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62_帰還したタマゴです

 そして。

 驚くべきことに、次の日になると壊れた電車や街やらは一通り復活していた。いつも通り俺を迎えに来た月子に聞いてみると、モンスターが現れた後は一様に、次の日になると痕跡が消えるらしい。

 それは一体、どういう意味を持っているのだろうか。

 どうしても昨日の事が気になってしまった俺はろくに授業にも集中できず、シャーペンの頭でノートを叩いていた。モンスターが現れているのに、何不自由なく学校や会社、家で生活を送る人々。モンスターを倒す、『ビーハイブ』の対抗組織。セントラル・シティで生まれた戦士とやらも、もしかしたらビーハイブを駆逐するためにパーティーを組んでいるのかもしれない。


 それは、どういう意味を持っている?


 そもそも、地下シェルターなんて以前からあったか? 地下に巨大な空洞を作るなんて、大規模な工事をやらなければ成立しないものではないのか。モンスターが現れてから、突然作ったり出来るものなのだろうか。

 それも、学校のグラウンドに?


 いつしか、俺はこの世界の矛盾点と、身の回りで起こっている不思議な出来事、そしてその意味について、考えるようになっていた。『トイレの世界』と、『地球』。異なる二つの空間には、どちらともない矛盾が潜んでいる。

 その、意味は。


「有人?」

「おう、月子? どうした?」

「……もう、お昼よ?」


 いつの間にか、そんなにも時間は経っていたか。俺は立ち上がり、購買に向かおうと席を立った。


「有人、購買か?」

「……ん、ああ」

「一緒に行こうぜ」


 コジローが話し掛けてきた。俺はつい、昨日あった出来事とコジローの影を重ねてしまう。コジローは何食わぬ顔で、俺に教室を出ようと指をさしている。

 黙って、それに従った。廊下に出ると、俺はそれとなくコジローに近付いた。


「……コジロー、昨日、どこにいた?」

「ああ、昨日怖かったよな。モンスターが二体も現れたんだって? 謎の戦士が追い返したとか、なんとか」


 ……特に、何も知っている様子ではない。これ以上俺が当時の状況について話してしまうと、俺がその二体のモンスターを追い払ったことがバレてしまう。

 どうにも、不気味だ。コジローとムサシ・シンマは同一人物ではない。……ならば、二人は一体何なんだ……?


「どうした、有人?」

「……いや、なんでもない」

「そういえば、有人はどこに居たんだよ。大丈夫だったか?」

「……ああ、俺は普通にシェルターに避難してたよ」

「そかあ。それよりさあ、昨日といえば」


 ……むう。これ以上、情報も得られそうにないか。

 窓の外を見る。昨日太陽のオッサンに潰された筈の山も、特に何事も無かったかのように復旧していて――……

 ――あれ?


「……見てたドラマがさあ、かなり良かったわけよ。是非有人にも見てもらいたいと」

「すまんコジロー、その話は後にしてくれ」


 俺はコジローとの会話を止めて、窓の外を食い入るように見ていた。

 裏山の向こうに、人影が見える。俺の気のせいでなければ、それは見知った人物だった。

 俺も大概、眼が良いな。

 気付いて、駆け出した。


「おい、有人!? どこ行くんだよ!!」

「すまんコジロー、昼は月子と食べてくれ!!」

「忘れ物か? なんか買っておくか?」

「コロッケパンと焼きそばパン! 頼む!!」


 ――オーライ、どうにか状況は前に進みそうだ。俺はそう思いながらも、不安に満ち満ちていた。

 タマゴ・スピリット。

 生きてりゃいいが。



 裏山まで辿り着くと、倒れている人影は、予想撮りタマゴのものだった。リンゴのアップリケはボロボロで、美形マッチョもその表情に影を落としている。

 俺はタマゴに駆け寄ると、肩を掴んだ。


「タマゴ!! おいタマゴ、しっかりしろ!!」


 ついでに、家に居るミヤビとトゥルーにコールした。電話に出ると、すぐに俺は叫んだ。

 留守番ついでに電話の出方をトゥルーに教えておいて、良かったぜ。


「……は、はい、国道……です?」

「トゥルー!! タマゴを見付けた!! 学校の裏山まで、来られるか!?」

「はっ!? ええ!? 学校って、アルトの通っている、あの?」

「そうだ!! 分からなければ、月子に電話してくれ!!」

「わ、わかった!!」


 電話を切ると、タマゴの肩を揺さぶった。

 うっすらと、その瞳が見える。


「大丈夫か!?」

「……アルト、くん、だね……? すまない……。こんな格好を、見せてしまって……」


 俺の知る限りでは、タマゴは相当に強い戦士だ。マリンクイーンを一人で倒していたし、使える技も特殊だが、ゲーム的に言えば強そうに見える。

 戦士選抜でも、一度として辛そうな表情など見せなかった。ムサシ・シンマにも、それなりに戦う事が出来る様子だった。

 そのタマゴが、こんなにもボロボロになっている。


「誰がこんな事を……?」

「……ちょっと、ビーハイブにやられてしまってね……」


 ムサシ・シンマか? ……あるいは、それ程に強い奴が、他にも居るということ……?

 タマゴは立ち上がる事も大変なようで、俺はタマゴに肩を貸して立ち上がらせた。


「歩けるか?」

「……ああ、歩ける。だが……、『レベルを、吸われた』」


 ……レベルを? 吸われた?

 言葉の通りの意味か? ……だとしたら、意図的にレベルを下げる、あるいは奪う事ができる能力を持ったやつが、ビーハイブに居るということ……?


「話は後だ。ひとまず、トゥルーを呼んだ。俺一人じゃ、お前を家まで担いで行くのは難しい」

「すまない……」


 この上、まだ敵が増えるのか。

 やってらんないぜ。


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