73_勇者タマゴとスピリエリオンじゃよ
ケントさんに手伝って貰い、キューティクルに話を聞いた所、中々興味深い話を聞く事ができた。
どうやら、サラミ・サンドイッチは今、ビーハイブの連中に洗脳魔法を掛けられているらしい、ということ。
昨今ポップコに現れる巨大鼠の騒動は、ビーハイブが起こしている現象だということ。
そして、キューティクルが見たサラミを洗脳した魔法使いは、一メートルに満たない身長の、人形のような少女だったという。
地下帝国ポップコ(命名)で、俺達は顔を突き合わせて会議をしていた。
「……なるほど。ということは、スッゴイデッカイ・ネズミも操作している魔物使いが居るかもしれない、ということだね」
ケントさんが険しい顔をして、現状をまとめる。俺とモンクは頷いた。
なら、文字通り巨大鼠の尻尾を掴む事で、ビーハイブと戦う事が出来るかもしれないと、そういうことか。
「とにかく、今日の所は朝まで休もう。朝になったら、巨大鼠の襲ってきた方角を中心に調べてみようぞ」
モンクの言葉で、俺達は一旦打ち合わせを終了した。
それにしても、お菓子の街ポップコ。地下にこんな帝国があったとは……。流石に地上よりは狭いようだが、地上にあった店やら宿やらが所狭しと並んでいる。巨大鼠が襲い掛かってきたのは、もしかしたら少し前の話なのかもしれないな。
そう――ビーハイブが、俺達の地球に襲い掛かってきた時期、くらいの。
俺達は立ち上がり、酒場を出た。
「それじゃあ、明日、ここで集合しよう」
「分かった。色々ありがとう、ケントさん」
「例には及ばないよ。キューティクルは、どっちに行くかな?」
「もけー!!」
キューティクルは俺とモンクの下に。既に宿を予約していたケントさんは、俺達とは別れた。
「さて。妾達も、宿に戻ろうぞ」
「あ、キューティクルと先に戻っていてくれ。少し、周りを見渡してみる」
「そうか……? 分かった、迷わぬようにな」
宿の前でモンクに手を振って、俺はお菓子の街ポップコを歩き始めた。
何の事はない、少し考える時間が欲しかった。ビーハイブの連中が一体何を企んで魔物を進撃させているのかも、未だ謎は深まるばかりだ。
だが、奴等は世界の謎を解き明かしに行く、と言っていた。
魔物に襲わせることで、この世界のおかしな部分が解決に近付く?
……そんな根拠、どこにも無いじゃないか。
空間の裂け目に飲み込まれた、ミヤビとタマゴ。二人共、今頃どこで何をしているんだろうか。
地球に取り残された、トゥルーは……。
うーむ。さっさと合流したいぞ。
「何れにしても、ひとまずは合流。合流だ。出来ればミヤビ、タマゴでもいい……」
「タマゴとの!? もしやそれは、タマゴ・スピリットの事かね!?」
……ぶつぶつと呟きながら喋っていたら、謎のお爺さんに声を掛けられた。
見ると、建物の裏に小さな椅子を設け、腰掛けていた。何してんだ……
「……そうだけど、爺さん、誰?」
「儂はここで手相を見ておるよ」
なんか手招きをしているので、俺は右手を見せた。あれ? こういう時って、右手と左手、どっちの方が良いんだ?
「のわ――!! お主は二時間後に豆腐の角に頭ぶつけて死ぬ!!」
俺は爺を殴った。
「冗談じゃよ、冗談。そんなにマジな顔で見んでくれよ」
「てめえ誰だよ」
「儂はタマゴ・スピリットを探していたのじゃ」
タマゴを? どうして。なんか、変な爺だなあ……。
と思ったが、言わないでおくことにした。
「……それで?」
「偉大なる勇者、タマゴ・スピリットにもしも出会ったら、これを渡しておくれ」
手渡されたのは、剣……の、柄の部分のみ。なんか、無駄に金色に輝いていた。
「なに、これ?」
「それは、偉大なる勇者の剣。スピリエリオンじゃよ」
……あれ? じゃあ、俺の『勇者の血』は? なんでそんな、ちょっと格好良い感じの名前なの?
ていうか、タマゴが勇者ってどういうことなの?
「『ビーハイブ』の本拠地に居る『黒の魔王』の存在に気付き、かの勇者が動き始めてから、もう結構になる」
え? 何それ。この世界の魔王的ポジションって、『トーヘンボクの悪魔』じゃないの?
ビーハイブの中に魔王が居るの? じゃあ、トーヘンボクの悪魔って一体なんだよ。
「……それで、タマゴは何かの事情があって、これを置いて行ったわけ?」
「うむ。勇者に剣など必要ないと申して……」
全国各地の王道RPGに謝れ!!
「儂はそれでも形だけでも持っていて欲しいと願い、これを渡すために徘徊していたのじゃが……」
「……それ、俺に渡して良いの? 俺が『ビーハイブ』の連中だったらどうするわけ?」
「ぶっちゃけ、面倒だったからもう帰りたかったのじゃ」
要約すると、いらないからタマゴに押し付けたかっただけだろ、これ。
どっかに捨てとけよ、もう。
「それ、すっごく強いから!! もしも勇者タマゴにもう一度出会う事があったら、是非渡しておくれ!!」
「……あんたにそう言われると、すっごく弱そうに見えてくるの何でだろうね」
「ではの!! あ、もしも筋肉の村に寄ることがあったら、是非筋肉饅頭を買って行っておくれよ!!」
そう言うと、爺は去って行った。俺に、謎の剣(柄のみ)を残して……。
筋肉の村ってどこだよ……