72_アックス・ダイナマイトです
モンクは大量のスッゴイデッカイ・ネズミを相手に、不敵な笑みを浮かべた。身の丈以上ある巨大な斧を構えると、モンクは俺に言う。
「下がっておれ、アルト!!」
ええ!? 下がるってどのくらい!?
俺はケントさんに合図すると、モンクから距離を取った。モンクは大上段に斧を構え、周囲に銀色の波動を出現させた。
――あ、これは見たことあるぞ。
「<アックス・ダイナマイト>――!!」
高らかな宣言と共に、モンクは斧を振った。周囲の地面が盛り上がり、まるで火山が噴火したかのように大地がひっくり返る。
相変わらず、恐ろしい威力だ……。
モンクの周囲に居た鼠は、ほぼ全滅して転がった。
とてもじゃないが、三レベルしか差がないとは思えない威力だ。
「やったか……!?」
いかん、つい失敗フラグを喋ってしまったぜ。案の定、鼠は後から後からこちらに向かって走って来る。モンクは頬に汗を垂らしながら、深刻な表情で鼠を見ていた。
「どうした、モンク!!」
モンクは一度降ろした斧が上がらない様子で苦痛に呻き、
「アックス・ダイナマイトは、撃つととても疲れるのだ……」
すっげー曖昧な説明ありがとう!! つまり、何度も使う事は出来ないってわけね!!
だからといって、何がどう出来るかと言われれば、俺にはどうにも出来ない。ここは一つ、逃げるしかないか。
俺はモンクの手を握ると、鼠から離れるように動いた。
「逃げよう、モンク。ひとまずこの場を離れるんだ」
「う、うむ……」
驚異的な破壊力には何らかのデメリットが付き物だ。それを失念していたな。レベル三十八のモンクが、レベル三十五のスッゴイデッカイ・ネズミの『大群』を相手にすることは勿論厳しい。気付いておくべきだった。
この場にタマゴが居れば、もう少し楽に逃げる事も出来たのに……!
鼠の動きは素早く、俺達との距離をどんどん詰めてくる。
「きゅう?」
何でちょっと可愛い感じなんだよ。余計に怖いわ。
大型トラックほどはありそうな鼠の大行進から、俺達は背を向けて逃げた。しかし、随分と鼠の動きは早い。純粋に巨大化しただけというか、何だか俺達が小さくなったような気もする。舞台がお菓子の家だし。
どうにかして、ここは時間を稼がなければ。
俺は振り返った。
動物にも効きそうな時間稼ぎか――よし。
「聞け!! 鼠共!!」
俺は気合い一発、叫んだ。鼠は一瞬動きを止め、小さな俺の姿に見入る。
右腕を高らかに掲げた状態のまま、俺は停止した。モンクとケントは、そのまま逃げていく。
「……きゅう?」
俺は至って真面目な顔のまま――……腰を振り、踊った。
「お魚咥えたドラネコ、追っかけてー」
鼠達は俺のリズムに合わせて、ステップを踏み始めた。モンクとケントは避難用と思わしき、地下へと続く階段に消えた。
――よし、後は俺が逃げるだけだ。
「はだしでー、駆けてくー」
俺は決めポーズを放った。
「――――俺?」
瞬間、謎のタイムストップが訪れた。
鼠達は、首を傾げている。俺は鼠から背を向けると、何事も無かったかのように走り出した。……ふふ、どうだ見たか。
これぞ、秘技『お茶を濁す』。
……俺、この世界に来てから、やってる事が欠片も成長してないな。
「……きゅう!!」
「「きゅう!!」」
鼠達はようやく気が付いたようで、俺に向かって再度襲い掛かってくる。
やばい意外に速いじゃないか!! 地下への階段まで百メートルくらいはありそうなのに、その間に追い付かれそうだよ!!
引き篭もりの俺にそういう事をさせるなって!!
「アルト――!! こっちだ!! がんばれ!!」
モンクが応援している。
確かに応援はしてくれているが!! 正直、もう背中に鼠の口周りの毛が触れてるんだが!!
――――おああああああっ!? もう、ダメ……
瞬間、背中で閃光と爆発があり、俺は前につんのめった。顔から突っ込む予定だった大地を両腕で受け、そのままゴロゴロと転がった。
受け身が取れて、本当に良かった。打ち所が悪かったら、結構なダメージになっていた可能性はある。
何が起こったのか分からず、俺は後ろを振り返って――……。
「もけ――――!!」
……そこに居たのは、天使の羽が生えた、ピンク玉。
あいつ、見たことあるぞ。確か、戦士選抜でサラミ・サンドイッチと一緒にいた……
「キューティクル?」
「もけけ――!!」
キューティクルは嬉しそうに、俺の頭の上を旋回した。……同じ格好で、別のモンスターという可能性もあったが。俺を颯爽と助けに現れた魔物であり、俺の呼びかけに答える可能性のあるピンク玉なんて、この世界では一匹しか知らないぜ。
スッゴイデッカイ・ネズミ共は閃光の影響か、すっかり伸びていた。今のうちに、中へと入ってしまうか。
俺が地下への階段へと走ると、キューティクルは俺の後ろを付いて来た。
ここには、魔物使いのケントさんが居る。少し、キューティクルに話を聞いてみるのも、悪くない選択かもしれないぞ。




