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第一話 マギカとウィザード イビリア強襲

だいたいの方が初めましてだと思います。

句読点の使い方とか気にしてますので、そこらへんおかしかったら気兼ねなく言ってもらえると幸いです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 クレシュタール虚歴016年。13月84日に筆をる。

 こんにちわ。おはようございます。こんばんわ。わずかに焦っております。なぜなら私は今、死に際に遺書をしたためているからです。刻々と命が枯れていくのを実感しつつ、こうして震える筆を紙面に走らせることはなかなかどうして難しい。難事であります。

 この遺書をどなたがお読みになるのかは分かりません。私には親族こそおりますが、彼ら一同はここイビリアから遠く離れたアザブラントという地方に住んでおりますし、現在の状況を考えると、このわずか数枚の紙切れを彼らのもとへ郵送してくれる稀代のお人好しは、世界中を探して一人いるかも怪しいものです。すると、この遺書の唯一の宛名は、私が天に召されたのち、偶然この部屋を訪れて、机上を調べ、遺書を発見したあなたということになるのでしょうか。せめてあなたがただの物盗りでなく、また遺書を見るなり火にくべるような人でなしでないことを期待しましょう。……陽が西から昇ることを期待するよりも望み薄のような気がしますが、しかし私は諦念して遺書をしたためることをやめるわけにはいきません。どうして?

 それは、私が、このローデリヒ=アンマーバッハが命を賭してもお伝えしたい真実を握っているからです。真実とは、このアリア大陸に突如として出現した化け物の群れ、通称サヴァンに関係するものであります。如何様にしてあのような醜怪極まりない生物が誕生したのか、その真相は――――

    ・

    ・

    ・

 ――――以上、これがサヴァン誕生にまつわる全てであります。

 疑問に思われるかもしれません。どうしてそんなことを知っている? あるいは、疑いを持つのでしょうか。信憑性のしの字もない、ただの一庶民の妄想を書き連ねただけの荒唐無稽な文章なのではないかと……。

 疑念を晴らすためにも、これから私が真相を知るに至った経緯を明らかにします。

 きっかけは、私の手の内に舞い降りた『異能力マギカ』であります。サヴァン強襲によるカミュナ帝国の事実上の崩壊に伴い、この国の軍が占有していた数千種にも及ぶ異能の力が、拘束を解かれ、より良質な宿主を求めて世界の各地に散らばっていったことは周知の事実であります。

 そう、私は異能力マギカに選ばれたのです。その効果は――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そこで男の筆の滑りが鈍った。何かに憑かれたようにして机にかじりついていた男は、ふいに顔を上げた。その顔面は見るからに蒼白で、濁りきった脂汗が何滴も頬を伝っている。男はもうすぐ死ぬのである。だから遺書など書いている。カタカタと総身を震わせながら浅い呼吸を必死にくり返す彼の様子は、燃え尽きる寸前の蝋燭の火がぱっと放つ、あの悪あがきのような光によく似ていた。

「気のせい、か。だよね、まだ生まれていないもの。だからまだ来てくれるな……頼む……」

 男、つまりローデリヒ=アンマーバッハは部屋の窓に目を向けた。窓、とは言っても、嵌まっていたはずのガラスは粉々に割れていて、窓枠に至っては左半分が壁ごとえぐり取られている。ガラスと瓦礫が室内に散乱していた。まるで何か巨大なモノが部屋へ無理矢理に入り込んだ痕跡のようだ。

 そんな風の抜け道とも呼べる窓の残骸を通して、男は外を見ていた。

 視線の先には石畳の通り一本を挟んで煉瓦造りの建物が鎮座していた。4階立てのアパートである。しかし不思議なことにどの部屋にも明かりがない。時刻は午後八時を回った頃だろうか。住人全てが足並みそろえて就寝するにはあまりに早い時間帯だ。

 そして、おかしな事はもう一つ。

 対面するアパートの屋根の上に垣間見える空、本来は闇が広がるはずのそこに、今は不気味な朱色が上書きされていた。夕焼けも西に追いやられたこの時刻に空の色が変転する理由はただ一つ、火事である。街が炎に包まれている。立ち上った火柱が空まで焦がしているようだった。

「空が燃えている……」

 見る者の不安を駆り立てるような毒々しい色彩がローデリヒの網膜に焼き付いていく。

 風が吹き入り、ローデリヒの手元で燃えていた燭台の炎をかき消そうとしても、彼は火を守ろうとはしなかった。そんな些事には目もくれず、ただただ首を上に傾けて朱色の空をじっと見つめている。

 その目尻から、ふと涙がこぼれた。

 だらりと力なく垂れた腕の先、握っていたペンが音を立てて滑り落ちた。

「ああ、……うん。これが私の臨終の景色……、納得……してしまった。そうか、今日が世界の終わりなんだ……。悲しいかなナザリア、もう一度、お前の笑顔が見たかった……」


