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84_ここはセントラル・シティです

 俺達は再び、二人からの旅を始めた。ミヤビは最強の魔法使い。俺は、その台車として。

 目的はルナ・セントとミヤビの父、サムライさんを見つけること。そして、ビーハイブを潰すこと。特に、ワノクニを潰した奴はただでは帰せない。

 さて、俺達は再び、セントラル・シティに立ち寄っていた。目指す場所は当然ビーハイブの本拠だが、そこに辿り着くためにはまず、情報を集めなければならない。何故なら、ビーハイブの本拠地とやらがどこにあるのか、俺とミヤビは知らないからだ。

 俺はシモンズを転がしながら、セントラル・シティを歩いた。


「アルトさん、まずはどうします?」

「そうだな、まずは……酒場に行こう、情報といったら酒場だ」

「アルトさん、お酒飲めましたっけ?」

「俺は飲まないよ」


 ミヤビと何でもない事を話しながら、俺の意識はどうしても、あの漆黒の空間に向いてしまっていた。

 ……モンク。大丈夫だろうか。彼女は一体、どこに飛ばされたのだろう。

 俺の隣に居ないということは、別のどこかに――……。

 俺は推測する。

 きっと、俺達は『世界の真理』みたいなものに、抵触してしまったのかもしれない。

 ワドリーテ・アドレーベベが焦っていたのは、そのせいだったりして。

 違和感は始めからあった。

 どこか、不思議な感覚だった。地球に突如として現れた魔物や、トイレの世界のこと。

 俺の過去のことも――、


「……アルトさん? どうしました?」

「……あ、ああ」

「ちょっと、顔が疲れていますよ。酒場に行くのは明日にして、今日はもう休みませんか?」


 そうした方が良いだろうか。

 俺も、急に色々な情報が頭の中に入って来て、飽和状態になってしまっている。ここはミヤビの言う通り、冒険は明日からにした方が良いのかもしれない。

 ミヤビに苦笑して、俺は頷いた。


「……そうだな。そう、しようか」



 ミヤビは俺が、漆黒の世界に行ったことを知らない。

 そこでは沢山の人達が眠っていた事も、まるでこの二つの世界から追い出されてしまったモノ達の溜まり場のようになっていたことも。

 そもそも、おかしいという事には気付いていた。

 セントラル・シティ。王女が居なくなったというのに、平然とその姿を保ち続ける街のことも。

 宿に入ると、ミヤビはシモンズからベッドへと移動した。その珍しい光景に、俺は驚いた。


「アルトさん、何か変ですね」


 ――ミヤビは、透き通るような瞳で俺を見る。

 その時に、俺はある事を思い出した。

 両壁のオッサンと対峙した時。俺が謎の力を開放した時に、ミヤビが言い放った一言のことだ。


『あなたは『台車』です!!』


 ミヤビが台車に拘る理由。

 俺はすっかり混乱して、訳が分からなくなってしまった。

 おい、三大魔導器具。お前、もう冒険が始まって随分経つのに、何の役にも立ってないじゃないか。

 俺も、一度としてまともな戦闘などしていない。

 変な話なんだ。


「……なあ、ミヤビ。俺の十個の呪いってのは、一体何なんだ」

「適当です」


 ――ハッとして、俺はミヤビを見た。


 ミヤビはずっと、俺を見ている。

 俺が、気付こうとしていることに、気付いたからか?

 ――いや、待て待て。

 それは一体、何を意味するんだ。


「適当に作られました。大して意味はありません」


 ミヤビは立ち上がる。

 すう、と、その眼が光っているように見えた。宿に入ってすっかり自分の世界に入っていた俺は、そのミヤビの様子に驚いた。

 ――どうして、怒っているんだろう。

 少なくとも俺には、ミヤビが怒っているように見えた。


「……ミヤビ?」

「あるいは、大切な事をぼかすための手段です。十個の呪いなんてものは、アルトさんがそうだと思った時に成立するものですし、そうでないと思えば存在はしません」


 ――違う。

 眼が光っているように見えたのは、涙のせいだ。

 ミヤビの頬から、つう、と一筋の涙が流れ落ちた。



「――どうして、そんなこと、気にするんですか?」



 ――この世界は、おかしい。

 何かが間違っている。あるいは、常識とか秩序の存在しない、デタラメな世界だ。そうでなければ、俺が違和感を覚える筈がない。

 ずっと、そう思ってきた。


「ミ、ヤビ?」

「なんでもいいんです。理由なんて、なんでもいいじゃないですか」


 ミヤビは俺の腰に手を回し、抱き付いた。

 俺は、ミヤビの求めていない、真実へと近付こうとしているのだろうか。ぞっとするほど白い腕、闇に誘うような黒い髪が、俺の心を狂わせる。


「『トーヘンボクの悪魔』を、倒しに行きましょう。そうすれば、全て解決するんです」


 俺は、何を信じればいい。

 この世界において、唯一ルールのあるものは、一体何だ。

 あるいは、俺はその常識に頼って良いのだろうか。それは限りなく、全ての人を幸せにする手段だろうか。

 ――全ての人を幸せにする、手段?

 俺は何を考えているんだ。俺は自分の殻に閉じ込もっていたい引き篭もり格ゲーマーで、冒険なんかしたくなかった筈だろ。


「……ああ」


 くそ。

 思考がまとまらない。

 トーヘンボクの悪魔って、一体、何なんだ。


 ――瞬間、地震が起きた。


「おわっ!?」「きゃっ……!!」


 俺とミヤビが同時に声を出す。

 宿の窓へと走り、外を覗いた。セントラル・シティは、何事もない。

 ――いや、ある。中央のコロシアムが地震と共に崩れ、そこに巨大な建造物が現れた。

 こ、これは……


「……学校?」


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