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63_異世界に行くために必要なこと、です

 タマゴを家まで連れて帰ると、衰弱したタマゴはすぐにベッドで眠っていしまった。マッチョマンに俺のベッドを貸すというのもまた斬新な光景だが、今はそんな事も言ってられない。

 かの『マリンクイーン』でさえ敵わなかったタマゴを、簡単に――かは分からないが――あそこまで痛め付けられる人間が、ビーハイブに居る。

 それは、今までタマゴにどこか感じていた絶対的な強さを打ち砕く真実だった。


「……ルナが居れば、回復くらいしてあげられたかもしれないけど」


 タマゴを見ながら、珍しくトゥルーは言う。……確かに、そうだ。このパーティーの唯一の支援要員は、ルナだったのだから。

 月子がタマゴを真剣に見ながら、本を開いた。


「……月子?」

「ううん。どこまで通じるか分からないけれど、薬膳スープみたいなものだったら作れるかもしれないと思って」


 こんな時、読書家の月子は頼りになるな。ある程度、料理にも詳しいみたいだし。

 キッチンに消えていく月子を横目に、俺は薄目を開けてこちらを見るタマゴに話し掛ける事にした。


「大丈夫か? 今、月子が栄養食を作りに行った」

「ああ……。すまない……。『美味なる筋肉』があれば、こんな傷一瞬でどうにかなるものを……」


 え、何、それ。食べるの。気持ち悪い。


「ところで、どうしてそんなにもボロボロになっているんだ」

「……俺様のステー・タスを、見てくれ」


 ミヤビは言われるままに、例の呪文を唱えてステータスウインドウを開いた。本当にこれ、ただのステータスウインドウだよな。変な魔法だ。

 中には、今まで通りの俺とミヤビとトゥルーと月子。加えて、今回は一番下にタマゴの表記がある。


○タマゴ

きんにく レベル20


 筋肉、って……。こいつは職業さえもそんな名前なのか。

 もっと色々あっただろ、武闘家とかスーパースターとか。いくらなんでも、筋肉は酷すぎる。


「これか……? お前が言ってた、『レベルを吸われた』っていうのは」

「そうだ。俺様は元々、レベル八十はあったのだが……。使える技も減り、今では『輝かしい筋肉』を使うのが精一杯になってしまって……」


 それが筋肉技の基礎的なアレなのか。どうして肉体美が一番最初なんだ。

 いや、それが正しいのか……?


「てことは、お前は六十レベルくらいは吸われたって事になるな」

「どうやら、サキュバスの系統は人間の精だけでなく、経験値も吸うことが出来るらしい……」


 吸うという表現を使っているということは、相手のサキュバスだかインキュバスだかは、レベル六十くらいを一気に跳ね上げたって事になるのか。

 厄介だな……。


「それで、レベルが逆転して倒されたのか? お前は」

「面目ないが……そうなんだ」

「仕方ねえよ、そんな異能持ちは。いつかレベルは取り戻せるさ、ゆっくり休め」


 そんな事もあるのか。これから淫魔とかヴァンパイアの類の敵が現れた時は、要注意ってことだな。

 もしかしてタマゴ、サキュバスと戦ってたのかな……。まさかこいつが誘惑にやられるとは思えんが、さぞかし苦労したのだろう。


「……ダーリン、何考えてるの?」

「え? 何が?」

「顔が緩んでるんだけど」


 え、そんなことはないよ決して。

 別に、細マッチョでタマゴも顔だけはわりと美形だから、絵になるなーとかは思ってないよ。


「そうだ。タマゴ、お前に聞きたい事があった。俺達の二つの世界を行き来する方法が潰えてしまったんだが、どうにかして向こうの世界に行く方法はないか?」


 俺が問い掛けると、タマゴは頷いた。これを聞いたら、一度寝かせてやろうと思う。


「移動する手段は、大きく分けて二つある……。一つは、アイテムによる移動……。もう一つは、魔法による移動……」


 モンスターが現れる時の、空間の裂け目みたいなやつだな。あれは魔法のうちに入るのだろうが。

 タマゴはポケットから水晶球のようなものを取り出し、俺達に見せた。


「これはもう使えなくなってしまったものだが……。これは、『めっちゃ時空移動玉』というものだ……」


 え? 誰それ誰が名前考えたの?

 こんなに綺麗な水晶球に付けるような名前じゃないよね? どう考えてもただのギャグで付けたよね?

 それともあれか? 龍の玉意識なのか?

 チャラ・ヘッ○ャラか?


「これを使う事により、時空移動する……」

「なるほど。お前の分は?」

「既に、奪われてしまった……」


 ちっ。ということは、現実問題『魔法による移動』しか使えないって事じゃないか。うちにはそんな事が出来るメンバーはミヤビしか居ないし、肝心のミヤビにはシモンズがないし……。

 まいったなあ……


「空間の裂け目……モンスターが現れ、そして去る時に現れるだろう。そこに、みんなで飛び込めばいい……」


 それは実は思い付いていたが、あんまり安全じゃないので避けていた方法だ。しかし――やるしかないか。

 どこに行くのかも、きっと分からないし選べないんだろうな。いきなり『トーヘンボクの悪魔』の本拠地みたいな所に飛ばされたらどうしよう。

 そんなこと、言ってる場合じゃないか。一刻を争う事態だ。


「分かった。だが、お前も体調を回復させて一緒に行こう。悪いが、今のお前は俺達と同じくらいには弱い。一人で行動するのは危険だ」

「すまない……。お言葉に甘えさせて貰うよ……」


 弱い者がいくつも集まって、パーティーになる。そんな事で、どうにかなるとも思えないが……。

 月子が薬膳スープを作って戻って来た。俺は立ち上がり、月子と目を合わせる。

 月子は首を傾げた。


「……俺達は、もう一度異世界に行く」


 月子はその言葉を確認すると――……頷いた。


「お前も、行くか?」


 長い沈黙の間、月子は何かを考えているようだった。

 だが、その後、首は横に振られた。

 まあ、月子だってこの世界の人間だし、俺と違って真面目に学校にも通っているし、無理な事情は沢山あるだろう。

 俺はそれを聞かなかった。月子はここに残していても、特に襲われる危険を持たない少女だ。


 そして、俺達は――……もう一度、あの場所に還る。



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