「勝手に終わらせるんじゃない。少なくとも俺はあと五十年は生きるつもりだ。しぶとく狡猾にな」


「え、誰……だ」

「シュナだ。シュナ=クレイ。俺の大切な名前だ。教えてあげるから覚えておきな」

 あたりを見渡すローデリヒの視界の端でさっと黒い影が降り立った。見れば、風穴と化した窓のすぐ側に、一人の少年が片膝をついて顔を伏せていて――――、今、彼が立ち上がる。

 第一印象は、黒い、その一言に尽きる。黒い髪に黒い瞳、真っ黒な衣服を着込んで、手袋も靴に至るまで漆黒で統一されている。唯一、肌は白いようだが、それも今は煤にまみれて目立たない。

 少年は割と幼い感じの顔つきだった。しかし、頬にいくつも走る傷跡がその印象に横やりを入れる。顔に残る裂傷の痕とらんらんと光る鋭い眼光が、まるで歴戦の戦士か訓練された軍人のような風格を彼にもたらしていた。

「サヴァンがいないな、しかしコンパスはここを指す……どういうことだ」

 ぶつぶつと独り言つ少年に対してローデリヒは問うた。

「あはは……。なんだ君その服装。カラスとでも……勝負しようって言うのかい」

「言うな、隠密性が第一だ。お洒落は二の次なんだ、理解しろ」

「というより……どこから……? ここは3階……」

「屋根伝いにここまで来た。密集した街ってのは良いよ。建物と建物が近いから、屋根が道として機能する。火の手をよけるのはさすがに面倒だったがな。いや、そんなことより……」

 黒づくめの少年、シュナ=クレイは、ローデリヒの顔を見つめた。

「酷い顔色だ。ずいぶんと辛そうだ。あんた、なんだってこんなところにいる。日の落ちる前にはサヴァン襲撃の知らせと街の中心部への避難勧告が出ていたはずだ。逃げ遅れたのか? いや……あんた傷だらけだな。もしかしてサヴァンと交戦した? 銃か何かで撃退したのか?」

 シュナは椅子に座したままのローデリヒに歩み寄ろうとした。彼の足が瓦礫をいくつか蹴飛ばす。

 するとローデリヒはゆっくり手のひらを突きだして、シュナの動きを制止した。

「待った。待っただ……シュナ君。私に近づいちゃいけないよ」

「は? なぜ? ……気、狂ったか? あんまり時間が無いんだ。やせ我慢はよせよ。あんた、さっきから顔を青くして腹押さえてるだろうが。サヴァンを撃退したなら武勇伝だ。下痢便が酷くて避難勧告に答えられなかったのなら笑い話にすればいい。何か問題が?」

 理由の不明な拒否を受けて、少年は訝しげにローデリヒを眺めた。

 ローデリヒは無理に笑顔を作りながら少年に真相を明かした。

「実は……こういうわけなんだ」

 ローデリヒは今まで身体の正面を机に向けていて、首だけ回してシュナを見ていた。だからシュナには彼の右半身が見えていなかった。

 それが今、彼が身体の正面をシュナに向けたから――――

 シュナが眉をひそめた。彼はぽつりとこぼした。

「寄生……されてる……。それも卵の大きさからして羽化寸前か……。得心がいった。だからコンパスが反応していたんだな」

 ローデリヒの脇腹の部分の服が破り取られていた。そこから見えるはずの皮膚には赤黒いつぶつぶした球体がびっしりと張りついていた。その全てがサヴァンの卵だった。大きさは直径一センチ強で、表面はぬらついた分泌液にべっとりと覆われていた。

「サヴァンの生態には……驚かされる。この卵な……払い落としても無くならないんだ。……私の体内でどんどん卵が増殖しているんだよ。卵から卵が生まれるとは、まったくどうして馬鹿げている……」

 表に出てきたのは、言わば追い出された負け組ってわけだ。ローデリヒは顔をゆがめながら力なく笑った。腹の毛には自信があるから、こいつら血肉に恵まれた体内の連中よりも優位に成長するかもな……。

「おもしろくないぞ。かける言葉もない。だが……分かった。あんたを襲ったサヴァンはモスキートと呼ばれていて、固定の巣を作らず手当たり次第人間に卵を生みつけて繁殖するんだ。被害者を何人か看取ってきたから分かる。……申し訳ないが、そこまで進行したのならもう術は、無い」

