よくわからないやつが来た
「私は氷の魔女……。今はそれだけを覚えてればいい……」
「なんなんだ! お前は……」
やばい、少し昔を思い出して乗ってしまった。
違う、俺はもう卒業したはずである。
「私を語るときは近いうちに訪れる。しばしその時を待て……」
この厨二力!
超能力が存在するので厨二は存在しないとどこかで思っていたが違うらしい。
それはそうだ。
超能力は当たり前の世界。
だけど俺たちの世界の人が当たり前じゃない超能力にあこがれて厨二になるように、その当たり前以外に憧れる厨二が居てもおかしくないのだ。
「おい、転校生。転校早々に俺の話を聞かずにしゃべってんじゃねぇぞ」
ホームルームの時間なのに駄弁っていたせいで担任である吹上から怒られた。
当たり前の話だった。
「んじゃ、今日は解散だ」
あれからは真面目に話を聞き、そしてようやくホームルームが終わった。
そうなれば初日といったこともあり、これで帰れることになった。
「じゃあな!」
そうやって立ち去っていくのは船井翔である。
彼は野球部に入っているらしく、始業式の日から部活があるそうだ。
「おう、またな」
翔を送り出した後は次元に言われて学校の教室で待っている。
それで雛を待つためにボーとしてると前の席の氷上? だっただろうか?
その女性が立ち上がり、鞄から何かを取り出す。
帽子の真ん中辺りを押し、そしてちょっとずつ形を整えると魔女の帽子みたいになった。
そしてさらに鞄から黒いマントを取り出して体に巻きつける。
最後には様々な模様が描かれた上の部分が丸い杖を取り出した。
髪の根元が黒いのも帽子によって隠れ、その染めた銀髪の髪と魔女帽、そして魔法の杖らしきものを持つことによりその姿は漫画や小説などに出てくるミステリアスで無口な魔法使いのようだった。
「私のことを話すべき時が来たようだな……」
「おい、私を語る時が来るって今かよ。確かにホームルーム中は語るべきときじゃなかったな!」
俺の突っ込みを全く気にせずにさらに続ける。
「私は氷上眞希……。人は私のことを氷の魔女と呼んでいる」
「えっと、俺は双神凪。人は俺のことを突っ込み役って呼ぶ……」
自分で言っていて突っ込み役ってなんだよと思った。
ほかに何も思いつかなかった。そのことに愕然としてしまった。
「さすがにお互いに真名を言うわけには行かない……。だけど私には分かる。あなたは私と同類だということを……」
もしかしてこの女はあのことを言ってるのか?
だったら違うと言わせてもらおう。
俺はもう卒業したんだということを!
気づけば教室に残っているのは俺と氷上と名乗るこの女だけだった。
「そう言えば魔女ってこの世界に魔法ってあるのか?」
「魔法はある……。私がその証明……」
氷上が杖を振ると正面に煙のようなもので六芒星が生まれ、机の上に小さな氷柱ができた。
魔法すげぇ! あまりの驚きに喉が乾いてしまったようだ。
凄い唇がパサパサしていた。
それよりも魔法があるってことは……
「俺にも魔法使えるか……?」
氷上はコクリとうなずく。
俺にも魔法が……!
これはテンションあがってきた。
「俺にも教えてくれ、魔法を!」
「魔法を覚えるのには厳しい訓練が必要……。それでもいい……?」
「大丈夫だ、問題ない」
「じゃあ――「用事は終わったのじゃ。凪よ、ちょっとついてきてくれ」――……」
突然の次元の登場にその場の空気が固まる。
「うむ、そこにいるのは眞希じゃったかのう? 何をしておったんじゃ?」
「次元聞いてくれよ、この氷上が魔法を教えてくれるんだってさ」
「魔法? そんなものあるわけなかろう」
えっ!?
俺は驚きのあまりおかしな顔をしていたのだろう。
「異世界とかならともかくこの世界には魔法は存在しておらん」
「でもさっき……」
そうだ。
先ほどは魔法陣を介して氷柱が出た。
つまりはさっきのは本当に魔法だったんではないのだろうか?
「それはこやつの超能力じゃろ。こやつは冷気操作。冷気を魔法陣の形にした後にこの教室の空気の中の水を使ってその氷柱を出したのじゃろうな。その証明にほら、空気も乾いてるじゃろ」
先ほど喉が乾燥したように感じたのもそのせいか……。
「超能力も万能ではない。無から有を造り出すことなどできんのじゃからな」
「ち、違うもん。魔法はあるもん! 私たちが知らないところで魔法って生み出された世界にきっといるんだもん」
もん?
氷上が今までの無口でミステリアスな態度から一変してもんなどと使ってきた。
「私たちが知らないところで、つまりは先ほどのは魔法じゃないって認めるんじゃな?」
「あっ……。わ、分かっていないな。先ほどのは言葉の綾じゃ」
「おい、キャラが定まってないぞ」
見事にキャラが崩壊していた。
挙句には次元のキャラが写ったのか”じゃ”などと使ってきた。
「…………」
無言で次元をにらむ。
その眼もとには涙が溜まっていた。
「お、おい。次元……」
「言うな、儂も何も悪いことしてないはずじゃのに悪いことした気分になってきたのじゃ」
完全に傍から見たら俺と次元が氷上をいじめてる構図である。
「あっ! そう言えば次元は俺に用事があったんだよな」
「そうじゃ、そうじゃった。人を待たせるのも悪いから早くいかねばならぬの。というわけじゃから凪を借りていくのじゃ」
「じゃあな、氷上さん」
俺はわざとらしく大声を出しながら言い、次元もわざとらしく大声で返してきた。
つまりは俺らは次元の言う用事を盾に逃げたのだった。
だってあの状況はどうしていいのかわからねぇだもん。