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「必死になって働いた。毎日毎日、家計簿ソフトとにらめっこして、必死に節約した。
趣味は全部やめた。仕事以外の時間は全部農作業と牛と鶏の世話、あと仕事の勉強にあてた。
正直、きつかった。親父達の遺産や、里親手当に手を出しそうになった事もあった。
だが、結局、今日までどちらも1円も使ってない。桜からの金も、1円だって使ってない。
流石に医療費は、医療券を使わなきゃならなかったんで無理だったが。
それ以外は全部、俺の稼ぎだ。全部、俺の稼ぎだけで、俺は、皆を養ってきた。
馬鹿げた意地をはっている、そんな事は判っていた。だがそれでも、そうでもしないと俺は自分を保てなかった」
金銭的に不自由な思いは一切させなかった自信がある。
必要なものはちゃんと買い与えたし、欲しい物だって贅沢しすぎない程度に買い与えた。
休みにはあちこち連れて行ったし、叱る時は叱り、褒める時は褒めた。
「授業参観も行った、三者面談も行った、PTAだって参加した、役員もやった。
遠足の弁当も作った、運動会だって行った。
幸せだった。本当に、本当に、毎日が、とても、とても、幸せだった。
4人がいてくれたから、俺は壊れずにすんだ。生きていられた。
家族を一気に失わずにすんだ。俺が正気を保っていられたのは、4人がここにいてくれたおかげなんだ。
だが、そんな俺の我が儘の所為で、雪を殺しかけた。」
『にぃ、にぁ、にぃ、にぁぁ』
敵であった筈の俺に、心を開いてくれた、小さな小さな命。
「あんな小さな、生まれて間もない命を。俺の我が儘で、消してしまう所だった。」
あの百合根は、結局洗ってほんの少しだけ舐めた後冷蔵庫に保管している。
雪が命がけで取ってきてくれたものを食べる資格は俺にはない。春になったら庭に植える予定だ。
「それで、ようやく気付けた……本当に、俺は、馬鹿だった。
俺の身勝手で独りよがりな我が儘に、皆を巻き込んで、本当にすまなかった。
明日にでも、里親をやめる手続きをしてくる。
今でも藤堂さんから「3人を施設に返すべきだ」と電話が来る。簡単にやめられるだろう。」
四人の前に、一冊づつ通帳とそれぞれの苗字の印鑑を置く。
「郵便局の通帳だから、何処でも引き出しは可能だ。今後の生活に、役立ててくれ」
里親手当や生活費として渡されたお金以外にも、節約して貯めたお金を四等分して振り込んである。
結婚式の費用や大学進学の学費の足し位にはなるだろう。
「鈴香。洸。夕菜。
傍にいてくれて、俺の兄妹でいてくれて、本当にありがとう。
お前達がいてくれたから、俺は生きようと思えた。どうか、幸せになってくれ」
俯いた三人の頭を、ぽん、ぽん、ぽん、と撫でる。
「桜」
何だか朦朧としてきたが、これだけは。
せめて、これだけは言わせてくれ。
「愛している。お前だけを、永遠に愛している。
どうか、幸せになってくれ」




