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非リア同盟企画参加作品

コタツムリVSスライム

作者: 観測神

クリスマス企画!

観測者様との作品です

とあるところにコタツムリがいた。



 朝起きてご飯を捕食すればすぐにコタツに潜り、昼にご飯を捕食すればまたまたすぐにコタツに潜り、夜になったらむしろコタツから出ないでご飯を捕食する、コタツ好きの中のコタツ好き。まさにコタツムリというべき存在であった。

 そして冬のある日の公園にて、今日も今日とてコタツムリを全うしていると、公園隣の森の奥から唐突にスライムが出てきたではないか。


 何ゆえにコタツムリが森の傍にいたのかといえば、蜜柑のなる木が近くにあったからであるが、それはさておき。



 森の奥から出てきたスライムは実に奇妙な姿であった。

 その流線型のぼでぃは艶やかな光を放ち、何とも弾力性を感じさせる柔らかな体をぽよんぽよんさせて出てきたその姿はまさしく世界に数多存在する”あの”スライムである。物理攻撃は効かない、されど魔法攻撃をあっさり通してしまう初心者用モンスターの姿で間違いない。

 しかし、何故かそのスライムは上から半纏を纏っていた。若干袖から腕が出ていない。


 スライムの腕とはどこぞや? という疑問は棚上げして、コタツムリは唐突に出てきたスライムを注意深く観察した。コタツムリの目がどこだ? という疑問も考えてはいけない。


 コタツムリはカタツムリの形にスライムのぽよんぽよんを足したような体をしており、視力も普通に発達している。その視力でもって、結ばれていない半纏の隙間から覗く、スライムの様子を観察するのだ。

 しかし、残念なことにスライムには顔のパーツがついていなかったので、スライムがなぜこちらに来ているのかさっぱり分からなかった。


 取り敢えず、のっそりと背中に背負ったコタツごと移動する。

 ズルズル。少しだけコタツの布団を引きずって前進してみた。

 スルスル。スライムは半纏の裾を引き摺って前進する。


 ヌルヌル。今度は反対方向へとコタツごと移動する。

 プルプル。半纏を方向転換してスライムも移動する。


 ……明らかにこちらに向けてやってきている。


「……!」


 コタツムリは、スライムがこちらを狙っているのだと分かった途端、「温もりの空間」を発動した。


 コタツムリはその生態上、背中のコタツを非常に狙われやすい。寒さに震える魔物たちが暖を取ろうと襲い掛かり、逃げ回ることになったのは一度や二度では無い。

 故にコタツムリは逃げるための時間を稼ぐためにも、コタツの中の熱を辺り一帯へと放出し、空気を暖めることで自分を狙う意味を無くす。そんな生存本能に適った実に効果的な技を、このコタツムリは惜しげもなく放った。


 しかし、スライムも負けてはいなかった。否、コタツムリの予想の上をいったというべきだろう。


 スライムは唐突に半纏を地面へと脱ぎ落とす。さっと落ちるもこもこの半纏。それをみたコタツムリはいくらコタツムリが空気をあっためたとはいえ、この寒い中にわざわざ半纏を脱いだ意味が分からずに少しの間凝視してしまった。





 瞬間、スライムから後光が差した。





 まるでありがたい正月の日の出を連想させる光が辺り一帯を包み込む。それはコタツムリも例外では無く、その何とも言えない光に包まれて穏やかな気分にさせられた。


 これこそが、このスライム「モチスライム」の特性だった。自分を狙う敵に対し、リラックス効果のある光を放つことで自分を狙ってきた相手から逃げるまでの時間を作るという秘技。いつもは半纏の中に光を溜めておき、必要な時にはその半纏を脱ぐことで能力を解放する。


