94_機械屋、パスタ・ホリティーアです
綺麗に女性と激突したミヤビはシモンズから投げ出された。頭の上を星が舞っている。俺は慌ててミヤビに駆け寄り、ミヤビを抱き起こした。
ぐるぐると目を回しているその姿は、なんというかギャグ漫画のそれだった。
「だ、大丈夫か!? ミヤビ!!」
「ああ、川の流れのように……」
あんまり大丈夫な雰囲気ではなかった。
俺はシモンズを確認した。……流石に魔導器具、頑丈だな。隣に転がっている台車は持ち手の部分は折れてるわ、激突の衝撃で地面に叩き付けられて真っ二つになっているわでかなり残念な事になっているのに……。
しかし、ワノクニからずっと使ってきた台車だ。こうして壊れてみると、少し悲しい感じもする。
「……じゃない、あんたも大丈夫か?」
俺は道端で倒れている、もう一人の女性に駆け寄った。女性は女性で、ぐるぐると目を回している。
ピンク色の長い髪の毛をツーサイドアップにした、ミヤビ程ではないが小柄な女性だった。辺りにドライバーなどの工具が散らばっている所を見ると、何かの開発者とか、そんな所だろうか。
白衣は所々汚れていて、ベージュの手袋も使い古されていた。
「ふにゃ……とめどなく空がたそがれにそまるだけ……」
「仲良いなお前等」
どうして繋がってるんだよ。明らかにわざとだろ。
何度かミヤビと女性の頬をぺちぺちと叩くと、二人共どうにか目を覚ました。ぶんぶんと顔を振ると、意識を取り戻す。
「す、すいませんっ!! ぶつかってしまって!!」
「にゃっ!! こ、こちらこそ申し訳ないっ!! ぶつかってしまってっ!!」
お互いにペコペコバッタになりながら、謝りまくっていた。
なんか、息の合う二人だった。
どうやら少女の名前はパスタ・ホリティーアと言うらしく、俺とミヤビはパスタの家まで案内して貰った。パスタは機械を作るのが好きで、日頃から色々なものを作っているらしい。
流石は機械の街ゴードソ。こんな少女でも立派なエンジニアだ。所謂地球で言うところのエンジニアリングとは、かなり形が違うようだが。
パスタの得意とするのは、魔導器具の関係を作ることらしい。そんなものを操る機械があるというのには驚きだが、思えばシモンズだって魔導器具と呼ばれていた。そんなものもあるのかもしれない。
「しかし、ありがとな。ぶつかっただけなのに、茶まで出してもらって」
「いえいえー。ここにはお客さんが来る事が少ないから、とっても嬉しいのデスよ」
パスタは両手にレンチを持って、にやりと笑った。
「なんのこれしき。ちょっとだけ、魔力を拝借できれば」
「あー、俺は魔力とか持ってないんだわ多分。レベル低すぎて。ミヤビに頼んでくれ」
「あー、私は魔力とか持ってないんですよ魔導器具使いですから。申し訳ないんですが、アルトさんに頼んでください」
「……仲良いね、キミ達」
パスタは少し呆れた様子で、俺とミヤビを見た。
当たり前だ、魔導器具なんか作ってるような奴においそれと魔力なんか提供できるか。モルモットにされた挙句、魔力が無くなって死んでしまうかもしれないじゃないか。
……あれ? 魔力って無くなったら、死ぬの? どうなんだろう。そういえば、そんなになるほど魔法を使った事がないな。
そもそも俺が魔法を使える瞬間って、シルケットとシーフィードが現れるまではイ・フリット・ポテトに全てを任せていた訳だし。
「それにしても、二人はすごく対照的だねえ。ミヤビさんは魔力がすごく高くて、アルトさんは移動能力がすごく高いんだね」
……ん? ミヤビは兎も角、俺にそんな戦闘能力は無かった筈だが?
パスタは謎の機械のようなものを操作しながら、俺とミヤビを見ていた。ホログラムのようなモニターがいくつもパスタの前に現れ、不思議な模様を描いている。
……いや、あれは文字……なのか?
「俺はまだレベル二だぜ。移動能力も何も、地力が足りてねえよ」
「いやいや、馬鹿言っちゃいけないよ旦那。レベルは二でも、経験値は馬鹿みたいにあるじゃん」
そういうもの……なのか?
タマゴがレベルを吸われた時、それはもう弱体化していたような気がしたが。それは俺には当てはまらなかったと、そういう事だろうか。
思えば、まともな戦いをほとんどせずにここまで来たからな……。経験値ばかりが上がってしまうのも頷ける。
「良いなあ。ぼくもちょっとくらい、魔力欲しかったなあ」
「パスタは、魔力がないのか?」
「うん、ぼくの家系は魔力に恵まれなかったみたいで。おかげで代々、機械屋出身だよ」
なるほど、魔力がない人間なんかも居るのか。今まで一切見てこなかったから、これはこれで新鮮だ。
パスタはテーブルを叩くと、キラキラした瞳で俺とミヤビを見た。
「今日はぼくの家に泊まっていかない? 美味しいスパゲッティをごちそうするよ!!」
パスタだけにか。
「ゴードソのことも、色々案内したいし」
「そうですね、色々教えてください、パスタさん」
「勿論デスよー!!」
……うーん、気持ちはありがたいんだが、そんなに長居もしてられないんだよな。
さっさとルナも助け出してやりたい事だし、ミヤビの伝説の魔法とやらも、俺の勇者の武器も、半端に集められているだけで揃っていない。
一日くらい泊めてもらって、出るのが無難なところだろうか。
「ありがとう、パスタ。それじゃあ、一日だけ泊めてもらうよ」
「えー!! そんなこと言わずに一週間くらいさ」
「俺達、勇者の武器防具と伝説の魔法を集めてるんだ。あんまり、暇じゃなかったりしてな」
パスタはきょとんとして、言った。
「そういえば、三日くらい前に『勇者の目』が、ゴードソの教祖様に献上されていたよ」
――なん、だと?




