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61_深まる謎です

 とにかく、ひとまずは身の安全を守ることができた……の、だろうか。山よりも大きな両壁のオッサンも逃げて行った事だし、一旦家に帰ろう。

 ……俺、今、一体何をしたんだ。全く事情は分からない。

 ポテトは気が付くと『勇者の血』に戻っていて、ただの短剣になっていた。


「さあ、帰りましょう。みなさん」


 ミヤビが元気良く手を挙げる。みかん箱に入ると、俺に合図した。押せってか。俺はやれやれと溜め息を付いて、月子とトゥルーに目配せした。

 月子も遅れて頷き、トゥルーは立ち上がった。

 俺のことを、怪訝な表情で見ている。


「……ダーリン、今のって……」

「さあ、俺にも分からん」


 ――その時だった。

 ざあ、と風が通り過ぎるような予感があった。不気味な気配を感じて、俺は背後を振り返った。そこには、屈強な身体に逆立てた短髪――『赤茶の』髪の毛を持った男。風にマントがなびいている――……

 俺は、瞬間的に『勇者の血』を構えた。月子が驚いたような顔をしている。

 こいつは、コジローじゃない。

 ムサシ・シンマだ。


「……なるほど、ね。元凶はお前だったか」


 その目線は、俺を見ていない。驚いて、視線の先を追い掛けてしまった。

 ――ミヤビ?


「……何の話でしょう?」


 ミヤビがすごく真面目な顔をしている。……こんなこと、初めてのことだ。

 そうして、ミヤビはみかん箱から立ち上がると――、俺の前に出た。

 対面する、ムサシとミヤビ。戦力差は明らかだ。ミヤビは今、シモンズを持っていない。ミヤビにどれだけの底力があるのか知らないが、少なくともこの状況ではどうしようもない。

 大体、ミヤビはハイヒート・ウォーターだったかなんだか、そんな魔法しか使えなかった筈だ。


「おかしいと思っていたんだ。何故、アルト・クニミチが『勇者の血』を持っていて、そいつを使えるのか。『勇者の血』は、お前の所から来たんだな?」


 ……何がおかしいんだ? ムサシの言っていることが、さっぱり分からない。ミヤビは何食わぬ顔で笑い、受け流している。


「うにゃ? ムサシ・シンマさん、あなたが何を言っているのか、私には分かりかねますが」

「とぼけるなよ。どこまでお前のシナリオ通りなんだ? 勇者の血をそいつが使えること、お前は知っていたんだろ」

「はて……?」


 ちょっと待て、一体これはなんのやり取りなんだ。

 よく分からないが、背筋が寒くなる話をしているような気がするぞ。

 ムサシ・シンマは俺を見ると、左手を差し出した。


「おい、『国道有人』。俺達の仲間にならないか? 一緒に、世界の謎を解き明かしに行こうぜ」


 ミヤビが俺の手を握る。……見ると、首を振っていた。


「行きましょう、有人さん」

「んん、そう言われてもな……」

「どうせ、お前は勇者だの何だのと言われているんだろ? 悪いが、大局的に見てみれば俺達が正しいのは明らかなんだ」


 そんな、空想上の話をされても。まず俺はこの会話にさっぱり付いて行けてねえって。ミヤビは聞かなくて良いと言わんばかりの態度で俺の手を引き、再びみかん箱に収まった。

 何だかよく分からないが……行くか……?

 その時、ムサシ・シンマが言った。



「――そうか。あくまでお前も、そっち側に付くんだな。なら、止めはしないが――これだけ、伝えとくぜ。俺達は、『世界の謎を解き明かしに行く』」



 ――母さんと、同じことを。

 風の音がした。立ち止まって、俺は振り返る。もう既にムサシの姿はなく、ただ両壁のオッサンに荒らされた土地だけがそこにはあった。



 家に戻ると、何だか妙に疲れてしまって、それきりだった。相変わらず、トイレの世界に行く方法はないし――……。タマゴは一体、今どこで何をやってるんだ。俺達は同盟を組んだのではなかったのか。

 ……まあ、何を考えても仕方ない。月子とは別れて、俺はトゥルーとミヤビを連れて家まで戻った。手軽に晩飯を済ませて、その日は就寝。


 ……結局、何が何だったのかも分からなかったな。


 特に最後のアレは一体何だったのだろう。俺は急に力を取り戻したかのようで、知りもしない魔法を次々と使い、オッサンを圧倒していた。

 いや、オッサンじゃない。確か、ゴーレムブラザーズとかいう名前だった。そういう名前なのだと、俺は『思い出した』。

 そして、ムサシ・シンマは俺に仲間にならないかと声を掛ける――……。


「ダーリン」


 部屋の扉を開いて、トゥルーが顔を出した。ミヤビは既に、みかん箱の中で眠っているが――……。トゥルーは枕を抱えていた。


「眠れないのか?」


 トゥルーは恥ずかしそうに、頷いた。


「子供じゃあるまいし」

「だって――!! 怖かったのよ!!」


 仕方なく、俺はトゥルーに手招きをした。嬉しそうにトゥルーは俺のベッドに潜り込んでくる。……なんか、変な気分になるんだよな、こいつと寝てると。

 まあ、俺も男だからさ。そこら辺は、本当は察して欲しい。

 どうしてこんなにも信頼されているのだろうか。


「……ねえ。ルナが、『この世界は何かがおかしい』って言っていたけど、アルトもそう思っているの?」


 ふと、トゥルーがそんな事を聞いた。


「ん? ……まあ、な」

「私、さっぱり付いて行けなくなっちゃって。『ビーハイブ』とか、『勇者』がどうのこうのだとか。アルトはレベルが桁違いのオッサン相手にものすごく強くなってるし」

「……それは、俺にも分からん」


 この世界には秘密がある。母さんも、その謎を解き明かしに出て行った。

 キーワードになっているのは、『二つの世界』、『ギャグみたいなRPG』、『二人のシンマ』、『十個の呪い』、『四種の神器』、『ルナ・セント』、『三大魔導器具』、そして『トーヘンボクの悪魔』。

 元より、情報が多過ぎるんだよ。

 ……ああ、それと『ミヤビ』な。


「……あのさ、アルト」

「なんだよ。もう眠いんだけど」

「……今日の件、あれは」


 今日の件? ……ああ、


「おもらしの件か?」

「それは無かったことにしてくださいお願いします――――!!」




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