 今回は、コタツムリの「温もりの空間」が、モチスライムの本能に攻撃ととられてしまったために発動したのだ。


 コタツムリはその何ともありがたい安心感に、しばし我を忘れてその場に留まっていた。

 その隙に、大技の使用で寒くなった身体をあっためるためにスライムはコタツの反対側に潜り込んでしまう。



 コタツムリが我に返った時、既にスライムは顔? だけを外に出して、ぬくぬくと熱を奪っていたのだ。 



「…………」 



 困ってしまったのはコタツムリだ。まず何よりも動けない。そして、熱を奪われていっている。

 コタツムリは寒さに弱い。短時間であれば寒さにも耐えられるが、あんまりにも長い時間寒い場所や温い場所にいると、その体はだんだんと張りを失って溶けていってしまう。


 これは不味いと考えたコタツムリは、一度自分の身体だけをコタツから外へと出した。


 スライムは、そんなことも気付かずにぬくぬくしている。







 そんなのんきにぬくぬくしているスライムを放っておいて、コタツムリは素早い動きで木に登り、なっていた蜜柑をもぎ取った。


 コタツムリは実は動きが遅いわけでは無い。コタツを背負っているからこそ遅いのだが、実際の体の動きは妙に軽快なのである。その身の軽さを上手く生かし、体が冷え切る前にコタツムリは蜜柑を持って再びコタツのところに戻ってきていた。


 そしてその頭部にある二本の触手を器用に使い、スライムの前あたりにポイッと蜜柑を投げたのだ。


 コタツときたら蜜柑。そのコンボに踊らされたスライムは、つい、コタツの中から這い出て蜜柑を取りに行ってしまう。

 モチスライムは光を溜めたり発したりできる分だけ、普通のスライムよりも柔軟性が低かった。

 つまり、手があんまり伸びなかったので、コタツから出ないと蜜柑は取れなかったのである。残念。









 外に出たスライムは、ようやく蜜柑に手が届こうかというところで徐々に体が凍り始める。

 なんで……? と、思う間もなく、スライムは完全に凍ってしまった。


 理由は、コタツムリの「オコタ熱回収」という魔法だった。

 これは、周囲の熱をそのままコタツへと集めることで、急速にコタツの温度を上げる緊急用の魔法の一つであった。

 それにより、辺りの寒さは一気に氷点下へと向かい、身体の大部分が水でできていたスライムはあっさりと凍ってしまったのだ。


 そしてコタツムリの反撃はそこでは終わらなかった。

 ごう、という音と共に、辺りに強烈な光と熱を伴った業火が吹きだしていく。



 発生源は無論、コタツムリ――――――の、コタツ。



 丁度円形のテーブルの載っている上から魔法陣が現れ、そこから勢いのある炎がスライムに向かって放射されているのだ。

 火炎放射器にも勝るとも劣らないその炎は、コタツムリが蜜柑を食べてエネルギーを補充したときのみ解放される奥義。スライムを釣るための餌としてとってきた蜜柑の他に、自分用に後二つの蜜柑を持ってきていたのだ。


 そうして十数秒が立ってその魔法の効果がつきたとき、そこには完全に焼きあがったオモチそのもののスライムと、何ともホカホカした蜜柑が転がっていた。蜜柑が焦げていない理由は謎である。

 コタツムリは態勢を変えると、ちょうど反対側にいたスライムに向き合う形になった。そして、コタツテーブルの横の収納棚から出したお箸でツンツンとスライムをつつき始める。


 ぷっくりと、本当に美味しそうなお餅のように膨れ上がったスライム。そう、モチスライムは今この瞬間を持って、モンスターから縁起物へとランクアップしたのだ!



「……♪」



 コタツムリは箸を二本の触手で器用に使い、少し小さくなったモチスライムを背中のコタツテーブルの上に置いた。そして、ついでとばかりにあったまった蜜柑も拾っておく。

 コタツムリはそのまま、取り敢えず喉を詰めた時の為に水が飲める場所がいいと、水場の方へと向かうのだった。


ちなみに蜜柑が焦げてない理由は、蜜柑エネルギーによる火炎放射だから。蜜柑には無害なのだ。


あるのだったら水道でもよかったのだが、キョロキョロ辺りを見回しても見つからなかったため噴水のところまできた。


噴水は周囲を石の腰かけにおおわれ、中央に水を噴き出す台座のある、極めて大きなものである。いつもは親子で賑わっている噴水の近くも今日に限っては誰もいなかった。


 コタツムリはその噴水の周辺にある石の丸い台座へと近づくと、モチスライムをコタツの上に乗せたまま蜜柑を食べ始めた。

 食べながら、コタツムリはフルフルと触手を嬉しいそうに振り回した。今日は、日頃からの接戦の相手に圧勝したお祝いのようなものである。勝利の美酒ならぬ勝利の蜜柑である。美味しくないわけがない。

もしかすると、いつもは一人で食べるものも友だちがいるだけでより一層美味しく感じると思っていたのかもしれないが。


そんな上の空だったのがいけなかったのだろうか案の常、蜜柑が喉に詰まってしまった。


 コタツムリは焦り、よじよじと噴水を登った。その時にころんとモチスライムが背中のコタツから転がり落ちる。しかしコタツムリはモチスライムを落としたことも気づかずに水を飲もうとしてその流動状の身を乗り出した。


そして水を飲もうとしたとき身体が傾き、あっ、と思ったときには目の前は水。



――――――バッシャーン!!