「もともと自害するつもりだったし、覚悟は出来てる。ここが諦めの境地だよ。君、出来たら明るく振る舞ってくれたまえ」

 シュナは目を伏せて下唇をぐっと噛みしめていたが、それもつかの間のことで、

「そうか」

 そうつぶやくと、ぱんっと両手をたたき合わせて音を出した。シュナは笑みを浮かべていた。悲壮感などかけらも見あたらない、とても上出来な笑みだった。

「よしよし、だったら短い余生を有効に使おうじゃないか。早速だ。あんた、名前は? リーブル語を使っているところを見ると東部の出身か? 遺書は? 遺言を伝えたい相手はいるか? 牧師のまねごとは出来ないが……幼虫のエサになる前に介錯してやることも出来なくはない。望みを言うんだ。俺、時間はあるから、命が続く範囲でじっくり考えてくれ」

「ふっ、ふふふっ、あははっ……」ローデリヒは目を細めた。

「どうした」

「いや……ね。まだ生まれるまで少し時間はあるよ……。実は、君が来てくれて救われたんだ。もう……握力がなくなっていてね……」

 ローデリヒは目線で机の上の紙を指し示した。

「遺書か?」

「なんとも……言えない。遺言は後半に短くまとめるつもりだったから」

「書きかけか」

「シュナ君、そこには……サヴァン出現の謎の……その答えが書かれている」

「なあ……に? 馬鹿言え」

「読めば、分かる。私の……最後の一仕事なんだ、ぐ……う……」

 ローデリヒが苦しげに表情をゆがめる。腹部で増殖する卵が臓器を圧迫しているためだ。

「本当に悪いが……今際いまわの際の妄言としか聞こえない。教えてくれ。なぜその真実を知るに至った?」

「ああ、だよね……」

 ローデリヒは疲れたようにほほえんだ。

 彼はふうと一息つくと、シュナの瞳をのぞき込んだ。

「なんだなんだ?」黒づくめの少年は困惑して少し後退する。

「ふ……む……」

 ローデリヒは目をそらした。

「クレシュタール正歴……009年、4月18日。妹、シャーノ=クレイが……生まれる」

「え?」シュナは目を丸くした。

「クレシュタール正歴014年……6月……2日? シャーノと風呂に入ろうとして断られ……ショックから焼身自殺を試みる。シャーノにさとされ……未遂に終わる。ふ、ふはは……」

「なっ!? 」

「クレシュタール正歴015年、7月27日、第二の妹……フラン=クレイが生まれる。フランの世話ばかりしていると、シャーノがやきもちを妬くことに気づき……シュナは幸せのひとときをおくった」

「あの……ええと……その……だ……」

「……クレシュタール虚歴016年。13月13日」

「…………」

「サヴァンの一群が……故郷リーガナムに侵攻……」

「もういい。分かったから」

「言い過ぎた……ね」

「いや、初めに疑ったのはこっちだ。あんたには証明する義務があった。……あんたも《能力者ウィザード》か。マギカはどんなものだ?」

「『全人類と知識を共有する』……だ。人類が持つ全ての知識を閲覧でき……る。知識を全て知覚できるわけではなくて……望んだ知識がぱっと出てくる……そんな感じだが。それでも、処理に困るほどの情報が溢れてきて……パンクしそうになるけれど」

「……なるほど。信用するよ。その紙の束に、サヴァン誕生の秘密が記されているんだな。俺が責任を持ってしかるべき場所に送り届けよう。あんたのこともちゃんと説明する。約束する」

 黒づくめの少年は今度こそローデリヒの机に向かって歩み寄る。その間、ローデリヒは部屋の奥、玄関のそばに置かれたベッドに腰を下ろしていた。ローデリヒがシュナに近づくのを忌避するのは、彼に寄生した卵がシュナに付着するのを予防するためだった。体外に押し出された卵が苗床を代えることは十分に考えられる。

 シュナは書類を手持ちのバッグにてきぱきとしまい込むとローデリヒの方に向き直った。

「手間取らせて済まなかった。ええと、あんた、名前は?」

 シュナが極めて笑顔を努めつつ、手始めにそう問いかけた時だった。

 ローデリヒが血相を変えて叫んだ。

「シュナ!! 後ろだ!!」

 火事がもたらした明かりを遮って、巨大な影が室内に広がる。

 シュナははっとして、振り向きながら横向きに跳ぼうとした。

 ――――遅かった。

 襲撃者サヴァンの大きな顎門が閉じられる。ブチィィッ と生々しい音がした。

 噴水のように吹き出す紅色の鮮血。

 少年の左腕が肩口から丸ごと食いちぎられていた。

「シュ、シュナ!!」

「女々しい声を出すな! 全くぜんぜん問題ないから安心するといい!」

 シュナは俊敏な足取りで敵から距離を取る。もともと横向きに跳んでいたこともあり、シュナとサヴァンは自然と窓側の壁に平行する形で対面することになる。

 黒衣の半分を血で染め上げながら、少年はすぐさま襲撃者の姿を確認した。

 クチャクチャと嫌な音が聞こえていた。現れたサヴァンがシュナの腕をうまそうに咀嚼している。

 そのサヴァンはキツネのような面相をしていた。しかし首から下はキツネとは似ても似つかない。かさついた皮膚は象牙色をしている。ひょろ長い腕が二本、対照的に異常に発達した丸太のような足が二本、身体の造りはまるで人型のそれである。体高は3メートル近くあるのではないだろうか。足を折りたたんで地べたに座っている今でさえ目線の高さはシュナとそう変わらない。

