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88_グモモモ・モモモンクスの谷です

 セントラル・シティを出た俺達は、トーヘンボクの悪魔を倒すため、ビーハイブの本拠地に乗り込むために、移動を開始していた。

 正直、今の俺のレベルで太刀打ちできるのかどうかはさっぱり分からないが、まあ『勇者の輝き』を手に入れたので、少しはまともな戦闘が出来るだろうか。

 あばよ、今までの言葉だけでどうにかしていた俺。

 俺はレベルを確認した。


○アルト

だいしゃ レベル2


 あー。ちょっと上がったね! すごいね!!

 本当、だから何だというレベルの話であるが。俺はレベルを上げるのではなく、武器の力で戦う存在なのさ。

 イ・フリット・ポテトの時は、レベルが上がらないとまるで役に立たない様子だったが。セントラル・シティで使った限りでは、ある程度の戦闘力を手に入れたような気がするしな。

 シルケットとシーフィードは普段ネックレスの中に身を隠しているようで、姿を現すことはなかった。

 俺の首には、相変わらず翡翠色のネックレスが付いている。

 ふふん。俺も成長したのだ。


「アルトさんアルトさん、あれがグモモモ・モモモンクスの谷ですよ」


 ミヤビがシモンズの中から顔を出し、俺に指差した。

 一応はミヤビの様子も回復したようで、何よりである。今頃夜が訪れない事にセントラル・シティの連中は驚いているんだろうなー、などと思いながら俺は前を見た。

 暗雲立ち込めるフィールドに、なんか黒っぽい木や地面。

 それとなく、「ギャアアアアア」的な叫び声も聞こえた。

 ……なんだここは。魔王の城か。


「なあミヤビ、これがグモモモ・モモモンクスの谷ってやつなんだよな」

「はい、そうです。グモモモ・モモモンクスの谷です」


 魔王の城か、地獄へと続く道か。どちらかにしか見えない。

 俺はそのグモモモ・モモモンクスの谷へ、偉大なる一歩を――踏み出した。

 いや、別に特に何もないんだけどね。


「どうして、こんなに不気味なんだ。ここにあの羊とか、本当に居るのか」

「スリーピング・シープはたぶん、谷の底の方で寝てると思います。……魔物に侵食されてしまっているので、こんな状態なんです」

 なるほど。ということは、羊を根こそぎ倒せば、晴れてこのグモモモ・モモモン……言い難いからもうグモ谷でいいや。

 グモ谷も普通の状態になる、ということか。


「なるほど、分かったぜミヤビ。他には、どんな魔物が居るんだ」

「ゴールドナイト・ドラゴンとか、ダークエルフ・ソルジャーとかですか」


 なんか急にレベル上がってそうな名前なのはなんでなんだよ。スリーピング・シープとか、レベル十五とかそんなもんじゃなかったか?

 どう考えてもネットゲームで言ったらMVP級の強さな名前だが。

 シモンズを転がしながら、グモ谷を歩く俺とミヤビ。どこかで聞こえてくる謎の叫び声は、どうやら木そのものが発している音だったようだ。

 何の必要があってホラー効果を出しているのか、さっぱり理解できない。


「何かあったら、よろしくな。シルケット、シーフィード」

「がってんしょうち」「おまかせあれ」


 無駄に丁寧な敬語使いやがって。

 しかし暗雲立ち込めるとはいえ、空の色まで変わるのは明らかにおかしい。魔物に侵食されていると言うなら、きっとどこかに親玉のボスが居るのだろう。

 いや、明確な根拠などないが。なんとなく、そんな気がする。

 こういう謎ダンジョン系には、どこかに一匹ボスが居るものなのだ。


「ミヤビ、とりあえず、このグモ谷を越えれば良いんだろ?」

「グモ谷?」

「察せ」

「……ああ、そうですよ。この先に、機械の街ゴードソがあります」


 ということは、ボスを無理して倒さなくても良いということか。まあどうせどこかで対峙する事になりそうだけどな。

 普通こういう謎ダンジョン系は、通り抜けるためにボスと戦わなければならないものだ。


「了解。まあ、のんびり行こうや」

「はーい。……あ、アルトさん。このダンジョンのどこかに、私の伝説の魔法を使うための泉があるので、寄って頂けると助かります」

「え? お前、いくつも瓶持ってたじゃん」

「伝説の魔法を使うには、その泉の水が必要なのですよ」


 ……ああ、あったね、そんな設定。四種類の伝説の攻撃魔法と、六種類の支援魔法だっけ。

 シモンズが活躍している所など一度として無かったから、すっかり忘れてしまっていたよ。

 俺は台車を転がしながら、辺りを見回していた。

 それにしても、急な谷だな。ふとすると、シモンズなんかゴロゴロ転がってどこかに行ってしまいそうな……

 道自体は頑丈に柵が作られていて、真っ逆さまに落ちるという事は無さそうだが。この急な坂道を延々降りて、その後に上がらないといけない、ということか。

 下は地面が見えないので、それなりに深さはありそうだ。


「ングメェッ!!」


 ……あれ? なんか踏んだ。

 ふと見ると、変な顔の羊が額に青筋を立てて、俺を見ていた。――あー、俺、こいつの足を踏んだっぽいね。

 羊にびっくりして、つい俺は台車を離してしまった。


「……おお!? ……おおー!?」


 ふと羊から目を離してミヤビを見れば、ミヤビが感動なのか恐怖なのかよく分からない声を発して、物凄いスピードで滑り降りていた。

 ……あー。ありゃー、下まで止まらないよねー。


「……ンメエ」

「おー、そーか。良かったな。ちゃんと飯は食えよ」


 ……瞬間。


「うおおおおおおお!!」


 羊に追い掛けられ、ミヤビの台車を死に物狂いで追い掛けられる俺。

 先頭を狂ったスピードで駆けるミヤビ。

 俺の後ろを追い掛けるスリーピング・シープ。

 気が付けば、そんな構図になっていた。


「アルトさーん!! 速いですー!!」

「そりゃー良かったな、安全だったならな!!」

「メエ――!!」


 羊はどうにかして俺を殴り飛ばそうと、頑張って走っている。

 俺はふと気が付き、ネックレスを手に取った。そうだ、こんな時こそこの力が役に立つ時じゃないか。


「仕事だ!! 起きろ、双子!!」

「空飛ぶって」「空飛ぶってね」


 ふんばり剣術一本だった当時の俺とは違うんだぜ。

 俺は、底の見えない谷に風を起こした。


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