93_機械の街、ゴードソです
にゅんぱっぱ劇場によって元の姿を取り戻した(?)グモ谷は、ほぼお花畑へと形を変えていた。ゴールドナイト・ドラゴンは俺とミヤビに道を開け、晴れて俺達は泉の向こうを確認する事が出来た。
おお、ここから先は登るだけなのか。長い戦いだったぜ……毎度のごとく、戦闘と呼べるのかどうか分からない戦いばかりしているが。
俺はゴールドナイト・ドラゴンに軽く頭を下げて、脇を通った。
ミヤビは少し満足そうな顔をして、俺に胸を張った。
「ふふん。どうですか、にゅんぱっぱ劇場の力は」
「……聞きたいんだけどさ。どういう魔法なんだ、これは」
「みんなにゅんぱっぱしちゃう魔法ですよ!」
分かるか、そんな説明。俺の呪いの言葉と同じくらい分かんねえよ。
……まあ、この世界に秩序とか求めても仕方ないしな。そこはもう、開き直る事にしよう。俺達に今必要なのは、なんとかしてトーヘンボクの悪魔に会う事だ。
グモ谷の坂を登りながら、俺はミヤビの台車を押す。降りる時は一瞬だったが、登るのは結構大変だなあ。
「機械の街ゴードソだっけ? そこに辿り着いたら、次はどうするんだ?」
「えっと、リバーシブル山脈を越えて、ネガティブ橋を通ります。それから、筋肉の村へ」
マジで!? 本当に筋肉の村出て来んの!?
海の街ボウモアは位置的に絶対辿り着かないだろうけど、筋肉の村がトーヘンボクの悪魔を倒すための通り道だなんて思わなかったよ!?
もしかしたら、そこに行けばタマゴにもう一度会えるだろうか。
トゥルーも、どこかで元気にしていればいいが。
「そういえばさ、ミヤビ」
「なんですか?」
「地球は今頃、どうなっているんだろう」
ミヤビは少しだけ悩んでいたようだった。
「……二つの世界の秩序が、保てなくなってきているのだと、思います」
なんとなく理解はしていたが、やはりそうなのか。
地球と、トイレの世界。二つは密接に繋がっていたからこそ、セントラル・シティに学校は現れた。もしかしたら月子だってどこかに居るかもしれないし、トゥルーも俺の家を通してどこかに飛ばされている可能性もある。
「ある日唐突に世界が現れたり、消えたりするかもしれません。トーヘンボクの悪魔を倒すまでに、間に合えば良いのですが……」
案外、そのスイッチは唐突に押されたりしてな。
そうしたら、俺やミヤビはどうなってしまうのだろう。
「……そか」
「ごめんなさい。曖昧なことばかりで」
俺達はグモ谷を登りながら、話していた。ずんずんと高い位置へ登っていく俺達は、グモ谷の上にやがて目が行く。ミヤビはシモンズの中からそれを眺めながら、言った。
「実は、私にもよく分からない事があるのです」
「よく分からない?」
「『ビーハイブ』がやっていることが、私にとって良くない事だとは、分かるんです。シンマさんなんかに言われると、ハッとします。でも、はっきりとは理解できません」
――それは、まるで、
俺と同じじゃないか?
何かを覚えているようで、それを思い出せそうで、思い出せない。ただ、今の状態が悪いということや、良いということは、なんとなく分かる。
てっきりミヤビは色々な事を知っているのだと思っていたが、そうではなかったのか。
「……ただ、一つだけ言える事があります」
「言えること?」
ミヤビは、俯いて言った。
「私は、自分の記憶の最も大事な部分を、自分で消したかもしれません」
この世界には、元の世界の姿を覚えている者が居ない。
一体何が問題で、そうなってしまったのか。やはり、この世界の首謀者はミヤビなのか。
今は、何も分からないな。
「そして、それを持っているのは――」
ミヤビはそう言い掛けて、
「……いえ、何でもありません。進みましょう」
そう、言った。
記憶が無い部分だけじゃなく、やっぱり俺に隠している事も何かあるんだろう。ミヤビ自身もそう言っていたし、いつかは話してくれる事らしい。
話された時、俺とミヤビの関係がどうなってしまうのか、よく分からないが。
グモ谷を越えると、広大な土地に街が見えた。巨大な歯車が街の中央で回り、それに隣接して色々な機械が動いているようだ。機械の街、ゴードソ。その名に恥じない、機械の街らしい。
……ゴードソって、超言い辛いんだけど。
「あれが、機械の街ゴードソですよ」
「みたいだな。中に入ってみるか?」
「入ってみましょう!」
俺は台車を転がし、目的地を目指した。機械の街ゴードソは、やがてぐんぐんと近付いていく――……
バキ、と音がした。
……バキ?
「――えっ」
ミヤビが振り返って、俺を見た。
台車の持ち手部分が折れ、台車は俺が走って押していた速度も相まって、頭の悪いスピードで坂道を下り始めた。
――おわあ。
「あっ……アルトさ――ん!! 助けてくださああああい!!」
ミヤビが叫ぶ。え、助けろって言っても、この状況でどうやって。
俺はとにかく、シルケットとシーフィードの力を使い、坂道を下った。……追いつけねえよ!!
しかし、ワノクニからずっと使ってきたあの台車にも限界が来たのか。新しいものをどこかで買わないといけないな……。
台車なんて、どこに売ってるんだろう。
「ほあああああ――!!」
あ、ミヤビが泣いてる。そのまま真っ直ぐ進むと、機械の街ゴードソに超スピードで入って行く格好だ。
……まあ、特に問題はないんじゃないか。最早俺にも止められそうにないし。
「行く所まで行け、ミヤビ!!」
「おおおおおお――!!」
楽しそうじゃん。
どうにか台車のスピードに追い付いて、俺はシモンズを掴んだ。ゆっくりと減速していくが、俺が宙に浮いているという問題もあって中々減速はしない。
機械の街ゴードソに到着した――
「――――えっ?」
唐突に、入り口の門に人が飛び出してきた。わりと冷静だった俺は、その一瞬で我に返る。
そうか、機械の街ゴードソとか言ってるもんね。
当然、人、住んでるよね。
ぬかったわ。