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92_カオス空間!にゅんぱっぱ劇場です

 俺は素早く長剣を抜くと、ゴールドナイト・ドラゴンに向かって構えた。

 ドラゴンに乗った、金色の騎士。ともなれば、ここでやらなければならない事は一つだ。


「ゴールドナイト・ドラゴン!! 剣を構えろ!!」


 俺の言葉に合わせて、ゴールドナイト・ドラゴンは剣を構える。

 勿論、打ち合いがしたい訳ではない。俺はゴールドナイト・ドラゴンを黙らせるための、数秒の間を稼ぎたいのだ。

 長剣を大上段に構えると、どこからか和風のBGMが流れる。唐突に吹き荒ぶ風。俺は言った。


「――刹那の見切りだ。覚悟はいいか」


 ボロロローン、と三味線か何かの音が鳴る。寂れた荒野に剣を構える、竜の騎士と俺。お互いに一切の隙を許さず、合図を待って硬直していた。

 騎士ならば、絶対に避けては通ることが出来ないもの。ガンマンが早撃ち勝負をするように、俺と騎士は今、一触即発の空気で早斬り勝負に挑んでいた。

 そこに訪れたのは、数秒の沈黙。


「…………行くぞ」


 ――そう。ゴールドナイト・ドラゴンを黙らせる方法とはつまり、絶対に避けては通ることの出来ない『刹那の見切り』に合図を出さない事だ。

 そろそろ、ゴールドナイト・ドラゴンが気付く頃だろうか。ふっ、だがもう遅いぜ。俺は剣を鞘に収め、ゴールドナイト・ドラゴンに背を向けた。


「……どうやら、合図が無いようだ。この勝負は次回にお預けだな」


 ……なんだか、鎧と兜しか見えていないのに、ゴールドナイト・ドラゴンは少ししょんぼりしたように見えた。

 ちょっと可愛い奴じゃないか。

 ミヤビの台車は泉に到着した。魔法瓶を構えて、泉から水を取るミヤビ。ゴールドナイト・ドラゴンはその行為に気が付いて、ミヤビ目掛けて剣を振るう。


「おいコラ!! お前の相手は!! 俺だろうが!!」


 俺は長剣を抜き、ゴールドナイト・ドラゴン目掛けて突進した。

 ――そして、

 俺はゴールドナイトに剣の柄で殴られ、吹っ飛んだ。


「ゲフゥッ――!?」


 知ってたよ。勿論知ってたさ。ゴールドナイト・ドラゴンと俺の間には、埋めようもないレベル差があるということを。

 残念な事に、俺はトーク能力がなければ、恐らくこの世界のどの魔物にも勝つことは出来ない。

 だが――!! ミヤビは泉から組み上げた水をシモンズに流し、伝説の魔法とやらを使う段階に入っていた――!!


「ありがとうございます、アルトさん!!」


 ミヤビはそう言って、その技の名を叫ぶ――――


「<にゅんぱっぱ劇場>!!」


 ――え?

 俺は硬直した。

 ……なんつった、今?

 いや、今までファイアーボール的なのとか、アイスエッジ的なのとか、シモンズの魔法にすらハイヒート・ウォーターとか、結構それっぽい名前が並んでたじゃん。

 どうして伝説の魔法になった今、技名がこんな名前なの……?


「はい!! にゅんぱっぱ!!」


 ミヤビはシモンズの魔法によって生み出されたタンバリンを手に、パパン、と二回音を鳴らした。

 シモンズの驚異的な魔力が爆発し、ドーム状の檻と化したゴールドナイト・ドラゴンの魔法を越え、グモモモ・モモモンクスの谷に広がっていく。

 ミヤビはシモンズから立ち上がり、腰を振りながらタンバリンを叩いていた。……長い黒髪が揺れ、久しぶりにミヤビの楽しそうな姿を目にする。

 ……なんだ、こりゃあ。


「にゅんぱっぱ!! はい、にゅんぱっぱ!!」


 おお!! なんか、グモモモ・モモモンクスの谷に花が咲き始めた!!

 俺は思わず、その劇的な変化に見入ってしまった。ミヤビの鳴らすタンバリンから魔力は放出され、水面に波紋が広がるように、谷のあちらこちらへと広がっていく。

 ゴールドナイト・ドラゴンはミヤビの踊りに見惚れ、いつしかミヤビに合わせて腰を降っていた。

 シュールだ……。


「にゅーにゅにゅーにゅにゅんぱっぱ、にゅんぱっぱ、にゅんぱっぱ!!」


 ヨーデルを奏でるように、ミヤビは『にゅんぱっぱ』を歌う。甲高いファルセットと共に静かな音楽が流れ、ミヤビの周りを中心に、花畑は広がっていった。

 ミヤビはタンバリン、シンバル、カスタネットと楽器を繋ぎ、今度はシモンズからフルートを取り出す。


「にゅんぱっぱーのぱー」


 そうしてミヤビは、フルートを奏でた。

 ああ、俺も釣られて歌ってしまいそうだよハニー。俺はミヤビの下に走り、ミヤビの手を取った。フルートを吹き終えたミヤビが、俺の手を取る。俺はゴールドナイト・ドラゴンと手を繋ぎ、ゴールドナイト・ドラゴンはミヤビと手を繋いだ。

 ――今ここに、友達の輪が生まれた。


「にゅーにゅにゅーにゅっ」

「にゅんぱっぱ!」

「あっはっはっはっは!! 楽しいなあミヤビ!!」

「にゅんぱっぱ! にゅんぱっぱ劇場ですよ!!」


 俺達は輪を作り、ぐるぐると回転した。グモモモ・モモモンクスの暗黒に満ちた空気が解消され、雲の隙間から太陽が顔を出し、辺りは緑と青の空間になっていく。

 ああ、なんて素晴らしいんだ。にゅんぱっぱ劇場。楽しすぎるぜ、にゅんぱっぱ劇場。

 洗脳されてしまいそうだ!!


「起きた!! ドラゴンが目を覚ましましたよ!!」

「そうかあ!! あっはっは!!」


 何が楽しいかも分からず、俺は笑った。ミヤビも満面の笑みを浮かべて、俺に合わせる。

 これが――にゅんぱっぱ劇場の、能力か。


 で、これは攻撃魔法なのか支援魔法なのか、どっちなんだ。


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