98_侵入!オレツエー邸です
はい、カウントダウンが始まるよ!
俺は『オレツエー邸』の真正面で台車を構えた。しっかりと台車を構えると、俺は目を閉じ、深呼吸をした。
「さて――……行くぞ」
ミヤビが頷き、前を指差した。
「行きましょう!」
パスタは喉を鳴らした。
「……りょ、りょうかーい」
瞬間、俺は目を見開いて、台車のボタンを押す。
――そう、一度やってみたかったのだ。
「スピードアアアアアアップ!!」
ボタンを押した瞬間、台車の後ろから排気が吹き出し、俺が台車を押すと爆発的なスピードでオレツエー邸へとカッ飛んで行った。
俺はついに走る事が難しくなり、パスタの手を引いて台車へとしがみつく。パスタも同じように、台車に捕まった。
何だこれは!! まるで台車が大砲から飛び出したみたいじゃないか!!
そんなシチュエーション、人生で一度も見た事ないけれど!!
「大砲!! 発射アアア!!」
俺は高らかに叫び、大砲を発射した。
ドカン、と爆発音がして、台車が飛んでいく以上のスピードで大砲の弾はオレツエー邸へと突っ込む。俺達はそれを追い掛けるように進んで行った。
大砲の弾はオレツエー邸の玄関を吹き飛ばし、煙の中へ俺達は突っ込む。
「うっひょおおおお!! キモチ・イ――――!!」
何故か俺もハイテンションになっていた。
煙が晴れると、オレツエー邸の玄関が見えてくる。左右に立っていたガードマンが、唐突な俺達の登場に挙動不審な動きを見せていた。
構うもんか。行くぜこの野郎ォ!!
「勇者の目を俺に寄越せ・ビ――――ム!!」
という名の、<エアロブラスト>である。
シルケットとシーフィードに手伝ってもらい、俺は玄関扉を風の能力で吹き飛ばす。俺達はそのまま城の中へと入り、そこでようやく台車は勢いを衰えさせた。
「侵入者だ――――!!」
「異教徒が侵入してきたぞ――――!!」
ただ突っ込んだだけなのに、『異教徒』とはこれいかに。
どんな崇高な宗教を信じているのか知らないが、俺に宗教など通用しない。
知っているか!? 神などいない!!
もしも神が居たら、俺は今頃引き篭もりニートになどなっていないからだ!!
完璧な理屈である。
「アルトさん、何を突っ立ってるんですか!!」
自分に酔いすぎて走るのを忘れていた俺。なんとも格好が悪い。
後ろから追い掛けてくるガードマンを俺の<エアロブラスト>と、パスタのバズーカ砲が襲う。
バズーカ!? そんなものも使えるのか、意外と強いじゃないか、パスタ。
よし、この調子でどんどん行くぜ!!
「行くぞてめえらァ!!」
「合点!!」「しょうちのすけ!!」
ミヤビとパスタは息を合わせて、そう言った。本当にこいつら、息がピッタリだ。
俺は台車を転がし、城の廊下を一気に駆け抜ける。どこに胡散臭い教祖様が居るのかどうか知らないが、片っ端から壊していけば済むことよ!!
壁をあちこち<エアロブラスト>で吹き飛ばしながら、俺は扉を蹴破っていく。
「しまった!! 焼きたてのポーチドエッグが……」
人のオレツエー邸でポーチドエッグ作ってるお前誰!?
俺は慌てて蹴破った扉を閉めて、見なかった事にした。ふー、何か変なものが見えた気がしたぜ。
しかし、そろそろ教祖様に出会しても良いと思うのだが――……。
「アルトさん、あれを見てください」
ミヤビに言われて、俺は廊下の先を見る。
どうにも、この辺に見えているものとは違って、一段階大きな扉があった。広い空間に通じている扉のように見えるが……。
もしかしたら、あの先に神様の像があったりなんかして、それに向かって教祖様は祈っていたりするのだろうか。
――よし。
「突っ込むぞ、二人共!!」
言いながら、俺は駆け出す。後ろに人が迫っているが、とりあえず蹴破りさえしてしまえばこっちのものだ。
……今更ながら、こんな正面突破して大丈夫なのだろうか、俺。後ろに集まってきている人の数が尋常ではないのだけど。
「殺せ――――!!」
「異教徒だ――――!! 殺せ――――!!」
……捕まったら殺されるな。
俺はスピードアップのボタンを押した。さあ、突っ込め俺の台車よ!!
……何も起こらない。
「あ、スピードアップは五分制限あるから」
「そういう大事な事は先に言うモンでしょオォ!?」
パスタが言ってももう遅い。……仕方ない、このまま体当たりだ!!
俺はミヤビの台車を、そのまま扉に向かって突っ込ませた。
「扉壊すよ――!!」
……あ、そうか。パスタはバズーカ撃てるんだった。
扉を盛大にぶち壊し、俺とミヤビは煙の中に突っ込む。
遅れて、パスタも顔を出した。
「教祖様!! 貴様の悪行もここまでだ!!」
何の悪行をしてきたのか知らないが、とりあえずノリで俺は叫ぶ。
パスタが倒してくれって俺に言っているだけで、俺は『勇者の目』が欲しいだけなので、ぶっちゃけ教祖様からしてみたら迷惑以外の何者でもないよなー、とか内心では思いつつ。
――俺は見た。
「ふっふっふ。……盗んだこの『勇者の目』さえあれば、私も一躍大金持ちに……」
……なんかハゲのオヤジが、『勇者の目』を撫でながら、ニヤニヤ気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「――はっ」
……うん。
めっちゃ普通の小悪党だったアァ――――!!
ビーハイブとかマジ関係無かったアァ――――!!




