74_幼女は残酷です
お菓子の街地下・ポップコで一晩を過ごすと、俺は目を覚ました。何しろ外は陽の光が入らないので、起きた今が何時なのか、俺には分からない。
と思っていたら、外では鐘の音が鳴り響いていた。どうやら、それで目が覚めたらしい。
モンクはまだいびきをかいて寝ている。俺はモンクを揺り起こした。
「おい、モンク。朝だぞ、起きろモンク」
「文句を言うんじゃない……」
「モンクはてめーだ!!」
ベッドから蹴り落とすと、モンクは起き上がり、ぶつけた後頭部をさすりながら俺を睨んだ
「痛いわ――!! 何をする――!!」
「良かったな、目が覚めて。とっとと上がって、鼠の尻尾を掴みに行こうぜ」
俺がそう言うと、モンクはきょろきょろと辺りを見回した。程なくして、何かに気が付いたかのように目を丸くした。
「妾は寝ぼけておった!!」
「え? ……叫んだ所までが寝惚けだったの?」
モンクの天然ボケはさておいて、俺とモンクとキューティクルは地下を出て、地上へと戻った。
ケントさんは既に宿を出ていて、地上に出ているようだ。螺旋状の階段をひたすらに登り、俺達はポップコ(地上)に戻った。
新鮮(かどうかも分からないが)な空気を吸い、俺はうんと伸びをした。
「うーん、やっぱり太陽の光だな」
「老体染みた事を言いおってからに」
「お前の口調の方が余程ご老体だよ」
俺は辺りを見回してケントさんの姿を探したが、目的の人物は見当たらなかった。
もしかしたら、既に何かの調査を始めているのかもしれないな。
「さて、夜になって鼠が現れないように、さっさと探しに行かないとな」
俺がそう言うと、モンクは不意に険しい顔になって、俺に言った。
「――いや、そうはいかないかもしれんぞ」
どういう意味だ? 理由は分からないが、今のうちなら――……
突如として、地鳴りがあった。地面から伝わる振動に、俺とモンクは身を屈めて転倒しないよう、地面に手を付けた。
……何だ、これは? まさか、真っ昼間からスッゴイデッカイ・ネズミが……?
いや、それにしては、随分と地鳴りが大きいような……。鼠の時は立っていられない程では無かった気がするのだが。
それは強烈な地震を起こしながら、俺達の前に現れた。
「……な」
それは、スッゴイデッカイ・ネズミよりも一回りは大きいかと思われるような、巨大な石像。
もしかしてあれは、ゴーレムなのかもしれない。
そして、その後ろに控えている、二、三匹程度のスッゴイデッカイ・ネズミ。
ゴーレムの肩の上に乗っているのは、体長一メートル程の幼女だ。もしかするとあれは、キューティクルの言っていた人を操る幼女――……。
「もけ――――!!」
なるほど。このキューティクルの反応を見ても、間違いない。
ということは、後ろに控えているのは、魔物使い。
俺はケントさんを見ていない。
冷や汗が流れた。
「おろかなる人間どもよ、わたくしの笛の前に跪くがいいです」
ゴーレムの肩に乗った幼女が、何やら喋っている。
こ、これは――――!!
「ロリ系ボスイベント!?」
「……? アルトよ、何を言っておるのだ……?」
幼女が笛を吹くと、ゴーレムとスッゴイデッカイ・ネズミから邪悪な黒いオーラを確認することができた。なるほど、普段はあれを隠すために夜、進撃しているというわけだ。
さらに、魔物の群れの後方から、操り人形のようにオーラを纏った人が現れ――……
「ケントさん!!」
そこには、三角帽子を被ったマントの――ケントと名乗った魔物使いが、白目を剥いて立っていた。
――なるほど。こいつは、厄介だ。
「……参考までに、モンク。あの石像っぽいのは、なんて名前なんだ」
「ん? トモゾーのことか?」
「どう考えても心の俳句を歌うようなキャラじゃねえだろ!!」
相変わらず締まらない名前だなオイ!!
「……しかし、この数を相手にするのは中々厳しいな」
モンクが言う。……確かに、俺(ほぼ役立たず)とモンク(貴重な戦力)だけでは厳しいかもしれないな……。
「もけ――!!」
そうか。二人じゃない。二人と一匹は居るじゃないか。
なんとか、この面子で勝ちを拾うしかないのか……?
そんな事を言っている間にも、幼女は笛を構えて何かを始めた。
「アルト・クニミチよ、『勇者の血』を寄越すのです。そうすれば、お菓子の街ポップコからは引いてやるです」
……え?
ああ、そういうこと? もしかして、スッゴイデッカイ・ネズミが俺と鉢合わせたから、『勇者の血』を奪い取るためにこんな真っ昼間から登場してきたって、そんな展開なわけ?
幼女は笛を吹いた。軽快な音色が生まれ、トモゾーと鼠が――見るからに、凶暴化していた。
ケントさんが何かの鍵盤を叩くように、狂った踊りを踊っている。
「<マリオネット・エレキネット>ですです」
――来た。
モンクは斧を振り被り、俺に目配せした。――そうだよな。戦わないといけないよな。
「行くぞ、アルト!!」
「…………お、おう!!」
阿呆め!! どこまでやれるのか全く想像もできないが、やるしかねえ!!
幼女は俺達が戦う様子であることを確認すると、むっとした表情で俺を睨んだ。
「――そうですか。あくまで戦うと言うのですですね」
――ふっ。
――――持ってねえんだよおおオオオ!!