69_お菓子の街!ポップコです
「ぎゃあああああ――――!!」
まず、一つ言っておきたい事がある。
勇者の血ことイ・フリット・ポテトが居ない上、短剣の一本も持っていない俺の戦闘力は現在皆無に近く、戦力一人分としてカウントして欲しくは無い訳であってだな。
今現在、俺の後ろには、肉食系の恐竜みたいな魔物が二、三体ほど、俺を捕まえるために全力で走って来ている。
俺はそれから、全力で逃げているという状態だ。
「ちょっと待て、お前、話せば分かる!!」
俺は振り返り、恐竜を立ち止まらせようと、手を出した。
「――私の戦闘能力は、五十三万です」
ビビり、恐竜達は止ま――
――――る訳、ないだろうが!!
「くそぉ――!! モンク、覚えてやがれえええ――!!」
事の始まりは、二時間前に遡る。
朝になると、モンクは『ポップコ』という街に行く前に、腹ごしらえがしたいと言ってきた。それには当然俺も賛成だったのだが、モンクは食べられる魔物と植物をいくつか俺に図で説明したあと――無駄にうまい絵が地面に描かれた――斧を担いで、こう言ったのだ。
『手分けして探そう。また、三十分後にここに戻って来るのだ』
そして、俺の後ろに居るこいつらは、どうやら焼いて食べる事が出来るらしいのだが……、
まず、まずさあ。逆に食べられるとか、そういう可能性は考えなかったのかなあ。
お前は武器持ってるからいいよ!! 俺は丸腰な上、今はレベル一なんだぞ!!
サキュバスにレベルを吸われていなければ、まだ少しは戦う事が出来ただろうか。
――あ、あのミヤビがやってた『ステー・タス』とか言う奴、俺にも出来るのかな。俺は逃げながら、右手でミヤビの真似をした。
「ステー・タス」
ぶぉん、と愉快な音がして、俺の目の前にステータスウインドウが表示される。なんと! 俺にも出来たじゃないか!
そこには――……
○アルト
だいしゃ レベル1
●てぃらのん レベル30
あー、無理だわ。まあ、当たり前だけど話にならないわ。
昨日四時間しか寝てないから辛いわー……
「こんな物騒な魔物に『てぃらのん』とか、可愛らしい名前付けてんじゃねええ――――!!」
この世界を作った脳天気を俺は問い詰めたい!! 小一時間問い詰めたい!!
近くに鉄棒が出来るくらいの、横に伸びた枝を発見した。俺はそれを両手で掴むと、逆上がりの要領でぐるりと駆け上がる。すぐにその枝の上に乗り、今度は枝の反動力を利用して更に上の枝へ飛び移った。
地球で鍛えておいて、本当に良かった!!
てぃらのん共は恐ろしい牙を剥き出しにして、俺が落ちて来るのを待っているのか、ぎゃあぎゃあと喚いている。
「ハッハアー、残念だったなクソ恐竜共!! ホ乳類が最終的には生き残るんだよバーカ!!」
なんだか分からないが、俺はハイになっていた。恐竜共に親指を下に向けて喧嘩を売ってから、俺はのんびりとモンクを探――……
……あれ? ああ、樹の幹なんかに噛み付いちゃう?
ああ、砕いちゃう?
頭突きしちゃう?
……ああ、俺、落ちちゃう? そういうオチ?
バランスを崩した俺は、真っ逆さまに恐竜共の下へ。ぱっくりと大口を開けて、鳥のヒナのように俺の落下を待っているてぃらのん。
「おいおいおいおいおあああああ――――!!」
――さよなら。父さん、母さん。
俺、元気です。
今だけ。
俺は天に祈り、神に祈った。
もしも生まれ変わるなら、私は最強の勇者になりたい――……
――瞬間、
『てぃらのん』は首の部分を一刀両断されて、息絶えてその場に転がった。
俺はべちゃりと地面に転がり、頭を打つ。
HPは減っていない。本当に頑丈だな、この世界では。
俺は顔を上げた。
「だらしないぞ、小僧。戦士選抜を優勝したのではなかったのか?」
モンクが嬉しそうな顔で、俺を見下ろしている。
……カチンときた。
俺は目の前でドヤ顔している白髪褐色ロリの頬を掴み、ぐにぐにと左右に引き伸ばした。
「俺・は・な!! 武器・持って・無いんだ・よ!!」
「ふふぁー!! ふぉうほふ、ふぁんふぁい!!」
モンク・コーストは手をばたばたと振って、どうに俺から離れようともがいていた。
……ふっ、俺も優しいからな。これ以上は勘弁してやるか。
俺は手を離した。
「ったく……俺が『パーティーリーダー』だぞ。俺を置き去りにすんな」
「べんべろべえー!! 妾の方が強いから、お前は使いっ走りなのだ」
俺はモンクのこめかみを拳骨でぐりぐりした。
「痛い!! 痛い痛い!! やめろ!! ごめんなさいやめてください!!」
……これが、白髪褐色ロリの力か。俺までレベルが下がってしまうぜ。
しかし、なんだなあ。ミヤビが二十八、トゥルーが三十五。弱体化したタマゴが二十だということを考えると。
俺は、ステータスウインドウでモンクのレベルを確認する。
○モンク
しょうにん レベル38
驚くべきことに、こいつが一番強いのだ。
トゥルーよりも強いというのは、正直かなり驚くべき事だ。あの超人的なスピードに匹敵する程の力を、モンクも持っているということか。
……まあ、この世界の言う所のレベルとかいうのが、どれだけの信頼性を持っているのか俺には分からんが。
「それはそうと、走っている最中に『ポップコ』の近くまで来てしまったようだな」
「え? そうなのか?」
モンクは、森の向こう側を指差した。俺はモンクの指の向こうを確認する――……
森の向こうに、きらきらと光る街並みが見える。……いくら何でも、光り過ぎじゃないか……? なんだあれは……
「……飴玉、か?」
「そうだ。あれこそが、子供達なら誰もが行ってみたいと噂の『お菓子の街ポップコ』だ!!」
何故か偉そうな事を言って、胸を張るモンク。
……こいつ、買い食いするつもりじゃなかろうか。
「……まあ、先にてぃらのんを食べようぜ。もう少し歩くだろ」
「あ、そうだな……」




