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85_混乱と混沌と混濁です

 間違いない。俺達の通っていた学校が今、セントラル・シティに移動してきている。

 俺はミヤビに振り返ると、台車を手に取った。


「ミヤビ、学校に行こう!! 学校が現れた!!」


 ……ミヤビは目を丸くして、驚いているようだ。そして、同時に何かに気付いたかのような顔をしていた。

 どうしたんだ、こいつ。何を考えているんだよ。

 とにかく俺はミヤビをシモンズに入れ、台車を転がした。宿を出て大通りへ向かうと、既に人集りが出来ている。


「あの!! ちょっとすいません、通して!!」


 人も、移動してきているのか? そうだとするなら、クラスのみんなは一体どうなっているんだ。答えも分からないまま、俺は人混みを掻き分けて進んだ。

 紛れも無く、あの学校だ。俺達が地球で毎日通っていた――それが今、こんな所に移動してきているなんて。

 ならば、地球の元学校があった場所は、今頃どうなってしまっているのだろう。

 校門の前まで立つと、ある事に気付いた。

 中央のコロシアムと思われた場所が、まるでグラウンドのように――ただ、移動してきた訳じゃない。まるでそれは、合体したかのようだった。

 ――どういう、ことだ?

 こんな状態じゃあ、地球とトイレの世界、どちらが正しい状態になっているのかもよく分からないじゃないか。

 程なくして、校舎から人が出て来る。


「……ミヤビ、これは一体」

「アルトさん、ここから逃げましょう!!」


 ミヤビは俺の袖を掴んだ。

 俺はその場から動く事が出来ず、立ち尽くしていた。

 ここから逃げると言ったって、一体、どこに。そもそも、一体誰がこんな事をしたんだ。俺はコロシアムのステージ――とグラウンドが合体したような広場に走った。

 円形の建物はまるで学校の校舎のようになっていて、中庭のようなグラウンドがある、と表現するのが一番正しいだろうか。

『合体』してしまったのだ。

 それ以外に、表現のしようもない。

 校舎に入り、下駄箱を通過するとまた出入口があり、それはグラウンドに繋がる。

 ミヤビは固く目を閉じて、何かに怯えているようだった。


「一体、これは、なんだよ……!!」


 グラウンドまで走ると、俺は中心に立った。辺りを見回す。

 四方八方、校舎だ。歪んてしまったかのように、それは円形を築いていた。それが一体何を意味するのかも分からずにいた。

 こんな建造物、俺は見たことがない。バグってしまったかのような……


 ――バグってしまったのか?


 この世界が?

 地球とトイレの世界、二つの世界はバグって合体した。

 なんだよ、それ。

 ふと、屋上に――屋上と言っても、それは円形になってしまっているため、周りの校舎全てに屋上があるのだが――その一部に、人影が見えた。

 俺は、その人物を見上げた。

 赤茶の短髪は跳ねていて、黒いマントをしていた。戦士のように屈強な鎧を身に纏い、長剣を腰に。

 男は腕を組み、屋上から俺とミヤビを見下ろしている。

 俺は、奇妙な感覚を覚えた。


「――そういう、ことか……」


 ムサシ・シンマは、俺を睨み付けている。

 ――いや、俺ではない。ミヤビを睨み付けているようだった。ミヤビはただ、ムサシ・シンマを見詰めている。

 ムサシ・シンマの隣に、人影が――

 俺は思わず、叫んだ。


「コジロー!!」


 何が起こったのか分からない、といった様子だ。

 ムサシ・シンマはコジローの腕を掴み、自分自身に引き寄せる。

 ――瞬間、光が辺りを覆った。

 ミヤビは両手で顔を覆っている。

 何だ……!? この反応、どこかで見たことがある……!!


『やっと見付けた……!!』


 モンク・コーストの顔が目に浮かんだ。そうだ、暗闇の世界でモンクがもう一人のモンクに出会った時、同じように吸い込まれて……

 コジローが、ムサシに吸い込まれていく。

 嘘だろ。俺の知ってるコジローの方が偽者で、目の前のムサシが本物だって言うのかよ。

 そうして、ムサシ・シンマは『一人』になった。その表情には、怒りが見て取れる。

 屋上を蹴り、真っ直ぐに飛び降り――ムサシ・シンマは降り立った。

 俺の目の前の、グラウンドの地面に。


「これが『トーヘンボクの悪魔』の正体か」


 何言ってんだ、こいつ。

 俺にはさっぱり分からねえよ。

 どうして、ミヤビは俺の前に仁王立ちして、まるで俺を守るかのように両手を広げているのか。

 初めて、ミヤビは両手から魔力を放出した。膨大な光が辺りを覆う。

 俺は思わず、目を覆ってしまった。


「『ビーハイブ』。あなた達の好きにはさせません」


 ミヤビは言う。

 俺は目を開いた。

 ミヤビは漆黒のマントを身に纏い、その姿を変えていた。シモンズの上に立っているという事は、変わらないが――……

 ちらりと、風にはためいたマントの内側が見える。

 ……小さな、瓶だ。沢山の小さな瓶が、マントの内側に付いている。


「はっ!! てめえ自身で作ったルールに、てめえが縛られてちゃ世話ねえな!!」


 ムサシは叫んだ。ミヤビはマントの内側の瓶を一つ外し、それをシモンズに流し込む。

 ミヤビはぶつぶつと、何かを喋っている。

 ……呪文?

 聞いたこともない、呪文だ。


「伏せてください、アルトさん!! <ナイトボム>!!」


 俺は言われた通りに、その場に伏せる。

 顔を伏せているので何が起こっているのかは分からないが、とにかく巨大な爆発が起きたという事だけは分かった。

 煙に包まれて、俺は軽く咳をした。それでも立ち上がり、状況を確認する。

 ――なるほど。シモンズは、砲台か。

 ムサシ・シンマは頬から血を垂らし、ミヤビに向かって笑った。


「――相変わらず、大した威力じゃねえかよ……!!」


 ――ムサシ・シンマ一人では、ミヤビには勝てない。


 何故か、そのような確信があった。



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