77_巨大化は芋羊羹とともに、です
マリードールはそう宣言すると、笛を吹き始めた。彼女の周囲に再び鼠の群れが……って、あれ?
奴の後ろに居るのはもしかして、もう一人の魔物使い……か? 青い髪、三角帽子に黒いマント。ケントさんと同じように、白目を剥いていた。
そうか。そうだよな。操っていたのがケントさん一人なら、夜に鼠の大群を押し掛けてきたり出来ないはずだ。
本当の戦いはこれから、ってとこか……!!
「……あれ? 僕は、何を」
「気が付きましたか、ケントさん」
俺はステータスウインドウを開き、ケントさんのステータスを確認した。
○ケント
まものつかい レベル10
キューティクル レベル32
……わー、すっごい共感できるステータス。
でも、キューティクルが付いているから少しだけ戦力にはなりそうだ。良かったぜ、俺のような役立たずが増えなくて……!!
「キューティクル!」
ケントさんは目を覚ますなり転がっているキューティクルに近付き、魔法を唱えた。
「<モンスター・ヒール>」
……ああ、そういう魔法があるのか。キューティクルの傷が癒やされ、再びキューティクルは元気に空を飛び回った。
よし、今度はこっちもフルメンバーだぜ!
「すまない、アルト君。少し気を失っていたようだ」
「まー、結果オーライってことよ。訳あって、鼠の親玉と戦うことになっちまった。協力してくれ」
「もちろん!!」
ケントさんはキューティクルに指示をした。キューティクルは上空へ向かい、光の矢を構えた。
「<シャイニング・アロー>!!」
ああ、そうそれ。そんな名前だったよね。
キューティクルは光の矢を放ち、鼠に当てる。レベル差があるからそれだけで倒れる事はないだろうが、キューティクルの攻撃なら少しは効いている筈だ。
モンクが腕を振るい、歯を見せて笑った。巨大な斧を一旦置き、モンクは言う。
「よーし、妾もやる気が出てきた!! 行くぞ、アルト!!」
「合点!!」
「フォーメーションIだ!!」
「フォーメーション愛!? なんかちょっとエロいな!! よし、乗っ――」
モンクは俺の腰を掴んで持ち上げると、そのままマリードールに突撃――……
「って電車ゴッコか――――い!!」
いや、もしかしてこれはアレですか? さっきの事をまだ根に持ってて、俺も同じ目に遭わせてやろうっていう魂胆げっふんっ!!
俺はトモゾーに腹を殴られ、衝撃で一瞬身体がブレた後、後方に吹っ飛ばされた。
……あー、俺のHPが瀕死一歩手前に。
「おとり作戦だ!!」
「言うのおせーよ!!」
モンクはそのまま、魔物使いの女性目掛けて一直線に――だが、トモゾーに弾かれた。
武器を持たないモンクは、トモゾーと素手で撃ち合う。どうやら、かなり重い打撃のようだ。
「ぐうっ……!!」
「そう何度も同じ手は食わないのですですよ」
仕方なしに、モンクは後ろに下がった……って俺のおとり、全く役に立ってねーじゃねーか!! ふざけんな!!
俺は立ち上がり、下がったモンクの後頭部を殴った。
「痛いわ!!」
「お前俺をおとりに使うなら成功させろよ馬鹿だな――!!」
「知らんわ!! 乙女を殴るなんざ恥を知れ恥を!!」
再び喧嘩する俺とモンク。その傍らで、
「……あれはまさか、ルビイ!?」
魔物使いを知っているのか、ケントさんが驚きに声を漏らした。
マリードールが笛を吹くと、彼女の周囲に邪悪なオーラが立ち込める。そう、それは鼠やトモゾーの周りを覆っている何かのような――程なくして、マリードールは宣言した。
「今度は私も戦うのですですよ」
マリードールの身体が瞬く間に大人の女性のそれになり、左右が違う色の瞳をぱっちりと開いて、トモゾーから降り、俺を見詰め――
「ってお前が戦うのかよオオ!! 芋長の芋羊羹食ってんじゃねえぞコラァ!!」
思わずツッコんでいた俺。
なるほど、道理で女子力(物理)だったわけだ。これはまいった、戦力は鼠、トモゾー、マリードールで三つになると。
こちらの戦力はモンク、ケントさん(弱め)、キューティクル。
ま、全く勝てる気がしないぜ!!
せめて俺にイ・フリット・ポテトの加護でもあれば、少しは状況が……
「さあ、『勇者の血』を寄越すなら今のうちですですよ」
だーから持ってねえんじゃーい!!
仕方ない、ここは俺の力でお茶を濁す事から始めなければ!! マリードールの範囲さえ逃れれば、トモゾーと鼠は行動不能になるんだろうが!!
あの魔物使いも助けなければな!!
「聞け!! マリードール!!」
俺はマリードールを指差した。
「ビーハイブが、いつまでもお前を抱えていると思うのか!?」
マリードールが何か、面食らったような表情になる。俺は三指を立てると、マリードールに見せ付けた。
そう、こいつは人形。人形ならば、俺がやらなければいけない『呪いの言葉』はたった一つ。
「……な、何ですですか」
「お前に、良いことを教えてやろう!!」
俺の背後で、少し悲しい雰囲気のBGMが流れる。俺は意気消沈した振りをして、マリードールに近付いた。
マリードールが俺の異様な雰囲気に、ぐっと身体を引く。
「……私が買ってもらったのはね、三つの時だったの」
マリードールの顔色が変わる。
――ゲーム、スタートだ。