 急激に身体が冷やされる。今日の噴水は、全然動いていなかったせいか、とんでもなく冷たかった噴水の底に沈みながらコタツムリは必死にもがいた。常にコタツの中に住んでいるコタツムリにとって、冷たい水は天敵なのだ。


もがもがと、水の飛沫をあちこちへ飛ばすコタツムリ。しかし、突然のことに混乱しているのか、落ち着いてコタツの上に乗ることすら思いつかずに次第に動きが鈍くなっていく


 背中のコタツも乾いた砂のように水をドンドンと吸収してしまい、ゴポゴポと沈んでいくコタツムリ。


 そこで落とされたモチスライムが意識を取り戻した。偶然、コタツムリが飛ばした水を吸収して、おもちのように膨れ上がった体から脱皮のように一段階小さなモチスライムが出てきたのだ。勿論、体にはどこから出てきたかわからないが、半纏を纏っている。


プルプルと体全体を震わせキョロキョロと辺りを見回す。そして視界に入ったのが噴水に浮かぶ泡だった。モチスライムはそれがコタツムリが溺れているという事に気付き、慌てて噴水に飛び込む。そこに先ほどお餅にされた恨みなどはない。こう見えても仲間想いで情に厚いのだ。


 スライムは半纏を脱ぎ落とし、水の中で手を伸ばしながらコタツムリへと近づいていく。


手が届くまであと少し。もうちょっと。と手を伸ばし、ようやくコタツムリにその手が届こうかという瞬間。



――――――スライムの体は眩い光に包まれた。



シュワシュワと周辺が白い水蒸気に包まれる。その水蒸気は天へと上っていく。

眩い光。その正体は生命の危機を感じたコタツムリの熱暴走だった。

噴水の水はそのとんでもない熱暴走によって全て蒸発された。助けようと噴水に飛び込んだモチスライムもろとも……


 コタツムリがそれを理解したのは、ようやく落ち着いてふと噴水の中から外側に半纏が転がっているのに気付いた、少しあとのときだった。


それを見て、ついさっきまで一緒にいた同じ時間を過ごしたモチスライムが自分の暴走によっていなくなってしまったのだ、と悟るまでにそんなに時間はかからなかった。


コタツムリは心の中で泣いた。普通に泣くとコタツが濡れてしまうから。


 それから数日してもやはり消えたモチスライムは帰ってこない。

とっておきの蜜柑をお供えしても、コタツでぬくぬくしていても、前のようにどこからともなくモチスライムが出てくるということは無かった。あっためた蜜柑を食べても前より美味しいと感じなくなってしまった。今のコタツムリをコタツの温もり以外温めてくれるものはなかった。


ならばとモチスライムの残した半纏を纏ってみても、心にポッカリと穴が空いてしまったように寒かった。


 いつものように高機能性コタツに潜り、中から窓の外を眺めていたコタツムリはあることに気がついた。今日はいつもと違って生憎の雨。そんな雨の中に流線型の奇妙な姿の、しかし見知ったシルエットを見つけた。


 自分が濡れることなど関係なく、大好きなコタツからバッと飛び出して外に出た。そこにいたのはやはり……もう帰ってこないと思っていた唯一の友人ライバルであるモチスライムだった。



 スライムはプルプルと体を揺らした。

 コタツムリは二本の触手をスライムに向けて、ゆらゆらと揺らした。


 それはまるで、再会の挨拶を交わすようだった。





 その後は当然、濡れた体を温めるように二人寄り添いコタツで温まった。

 再会の喜びを噛み締めコタツで眠った。

これがあの日の会話であった…

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― 新着の感想 ―
[一言] 訳が分からない。 取り合えず可愛い。 可愛いは正義である(*´ω`*)。
[一言] ネーミングセンスに驚いて点数を入れたのは秘密です
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