 サヴァンが口を開いてニタリと笑うと、ノコギリのようにギザギザした歯が唾液と血にまみれているのが垣間見えた。サヴァンは手を口元へ持ってくると、鋭利な爪を歯に当てて、歯間に挟まった肉を取り除きはじめた。

 ―― イヒヒ ウメエノ ダガ ホンメイハ アタマヨノ ヒトノミソ カクベツウメエノヨ

 ニタニタと笑いながら、化け物はゲプッと口から空気を吐いた。

有知能体フォルマ、か。…………。おい化け狐、そいつは最後の晩餐だ。時間も無いから巻きで行く」

 今も傷口から大量の血をまき散らしているのに、シュナは痛がるわけでもなく、ただただ冷えた眼差しをサヴァンに注いでいる。

「シュナ、挑発してどうする! 私が囮になるから君は逃げろ!」

 ローデリヒが叫ぶも、少年は直立したまま動かない。

「必要ない」

 抑揚のない声でそう言うだけある。

 ―― イッヒヒヒヒヒヒッ! ニンゲンッテヨ ツヨガッテシヌカラ オモシロイ!

 化け物が腹を押さえながら高笑いしている。

 とそのとき、哄笑に混じって、ヒュンッ と空気の割ける音がした。

 それはまばたきの合間の出来事。

 次の瞬間、高笑いしていたサヴァンの体が煉瓦造りの壁を突き抜けていた。そのまま勢いを失わず瓦礫にまみれながら隣部屋の奥で壁に激突する。轟いた破壊音が一つだったのは衝突から衝突までのスパンがあまりに短すぎたためか。戦場と化した建物の中を爆心地のような震動が縦横無尽に駆け巡り、新しく出来た壁穴のふちから瓦礫がばらばらとこぼれ落ちて止まらない。

「うるさいんだよ」

 少年は片手で頭を庇いつつ、闇よりも黒い髪をなびかせながら、舞い上がった粉塵の向こう側へ悠々と踏み入っていく。

 サヴァンは壁に貼り付けにされたまま立ち上がる気配を見せなかった。そのだだっ広い胸部の中央がまるでクレーターのように陥没していた。内臓が破裂したのだろう。折れた胸骨すらのぞいているそこからは、大量の血液が泉のようにあふれ出している。

「気絶してやがる」シュナがつぶやく。

 サヴァンは頭部からだらだらと血を流し、白目をむいてビクビクッと体を痙攣させていた。脳しんとうを起こしているようだ。だが、さすがは化け物の回復力と言ったところか、彼は数秒経たずして意識を取り戻した。サヴァンが激しく咳き込んでいると、空気の代わりに血塊がはき出される。

 ―― ゲホオッ!ゴッホゴホッ! ア、アアア! ……ナン……デ!?

 サヴァンは目の前に黒づくめ少年が立っているのに気づくと、ひどく狼狽えた様子で彼を見つめた。

「ただ蹴りを入れただけだぞ。6割も力を込めてない。柔らかすぎる」

 シュナはサヴァンの目前に近づく。

 少年の感情を感じさせない冷徹なまなざしに耐えきれず、サヴァンは右に左に目を泳がせた。そこで気づく。少年の左肩の血が止まっていた。腕を丸ごと食いちぎられて、あれだけ派手に出血していたのに、その勢いは見る影もない。瀕死のサヴァンはすぐにその理由を知ることになる。

 初め、少年の左肩からわずかな量の血がぴゅっと噴き出した。それを合図とするように、彼の肩口の肉が泡立つ水面のようにボコボコと急速に盛り上がる。活性化された細胞が暴力的なまでの速度で増殖し、骨肉がみるみる再生されていく――――。

 数秒後、少年の左腕は見事に完治していた。

 それは異能力マギカ、『活性細胞』

 ―― ウィザードダトォ……!? ドウシ、テ……ココハ……ココハァ……!

「ここら一帯はまだ、ウィザードの軍団が到達していないはず、だろ。気にするな、お前って、どのみち死ぬから。種明かしは地獄で閻魔にせびてくれ」

 ―― ア、アアア……キ、キエェェェェェェェェェェェ!!

 突如として、サヴァンが牙をむき出しにして叫びだした。が、少年は顔の毛一つ動かさない。

「威嚇を威嚇と知るものに威嚇は効かない。しかし耳障りなやつ。3つ数えるから遺言を言ってみろ。3、2、1」

 シュナの右足がサヴァンの側頭部に容赦なくたたき込まれる。

 胸に穴の空いた化け物は他愛なく吹き飛び、床をゴロゴロと転がったのち制止した。口から大量の血を吐いて、もはや立ち上がる力すら残っていないらしい。

 ―― ケバ……ブッ!?

