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97_胡散臭さと秋の空です

 どうにも酒場でも教祖様の信仰はそれなりにあるようで、俺は少し困ってしまった。

 俺とミヤビの立場としては、教祖様のあまり良くない噂を聞き出したかったのだが、とにかく誰も彼も教祖様を信頼し切っていて、とてもではないが悪評がどうだなどと聞ける状態ではなかった。

 むう……。ならば、どうするべきか。


「――はっ」


 その時、俺は気付いた。

 酒場の一番端の席に座った俺とミヤビとパスタだったが、辺りを見れば開発者だらけで酒盛りをしているような状態。若者など俺達くらいのもので、どいつもこいつも教祖様がどれだけすごいかという話をしていやがる。


「実は教祖様って、良い奴なんじゃないか!?」

「アルト!! 目を覚まして!!」


 慌ててパスタが俺の言葉を窘める。いやだってさあ……。もうなんか、面倒だから感じの良い教祖様から勇者の目を盗み出すっていう方法でどうかな。

 先程のバンダナヒゲの話によれば、教祖様は週に一度、俺達の前に顔を出すらしい。それ以外は常に『オレツエー邸』に潜り込んで、何やらゴチャゴチャとやっているらしいのだ。

 面倒臭い事この上ない。


「もう、正面から乗り込んじゃいましょうか? 教祖様、ペテン師なんですよね?」

「いやミヤビ、それは良くない。本当にペテンかどうか分からない以上、確実な証拠を見付けてから挑むべきだ。パスタが嫉妬しているかどうかも分からん」

「アルトはどっちの味方なんだよお!!」


 憤慨したパスタを横目に、俺は考えた。

 実際のところ、教祖様を悪く言う奴をこの酒場ではまだ見ていない。ならば、もしも仮にその教祖様がペテン師だったとして、それは優秀なペテン師だということだ。

 一体何をもって、そんなにも強い信仰を生み出しているのか。


「……確かに、急に現れた教祖様が妙に信仰強いっていうのは、少し疑問だな」


 俺が呟くと、パスタは頷いた。


「そうなんだよ。ぼくも最初の方は馬鹿にしている人しか見なかったんだけど、ある時から急に信仰する人が増えて。今ではこの通り」

「どうしてパスタは信仰しないんだ?」

「できないよ、あんな人。全然まともな感じじゃないし」


 俺は慌てて、パスタの口を塞いだ。

 話を聞いていた何名かのオヤジが、物凄い顔をして俺達を睨んでいた。いやしかし、物凄い顔だ。福笑い大会とかあったら優勝できるぜ……じゃなくてだな。

 俺は席を立ち、パスタとミヤビに合図をした。パスタは立ち上がったがミヤビは動かなかったので、仕方なく俺はミヤビを抱え上げる事になってしまった。


「どうしたの? アルト」

「良いから付いて来い」


 なんとなく、予感があった。俺達は酒場を出る。既に辺りは暗くなっていたが、俺は真っ直ぐに先程確認した『オレツエー邸』を目指した。

 強いのはお前じゃない、俺。それを証明してやらなければならんな。

 いや、俺はまだレベル二なんだけどさ。


「……なんか、変な臭いがしてきた」


 歩いて行くと、パスタがそのように言って、鼻をつまんだ。まさかとは思ったが、どうやら本当みたいだな。俺はそのまま歩いて、『オレツエー邸』の前まで辿り着いた。

 鼻をつく異臭。信仰の原因は、おそらくコレだ。

 オレツエー邸の後ろへと歩くと、そのでっかいエアコンみたいな機械を前にする。


「パスタ、これが教祖様を信仰させるための魔力拡散器だ」

「ま、魔力拡散器? どうしてそんなものが……」


 パスタの家はゴードソの反対方向の外れにあるから、まだ影響が弱いのだろう。要するに、オレツエー邸の近くに住んでいる人間ほど、その信仰を深めていくというわけだ。

 とんでもねえ事を考えやがるぜ、ペテン師め。

 ……という、エピソードだったらいいなあ。ぶっちゃけ、これが本当にそういう類の機械かどうかなど、俺には知るはずもないのだが。

 なんとなく、それっぽい事を言ってみたかっただけである。


「なるほど、確かに強い魔力を感じます」


 ミヤビが真剣な顔で頷いた。おお、俺は漫画ならどんな感じかと思って言っただけなのだが。ミヤビが言うなら、本当にそうだったりするのだろうか。

 儲けじゃないか。


「――私から」


 お前の魔力を測ってどうする。


「とにかく、変な臭いするし、コレということにしよう。まずはこれをぶっ壊す」

「え……本当なの? これ、魔力拡散器なの?」

「心配すんな、パスタ。実は俺は、異世界の住人なんだ」


 俺がそう言うと、パスタは目を丸くして驚いていた。

 すげえな、地球人としての権力。思う存分有効活用させてもらおう。


「そ、そうなの!? すごいなー……。ぼく、見た事もないよ」

「そしてだな、俺達の世界では、この機械は魔力拡散器なんだ。当たり前のように、皆今の姿を忘れている」

「……そ、そうなの!?」

「そうだ。自分はライオンだと思っている奴も居るし、子供の頃の記憶を思い出して幼児化してしまった奴もいる。……そういう、恐ろしい機械なんだ、これは。まだ影響力は弱いようだがな」


 勿論、嘘である。


「な、なんてことだ……。ぼくの予感は、やっぱり当たっていたのか……」

「そこでだ、パスタ。とにかく、この『オレツエー邸』を壊そう。それで、皆元に戻るはずだ」


 パスタは目をキラキラとさせて、頷いた。

 何故、俺がこんなにも根拠のない嘘をいくつも並べて、この城をぶち壊そうとしているのかって? そんなもの、決まっているだろう?


「……分かった、やるだけやろう!! すごいねアルト、なんでも知ってるんだね」


 ――名前が気に入らない。



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