囁かれる言葉。
これは夢なのだろうか。それとも。
「あんたが何か悩んでるのを知ってた。
でもそれが何かを聞くのが怖くて、逃げた。
このままずっと、あんたと、鈴香と、洸と、夕菜と暮らしていたかった。
五人の暮らしが、壊れるのが嫌だったの。」
あぁ、そうか。
お前も、俺と同じだったのか。
「竜一。まだ、あの時のプロポーズ、有効?」
「あぁ、もちろん」
「あたし、三人の子持ちになる予定だけど、それでもいい?」
な。