「そんな遺言でいいんだな」

 ―― ヤダ……ヤダノ……シニタクナイ シニタクナイィ!

「締め切りは過ぎている」

 少年は寝転がったままのサヴァンに近づこうとはしなかった。

 彼はその場に立ったまま、右の手のひらを化け物の方へかざした。

「血を呪え、血族の蛮行を恨め……!」

 断頭台の刃が落ちる。

 第二のマギカが発動し、サヴァンの全身が紅蓮の炎に包まれた。

 室温が一気に上昇し、空気がゴウッとうねりを上げた。生み出された暴風に乗って蒸し風呂のような熱気が少年の肌を打つ。

 ―― ホア゛アアアアァァアアアアァァァアアアアアッッツツ!!!!

 火だるまになったサヴァンが床を転げ回っている。痛いだろう苦しいだろう。肉が焦げ落ち骨まで焼かれ、熱の塊に拘束されたそれはもはや生命いのちの形をなしていなかった。とうに失明した左目がぷちゅりと弾け、あふれ出た血の涙すら黒く変色する最中、サヴァンがこぼすように言う。

 ―― カア……サン タスケ……トオ……サ……ジャン……、ヌ……

 徹頭徹尾、能面を貫いていた少年の眉がぴくりと動いた。そこから彼の表情の変遷は凄まじかった。

「俺の……族だって……よお」

 眉間に深々と皺を刻み、歯をむき出しにして、みなぎる怒気は黒く立ち上りすらするようだった。黒髪が烈風に持ち上げられる様は怒り狂う獅子のようで、彼が激烈な憎しみに支配されたとき、そこには確かに一人の復讐鬼ネメシスが顕現していた。

 絶望と激情の狭間から、雷撃のような絶叫がほとばしった。

「俺の家族だってそう言って死んでいったんだよおおおおお!!!」

 爆炎が部屋を蹂躙する。

 膨張した内気に耐えきれず窓ガラスが粉々に吹き飛ぶ。

 立ち上った火柱が天井を焦がす中、その中央にくべられた敵はすでに虫の息だった。

 ―― ア゛アアアア……!!!

「はああああああああああ!!」

 ―― ア゛アアアアアアアアアアアアア……!!!

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! はは……、はっはっは!! ふふふふふ……あっはっはっは!!」

 少年は笑う。悪魔すら尻尾を巻くようなどう猛な笑みを浮かべていた。むき出しの憎悪の奥底に、敵を蹂躙する事への歪な歓喜が浮かび上がる。正義も道義も手放して、それはもはや快楽と言い切って嘘は無い。

「あっはっはっはっは、気味が良い!! 叫べ! 歌え! 泣きわめけ!!」





 一抹の塵すら燃やし尽くしながら火柱はなおも勢いをゆるめない。

 サヴァンの生死は確認するまでもなかった。シュナの表情もいつしか平時のそれに戻っていた。

 それでも、しばらく火が消えることはなかった。

 今は亡き被害者に捧げる弔いのつもりだったのかもしれない。


  ☆  ☆  ☆


 初めに声をかけたのはローデリヒだった。

「君も能力者ウィザードだったんだ。……ああ、傭兵団アザブラ……そうか、君はそういう道を選んだんだね」

「マギカを使ったのか? そうだ、俺はアザブラのメンバーだ。最近、転移できるウィザードが入団してな。そいつのおかげで油断していたサヴァンを背後から強襲できたんだ。この街に張りついていたサヴァンは皆殺しだ。市内の掃除が済み次第、丘の下に陣取っていたサヴァンを掃討する手はずになってる」

