異世界の説明
「ところで俺は元の世界に帰れるのか?」
それが一番の問題だった。
ある程度答えは想像できていたがそれでも聞かずにはいられなかった。
「無理じゃ……」
次元はそう言った。
今までの表情からして怒りはなかった。
「儂と同系統の実用レベルの能力者がいれば何とかなるかもしれんが、あいにくじゃが世界中を探しても次元を操ることができる能力者は儂だけじゃ……」
「そっか、じゃあとりあえずこっちの生活の目途を見つけなきゃな」
「えらい軽いな。どうして元の世界を簡単に割り切れる?」
そんな簡単に割り切れるわけもない。
実際は文句を言いたいし、泣け叫びたい。
妹を向こうに残してるし、少なからず本当に信用できる親友などもいるので戻れるならば戻りたかった。
「いや、だってそれを言ったところで何も変わんないじゃん。だからまずは目先のことを考えようってことだよ」
それは建前だった。
本音はこれ以上少女のひどい顔を見たくないからだ……。
少女が真実を伝えようとした時に一瞬だけ見せた悲しい表情を思い出す。どうにもあの顔が頭から離れず、あの顔をさせたくないと思ってしまったのだ。
だからこそ無理してでも何ともないように建前を喋る。
「とりあえず超能力について教えてくれよ。それと身分とかもどうにかしないといけないのかぁ……」
「それぐらいはどうにかして見せよう。こう見えても世界でもトップレベルの超能力の持ち主じゃ、少しつてを使えば身分もどうにかできると思うし、部屋も二つほど余ってるので自由に使ってもらって構わない。お金も政府より超能力手当と言うものが存在するからお金についても心配せんでもいい」
「いや、親とかはどうやって説明すんだよ」
「それならば問題ない。小さいときに力が制御できなかったからな。その時に化物として捨てられてから会った事すらないからな」
言葉が見つからなかった。この小さい少女はぐうたらと生活していた俺よりもかなりしっかりしていた。
そして俺の言葉に詰まった様子に気づいたのだろか? 少女は再び口を開く。
「なに、親がいなくとも生活を支えてくれた人もいるし、大切に思ってくれた者もおる。じゃから捨てた親などどうでもいいし、気にしてなどおらん」
「そっか……」
「そうじゃ」
本当のところどう思っているのか付き合いの浅い俺には分からない。だが、これ以上追及する必要もないだろう。
俺は話題を切り上げ、暗い空気を変える為に別の話題に移ることにした。
「んじゃ、頼らせてもらうよ。なんだろうな? 男女一つ屋根の下二人きりってことか? これは風呂場のトラブルなど色々うれしい場面が出てくるだろうな。あぁ、でも小学生かぁ、まあ小学生には小学s――」
俺はセリフを最後まで言い切ることができなかった。
何故なら強い衝撃が走り、気づいた時には床に転がっていたから。
「誰が小学生じゃァァァッ!」
そこにはどこから出したかも分からない鎌の刃の部分を小さくしたような武器を持った次元がいた。
とある過去によって武器や神の名前などには詳しいからこそ知っているザグナルと言う名前の武器。
殺さぬためにだろうか? 刃となってる部分ではなく、その棒の部分によって殴られたようだった。それでも十分に脅威ではあるが……。
そして次元の服も変わり、ブレザーのような服からSFチックなパワードスーツとでもいえばいいのだろうか? そのようなSFチックな機械を服に直接装着したようなこの世界には合わないデザインものを着ていた。
「さて、儂お気に入りのパワードスーツと最近手に入れた武器の試し切りでもすると使用かのう?」
「ちょっと待て、なんだよそれ? そんなん俺らの世界にもなかったぞ」
パワードスーツと言っても完全に戦闘のためであろう銃口らしきものや、スラスターらしきもので空中に浮んでいた。そんなものは俺の知っている地球の技術では無理だし、どうやってそんなマイナーな武器が出てくるのかもわからなかった。
というか、どこに持ってたんだよそれ!?
「儂の能力を説明してあったじゃろ? じゃから異世界の色々な道具を色々な世界から貰ってる(盗んでる)のじゃ」
そう言って黒い裂け目よりレイピア、ブロード・ソード、フットマンズ・アックス、ムダー、ロングボウ、トマホーク、鉄鞭など多種多様な武器を取り出す。
「それって犯z――」
「大丈夫じゃ、ばれなければ犯罪じゃないんじゃよ?」
こいつ、犯罪って自分で認めやがった。いや、認めてははないんだろうけどそれでもばれたら犯罪だということを自覚している。
確実にこいつは善人じゃねぇ、むしろ悪人だ!
「ん?」
次の瞬間には俺の首にザグナルが当てられていた。
この時俺は人生で初めて本当の殺気と言うものをその身で感じ、「なんでもありません」としか言うことができなかった。
「儂はこれでも16の高1じゃ、次に小学生と言ったら命はないと思え」
「はい!」
16!? それって俺と同じ年じゃねぇか!?
それだったら子供だからって思って色々気を使ってたのを返せよ!――などとは言えずにただびくびくと怯えるしかなかった。
「それと、儂の能力で儂が無防備になるときは基本的にその部屋ごと隔離しておるからラッキースケベなど起こると思うなよ?」
次元はそのように言った。
小学生うんぬんよりその辺の話よりラッキースケベのあたりが後になるあたりよほど自分の幼い容姿にコンプレックスを抱いてるようだ。
「そうじゃな、とりあえず今日はこのぐらいにしておこうかの?」
唐突に次元は俺の首からザグナルをどけるとそのように言った。
どうしてそのような結論になったかと言うと俺の身分書とかの裏工作ならぬ準備に時間がほしいそうだ。
そして俺が超能力を使えるか判断する為にも色々と準備をしてくれるそうで俺もそれを受け入れる。
何よりも突然異世界に投げ出されて色々頭の中も整理したかった。
今までは混乱したり、現実から逃げていたので頭の中がごちゃごちゃのままだった。
そして、そのまま俺は自分に与えられた部屋に向かった。
次元も自分の部屋に戻った頃合いだろうか? 押さえていた涙があふれ出てくる。
「どうして、どうして俺だけがこんな目に合うんだよ!」
俺は泣きながらそんな言葉を発していた。
もちろん自分が一番不幸じゃないし、もっと不幸な状況にあってる人もいるだろう。それは分かってる。
しかし、今はそんな風に考えられなかった。
どうして家族を残してこっちに来たのか、どうして友達のいない世界に来てしまったのか、様々なことを思い、その日は泣き疲れて寝るまでずっと泣き続けた。