67_いざ行かん、異世界ダイブです
「<輝かしい筋肉>!!」
輝かしい掛け声と共にタマゴは高らかにそう叫び、空中でムキムキなポーズを取った。タマゴの全身から眩い光が発せられ、マリンクイーンの群れはタマゴの影響で止まる。
俺達はタマゴの影響を受けないよう、目を覆った。トゥルーは始めから見ていなかったが。
タマゴは地面に着地する。俺も、屋根から通りへと降りた。
「走るぞ!!」
俺はミヤビの台車を引っ掴み、真っ直ぐに目指した。
既に大分小さくなってしまった、空間の裂け目へ。
「タマゴ!! 『輝かしい筋肉』の効果時間は?」
「レベルによる。だが、今の俺様では一分が限度だろう」
そうすると、俺の足じゃあもう間に合わない。俺はミヤビの台車に飛び乗ると、タマゴに指示した。
「乗れ、タマゴ!!」
「合点!!」
タマゴもみかん箱に乗る。俺は後ろを振り返り、あえて俺達と足並みを合わせている――トゥルーを見た。唐突に目が合ったからか、トゥルーが目をぱちくりとさせた。
こういうのは、お前の得意分野だろう。
「トゥルー!! 全力だ!!」
ようやく意味を理解したようで、トゥルーは不敵に笑うと、台車を掴んだ。今ならミヤビはシモンズに入っている訳ではないので、トゥルーでも押せる所がポイントだ。
まあ、例の『触れてはならない者』とやらがシモンズに触れた時、どうなるのかもイマイチよく分かっていないんだけどな。
「みかん箱お――っ!! 壊れちゃうよおおお――っ!?」
トゥルーが元気一発、俺達にそう告げると、走る速度を上げた。おおお、自動車なんかよりも断然速いぞ。肉体労働にかけては、トゥルーは本当に素晴らしい素質の持ち主だ。
「……なんか今、変なこと考えなかった?」
「いや?」
「……そう」
大通りを抜け、すっかり停車してしまった自動車共々を追い越し、マリンクイーンを追い越す。ここまででまだ、一分掛かっていない。なんという速度! トゥルー万歳!!
そして、俺達は空間の裂け目目掛けて、全力疾走していた。
みかん箱はガタガタ音を立て、速度に耐え切れず壊れそうだ。
「――――間に合う!?」
トゥルーは叫んだ。
「――――間に合え!!」
俺も叫ぶ。
俺はみかん箱から身体を起こし、目を凝らした。――俺の予想では、マリンクイーンの後ろにもう一人、奴等を操っている人間が居るのではないかと思っているのだが――……
走りながらも、どうにか視界を辿る。
――――居た。
緑を基調とした服装に、魔女っ子帽子、黒マント。
そこに居たのは――……
――え?
知っているぞ。あいつは、見たことがある。俺はあいつの名前を知っている。
俺には見向きもせず、前を向いている。横顔だけが見えていた。
その目は虚ろで、ぞっとするような表情だった。
まるで、死んでいるのに動いているような――……
「ダーリン!! 間に合わない!! どうしよう!?」
空間の裂け目が消えてしまう!! だが、既にここはトゥルーに任せるしかない所だ。
俺は、空間の裂け目に意識を集中した。
――そんな、まさか。居るわけがない。
あんな所に、サラミ・サンドイッチが。戦士選抜でムサシ・シンマにボコボコにされた筈の、今は国に帰っている筈の、サラミ・サンドイッチが――……
「トゥルー!! たのむ!!」
「もう、これ以上は無理だよ!!」
トゥルーが叫ぶ。俺は手を伸ばし、どうにか空間の裂け目を掴み、広げる事は出来ないかと努力した。
くそ。それ以前に、あれ以上縮まってしまったら、もう俺達が通る事は出来なくなってしまうじゃないか。
どうしたら――――
「<ラビット・ダンス>!!」
――えっ?
唐突に起こった掛け声と共に、トゥルーの速度が上がった。瞬間速度は跳ね上がり、俺達は空間の裂け目に向かって、一直線に飛んで行く。
ラビット・ダンスを掛けられたのは、トゥルー。
そして、影響を受けるのは俺達。
俺は真っ先に空間の裂け目に飛び込み、
ミヤビが突っ込み、タマゴも入った。
台車が引っ掛かり、俺達はバラバラに虹色の空間の中へと潜っていく。
トゥルーが引っ掛かった台車の反動で、空間の裂け目に入ることが出来ず、跳ね返った。
俺は手を伸ばし、どうにかトゥルーを引きずり込もうとした。
――だが、伸ばした右手は虚しく空を切った。
おい。
――マジかよ。
「トゥル――――――――!!」
◆
――水の音がする。
ふわり、と覚醒した意識は遠く、俺の知らない世界へと降り立った。
巨大な城の前に広げられた、赤い絨毯。俺はその道を、城に向かって歩いて行く。青銅の鎧。銀の篭手。兜はまだ、被っていない。
俺はその、城の名前を知っている。
帝都、ルナティック。
俺は城の手前まで歩くと、片膝を突いて、その偉大なる人物に傅いた。
「――最早、我々人類の命運はそなたに掛かっていると言っても、過言ではないだろう」
なんだ、これは?
俺は片膝を突いた体勢のままで、その偉大なる人物――ライト国王に言った。
「魔族との戦いから、二年が過ぎました。我々は未だ、この『脅威』から逃れる事が出来ていません」
俺は立ち上がり、国王と向かい合う。
そして――笑った。
「私は、魔法剣士。『ヒーラー』と、『アタッカー』を一名ずつ、指名しても宜しいですか」
「任せよう」
「それは――――」
――水の音がする。
それが額に当たっているのだという事に気付き、俺は目を開いた。
白髪の髪はセミロングよりもやや短い程度に揃えられており、褐色な肌が真っ先に目に付く。額に当たっていた水は、彼女が池から汲んできた水、ということらしい。
見覚えのある、ワインレッドの瞳が俺の目の前でぱちくりと瞬いた。
舞台は森の中。沢山の木々に囲まれ、俺は起き上がる。
「小僧、大丈夫か? 何でこんな所に倒れているのだ?」
俺は起き上がり、状況を確認した。
「モンク・コースト……?」
ここまでのご読了、ありがとうございます。
『現代崩壊編』はこれで終了となります。