「しかし、驚……いたよ。二つのマギカを……所有していたこと」

「ああ、確かに珍しくはあるかもな。……そんなことより、すまない。熱くなって時間を無駄にした」

「理解……できるよ。君の人生の、軌跡の断片をのぞき見た者として」

「感謝する」

「シュナ君、私の名前はローデリヒ、ローデリヒ=アンマーバッハだ。故郷は……東のアザブラントという地域だ。君は知っているね」

「ああ、もちろん。梨ブドウの産地だ」

「あは……有名だよね……あぐ、つぅ……うぅ」

 ローデリヒがうめき声をあげる。土気色の顔をこれ以上ないほど歪ませて、いよいよ死期が近づいてきている。

 シュナは近寄るに近寄れず、その場に立ち尽くすほかない。

「ローデリヒ、生まれたか?」

「まだだよ。だが、会話を楽しむ余裕は……ないね。なるほど、微細な卵が血管に入り込んで、運搬されるわけだ。みてくれ、これ」

 ローデリヒはシャツの袖をまくり上げる。腕が鬱血してぱんぱんに腫れ上がっていた。血管に詰まった卵が2つ3つ、皮膚の盛り上がりから確認できる。

「この調子だと……ぜったい脳にも行ってるね。痛くて、うぅ、頭が割れる。……さあ、時間が来るようだ、シュナ君」

「うん」

「私の地方の慣習なんだが、遺書の文言は……5つの問いかけでしめられる。君は内容を知っている」

 シュナはこくりとうなずく。

「ある程度の知識はある。俺が代筆人になろう」

「かたじけない」

「ローデリヒ、ひとつだけ確認したい。俺はマギカを使い、この場であんたを火葬する。モスキートに寄生されている以上、それ以外に介錯する手立てはない」

「かまわない。骨の欠片だけ、拾って……この街の墓地に収めておくれ」

「承知した」

 シュナはローデリヒの用いていたペンを片手に持って、机に向かっている。机上には汚れた紙片が一つ。

「じゃあ、遺言をどうぞ」

 ローデリヒは上を向いて目を閉じている。

「ああ、何から言おう。誰から別れを告げればいい? あはは……、困ったな」

 彼の声は震えていた。

「……父さん、母さん。こうして先立つ不孝をお許しください。幼い頃から反発ばかりして申し訳なかった。無理を言って学費を捻出してもらったこと、心の底から感謝しています。私にとって、あなた達は尊敬し、目標とすべき存在でした。学校を卒業して職に就く間もなく、孝行できずに死んでいくことが悔やまれてなりません。体にお気を付けて。 ――エレノア、たくましい弟よ。お前は勉学はからっきしだったが、体が丈夫だった。私が故郷を離れて3年、身長はどのくらい伸びたかなあ。情けない兄貴を許しておくれ。両親を頼む」

「…………」

「ナザリア……大好きだ……よ」

 そこでローデリヒは話すのを止めた。代わりにシュナが言葉を発する。

「教えてください。ローデリヒ=アンマーバッハ、これから話すあなたの言葉に嘘偽りのないことを誓いますか」

「イエス、神に誓って」

「ローデリヒ=アンマーバッハ、あなたの人生で、最も幸福だった時間はいつですか」

「家族と共に育ち……ナザリアと共に過ごした全ての時間」

「ローデリヒ=アンマーバッハ、あなたの人生で最も成功した、誇れる功績はなんですか」

「ふふ、ナザリアを口説き落としたこと、かな」

「ローデリヒ=アンマーバッハ、あなたの人生で学んだことはなんですか?」

「怒りではなく、優しさを受け継ぐべきであるということ」

「……ローデリヒ=アンマーバッハ、あなたの人生で、未練を一つ述べてください」

「未練」

 ローデリヒはしばらく口をつぐんでいた。未練と聞いたとき、年老いた者には過去の記憶を探る。だが反対に、若すぎる者は将来を、己の可能性を想像する。死にゆくローデリヒにとってそれは何よりも辛いことだった。もしもこのまま生きていけるなら、自分はどんな人生を歩んだだろう。ちゃんと仕事につけただろうか、ナザリアにふられはしないだろうか、ちゃんと家庭は築けたか、どこに家を構える、子供は不自由してないか……自分は幸せか。……道は無限にあったのに、それは決して夢物語などではなく、現実に踏みしめ歩くことが出来たはずなのに、なのに……なのに……

 この瞬間、ローデリヒはいくつも分岐した道の先にそれぞれ理想の自分を見ていた。割り切れぬ未来への思いはやがて収束し、一つの言葉となって彼の口から紡がれた。

「明日の朝日が見たかった」

 シュナが立ち上がった。黒づくめの少年はローデリヒの正面に立つと、マギカを発動すべく右腕を前方に突きだした。

「シュナ……君」

「うん、どうした」

「君の強さと優しさに感謝する。そして、君に一つ」

「…………」

「全てが終わったら、君はまた優しい少年に戻ってくれるか。戻れるか」

 少年は目を細めた。

「全てというのが何を示すのか分からないが。……ローデリヒ、お節介は止めてくれ。あんたがマギカを通じて俺の何を見たのかは知らないがな。一つだけ、世界が優しいものならば、俺はこうはなっていないんだよ」

「それは……不幸の道だ」

「承知で進む俺の道だ」

「自分を偽るなよ。君は世界を……正そうとしているのでは、ないぞ。悲しみにくれて、腹を満たすだけの獣には成り下がってくれるな」

 シュナはふと笑みをこぼした。

「その言葉だけは胸に刻んでおく。忘れない。人として生きる努力をしよう」

「そう……か。うん。なら、もはや何も言うまい」

「さよならの時間だローデリヒ。死に間際まで人の心配をするお人好しめ。最高火力を一極集中するぞ。一瞬で骨の髄まで燃え尽きる」

 ローデリヒは目を閉じた。手を胸の前で交差させ、祈るようにうつむいた。

「やってくれ」

 赤い光の揺らめきが空間を占領する……。


 ☆  ☆  ☆


 炎に包まれて床に崩れ落ちたそれから、ふいに白い光が放たれる。四方に放たれた光はいったん中空で集結して拳大の光の玉となると、ぎゅんと加速して上方へ舞い上がった。そのまま天井をすり抜けて見えなくなってしまう。

