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07_あなたは選ばれた勇者ではありません

 そうして、三日の月日が流れた。

 ちょっと、あまりに時間経つの早過ぎじゃねえかと思った諸君。ぶっちゃけ、俺も驚きだ。

 まさか、こんなに剣術に打ち込むなんて思ってもみなかった。サムライさんの教えるふんばり剣術とかいうのは、どうやら俺にはわりと肌に合ったものだったようだ。

 ワノクニからセントラル・シティまでの道程をトイレを転がして歩くという拷問を受けた後、俺は広い街並みに感嘆の息を漏らした。


「すげー……」


 中世ヨーロッパ? 例えるなら、その辺りが一番無難だろうか。

 あるいは、ローマ帝国。の、中間のような感じだ。中央にある円形のあれは、もしかしてコロシアムだろうか。すげえな、本当にそんなものがあるとは。

 俺は今一度、サムライさんから預かった短剣を持ち出した。


 別名、『勇者の血』。


 選ばれた者だけが使うことを許されるという、いかにもRPGっぽいアイテムだ。王女の口付けと共鳴させることで、その力を発揮するという。


「アルトさん、どうしましたか?」

「……いや」


 ――ある、重大な問題があるのだ。

 そう、それはとても大きな問題。


『選ばれていない人間がこの剣を振ると、魔力が暴走してアホ踊りをしてしまうという!』


 ――――俺、選ばれてないっ!!


「アルトさん」


 ……実際、一人で振ってみて試した。世にも恥ずかしい踊りをしてしまったことは、一生もののトラウマとなりそうだ。

 なんだよ異世界。そんなに俺を虐めたいのか。どこまで格好悪ければ気が済むんだ。

 王道かと思いきや、とんだ道化じゃないか。やはり俺は勇者ではなく、ただの台車だったらしい。響きは似ているのに、こうも現実が違うとは。

 あー。……サムライさんになんて言おうかな。

 ま、いいや。負けた後でそれとなく返そう。

 ――あっ


「……アルトさん、大丈夫ですか? なんで踊ってるんですか?」


 鞄に収めようと思ったら、若干振られてしまったらしい。

 有人はアホ踊りを踊った!!


「……おい、見ろよ。なんだあれ」

「……なんだか分からないが、ものすごくアホだな……」


 恥ずかしい。

 死にたい。

 一回くらいだったら、死んでも大丈夫かな。教会とかあったら試してみようか。

 ふと、背中に何かがぶつかった。アホ踊りを踊っていた俺は、そのまま前方に倒れ込んだ。

 ――あっ


「ちょっと!! 何でこんな所でアホみたいな踊り……何? どうしたの? 大丈夫?」


 俺は倒れながらも、一生懸命アホ踊りを踊っている。

 ……一分くらいは踊ったままなんだよ。余計に振られたら、それだけ時間が長引くだろ。やめてくれ。

 踊りながら、俺はぶつかってきた少女の顔を見た。ミヤビとは対照的に、綺麗な長い金髪だ。ツインテールにして、水色っぽいドレスを着ていた。

 優雅な感じで、美人な人だ。


「……あの、すいません。大丈夫ですか? 私、うっかりぶつかってしまって……」


 アホ踊りを踊っている最中に美女に敬語を使われて、今俺は本当に死にたいよ。周りの見物客も多くなってきた。

 このままでは、俺がアホ踊りの戦士だと勘違いされてしまう……。俺は泣きながらミヤビにアイコンタクトした。

 走って逃げるぞ。と、口を動かして説明する。


「パクって逃げるぞ?」


 惜しいな!! 似てるけど違うよ!! ミヤビのバカ!!


「……な、なっ」


 何故か、金髪少女が俺のパクりをすごく意識して手荷物を抑えている。……やめてよ。俺、普通の人間だから。

 とか言ってるうちにアホみたいな踊りの時間は終了した。俺は即座に短剣を鞄に収めた。どうやら、持ってさえいなければ魔力は暴走しないみたいだからな。

 もう二度と出すものか。


「……こほん」


 俺は咳払いをした。それとなく、ミヤビの台車を掴む。


「あっ!! あんな所にスネ毛の濃い、良いホモが!!」

「えっ!?」


 振り返るのかよ。

 ミヤビ、お前も振り返るのかよ。

 まあ、俺にとっては好都合だ。俺はそのままミヤビの台車を押して、早急にその場を後にした。


 戦士選抜受付に行くと、屈強な男達が並んで何か質問に答えていた。質問をしている受付の人は、エントリーシートに何かを書いている。俺とミヤビはその列に並んだ。

 いや、ミヤビは並ぶ必要なんかないんだが。こいつ俺が移動させないと、トイレの中で寝てるんだもん。

 ああ、シモンズね。


「出身地は?」

「ドン・ホキーテだ」


 ……なるほど、出身地なんかを答えるんだな。俺は――……ワノクニでいいか。

 ということは、やはりこのセントラル・シティは色々な場所から人間が集まる、この世界で言うところの都会みたいなものだと思っていて良いのだろう。

 少しずつ前に行き、やがて俺が答える番が回ってきた。ベレー帽を被った受付のお姉ちゃんが、俺とミヤビを見て怪訝な顔をした。


「……ここは、戦士選抜の受付だよ。見物客はあっち」

「違う違う!! 参加!! 俺、参加!!」


 ――そんなにひょろく見えるのか。まあ、そうかもしれないが。

 周りはアメリカ人みたいなごつい男ばかりだ。……確かに、俺はこんな中で勝ち抜かなければならないのか。



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