 それはローデリヒにマギカが宿っていた証だった。あの光の玉は適正を持つ人間を新しく自分で選び、その人間に宿る。選ばれた人間はウィザードとしてマギカを行使できるようになる。

 だが、その事実を知っているシュナも、今このときだけは、その白い光が天へ羽ばたくローデリヒの魂に思えてならなかった。

 シュナは歌うようにつぶやいた。


 旅立ちに花束を、そなたの旅路に祝福を

 その行く先に果てのあらんことを、今一度この世で相まみえんことを


 シュナが腕を横に振るうと、メラメラと燃えていた赤い炎がいっぺんに消滅した。彼は部屋の中から適当な空き瓶を見繕うと、内部を水道の水ですすぎ、マギカを利用して乾燥させる。

 その中に、ボロボロになったローデリヒの白い骨をおさめた。

「お人好しだよ、本当に。俺の心配ばかりして、自分がサヴァンに殺されたことすら忘れてやがった……。怒るって言葉、知らなかったんじゃないのか」

 シュナは寂しげな笑みを浮かべていた。

「受け継ぐべきは優しさ、か。ローデリヒ、俺はあんたみたいにはなれないよ。世界が課した理不尽を許容することなど出来ない」


「シュナー!! どこにいるのー!! 返事してー!!」


 不意に声が聞こえた。少年は壁の外に目を向ける。

 女の、それも若い女の声だった。少年の耳はその響きを知っている。

「シチリカ、ここだ」

 少年は壁の穴から顔を出すと、空中に炎を浮かべて場所を示した。

「あ、もうっ。やっと見つけたっ。無事……だね? 何やってるの、そんなところで」

 シュナはその言葉には応えず、一度振り向いて部屋の中を見た。

 それも数瞬のことで、シュナはすぐさま階下の地面へとためらいなく飛び降りる。着地すると、彼の目の前には一人の少女が腕組みしながら立っていた。

 少女は赤い髪を風で乱しながら、同じく赤い瞳でシュナをじっと観察してくる。

「良いことと悪いことが、一つずつあったね」

「……あんたのマギカは読心じゃあないはずだ」

「分かるもん、シュナのことなら何でも。……さっきから血肉の焼ける匂いがするよ」

「サヴァンを一体ほふった。あと、人間を一人」

 赤髪の少女は苦笑した。

「サヴァンはともかく、人は屋外でもよかったんじゃ? いらない火事が増えると消火にいそしんでるフラメルが怒るよ。あとで人を派遣してもよかったんだし」

「モスキートに寄生されていた。接触は危険だったし、本人を移動させるのは気が引けた。大丈夫だ、万一はない」

「あ、……ごめん。そういうことね。さっきマギカが飛んでいったけどさ、もしかして」

「ああ、そいつのだ。知識共有系のマギカだった。遺書のほか、いくつか重要らしい書類を預かったよ」

「へえ。どんなもの?」

「まだ目を通していないんだ。落ちついたら確認しようと思う。……しかし、建物の心配をする余裕があるんだな。となるとシチリカ、戦況は?」

「あ、うん、市街地から丘の下まで快勝だよ。イビリアの内部にコンパスの反応は皆無。やっぱりルッテリアの転移能力はすごい。戦術の幅が一気に広がって、うんと戦いやすくなったよね。ねえシュナ、立ち話もあれだし、もう行こうよ。今夜は丘の上で夜通しバーベキューだって。市民も混じるらしいからすごく楽しくなりそうなの。団長も待ってるよ」

「は? ……死人はゼロじゃないだろうに、ここの住人はもう浮かれてやがるのか」

「気にしない気にしない。めそめそするよりずっとマシマシ」

「そんなもん、か。じゃあ急ご……う」

 言葉の中ほどで、突然シュナが赤髪の少女にもたれかかった。

「わ!? シュナ、その……え!? どういう……ついになの?」

 顔を真っ赤にして慌てるシチリカとは対照的に、シュナは額に手を当ててうめき声をあげていた。

「シチリカ、すまないが運んでくれ。少し目まいがする。マギカを使いすぎたみたいだ」

 少女は自分にしがみついた少年が、ずるずると地面に座り込むのを唖然として眺めていた。

「め、珍しいね。シュナ、そういう管理で間違えることって今までなかったよね」

 シチリカは背中に垂れた髪を首の後ろで分けると、肩の前に垂らす。地面に座ったシュナに対し「し、失礼するから」と断りを入れたあとで、彼を背中におぶった。そのまま歩き出す。街の街門の方へ。

「おい、俺も丘の上に行くのか……」

「うん。我慢してね。お偉いさんも来てるし、アザブラ傭兵団のメンツを紹介して名を上げるチャンスってわけ。……それにしても、サヴァン、強かったの?」

「ん? いいや。人間の火葬に力を入れすぎた。せめて楽に死なせてやろうと思ってな、火力を高めすぎたみたい」

「そっか。ふふ、シュナは優しいね」

「そんなんじゃない。きっとそいつの馬鹿がうつったんだよ」

「嫌いじゃなかったんだ?」

 シュナは一度否定の言葉を紡ぎかけたが、思いとどまった。

「……うん。だから出会いが嬉しいし、別離は悲しい」

 二人はしばらく無言で進んだ。やがて通りの石畳を踏むシチリカの足音の他に、盛大な歓声が響き渡るようになった。

「美味しそうな匂いがここまで届くね」

「丘の下にはサヴァンの死体群、いい趣味してるな」

「血だまりだらけの街中よりはマシだよ。それよりシュナ、加速してもいい? 急がないとビーモスあたりに全部食べられちゃう」

「食い意地はって転ばないようにな」

「今日はめでたい夜だから、シュナも祝杯をのまされるね」

「ご覧の通り体調がよくないから控えさせてもらうよ」

「通用しないよそんなの。えへへ、酔っ払ったら介抱してあげるね」

「……怖い」









 クレシュタール歴は別名、精霊歴とも呼ばれる。

 大陸中にひしめく精霊達にはある習性がある。精霊達はおよそ30日に一度、夜の空へいっせいに飛び上がり、多色にわたる鮮やかな燐光を地上にふりまいてみせる。そしてその習性がくり返されて12回目を迎えたとき、精霊達はそれまでのように個々の思うまま燐光を振りまくのではなく、集結して隊列を組んで、夜空に美しい幾何学模様を描き出すのだ。その幻想的な光景はいくつもの詩に詠まれ、いつだって人間を魅了してきた。

 太古の人々はその習性を利用して暦を作ることを考えた。精霊が古代から人間の生活に深く結びついて神聖視されていたこと、期間の正確さ、わかりやすさなどが相まって、現在も使用される実用的なものである。クレシュタール歴はそんな精霊歴の手法を取り入れて作られた暦の一つであったが……


 クレシュタール歴016年、12月31日


 年代わりの祝祭が各地で開かれる中、人々が心待ちにしていた精霊達の演舞フェアリーダンスはついに訪れなかった。

 代わりに現れたのは、異形の姿をした化け物サヴァンの軍勢。

 化け物の群れは闇夜に紛れ、大陸西方の雄、カミュナ帝国の帝都バリアを強襲した。前例のない化け物退治、また翼を持ったサヴァンによる上空からの攻撃に耐えきれず、バリアはあえなく陥落。祝祭のために多くの人間が集まっていた帝都は阿鼻叫喚の地獄と化した。二十万を超える人間を食して増殖したサヴァンは、周辺の街や村を次々襲いながら大陸中に行軍を開始する。

 誰が言い出したのかも分からない。しかしその言葉は人から人へ広がっていき、やがて皆こう言うようになった。

「サヴァンの襲来に伴い、精霊達は空を飛ぶことを止めたぞ。虚歴13月、偽りの暦が始まったのだ……」







 シュナは目を閉じて記憶を探っていた。

 反芻するのはローデリヒの言葉

(優しい少年に戻る? ……つまり復讐をやめろ、か。無理だローデリヒ)


(俺の身に巣くう憎しみを押さえることなど不可能だ。言ったはずだローデリヒ、世界は優しくない。あのときあの瞬間から、俺は目覚めた。俺に理不尽を課すこの世の全てに憎悪が燃えたぎる。お人好しのあんたには理解できないかな、俺の全てを飲み込み、俺を破壊の鬼とする感情の渦が……)

 シュナは唇をきつく噛みしめた。脳裏にあの光景が、耳にあの叫び声がよみがえる。感情の高ぶりから思わず震えだしそうになる体を押さえつけつつ、目を開けた彼の瞳にはまごう事なき憎悪の炎が燃えさかっている。

 流血と不幸が人の宿命であるなど認めてなるものか

 たとえそれが天の意思、変わらぬ運命であったとしても

 俺はあらがう、反逆する


(サヴァンは殺す。全て。容赦はしない。俺は止まらない)


 大きな街門が二人の前に現れる。笑い声は地を揺らすほどに大きい。

 シチリカの背中に身を預けながら、シュナは改めて心に誓うのだった。


「俺は忘れない。俺は怒りながら生きる……」

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